第3話 魔導大会の予選と陰謀の兆し
魔導学院の春。校庭には緑が芽吹き、空には軽やかに飛ぶ魔導浮遊船がいくつも見える。
エリスは静かに講堂を出た。朝の光が彼女の髪を淡く照らす。学院に来てから数週間、少しずつだが、仲間たちと顔を合わせる時間が増えていた。
「今日から大会の予選が始まるわね」
リオが隣でつぶやく。剣士の訓練の合間でも、彼の視線はエリスの動きに自然と向く。
「ええ、でも焦らない。ここまで来られたこと自体が、私にとっては大きな一歩だから」
エリスは微笑み、胸の奥に小さな決意を刻む。
講堂に集合した生徒たちは緊張に包まれていた。予選は、魔法の制御能力と発想力を競うもので、単純な力の強さだけでは勝てない。
競技が始まると、光の魔法陣が床に浮かび上がり、次々と生徒たちの手から火花が飛ぶ。エリスは最初、手を震わせた。力はある、だが制御はまだ完璧ではない。
「……落ち着いて」
心の中でつぶやき、呼吸を整える。だが、隣の貴族生徒が挑発するように笑いかけた。
「序列下位のくせに、何をやるつもり?」
エリスは眉をわずかに寄せ、口元に笑みを浮かべる。
「見せてあげる、ただの下位生徒じゃないってことを」
手から放たれた光は、予想以上の速度で魔法陣を駆け抜ける。しかし、最後の瞬間、エネルギーの制御を誤り、魔法陣は暴走した。光が跳ね、周囲の小型の結界を壊し、観客席の一部から驚きの声が上がる。
「やった……!」と思う間もなく、講師の冷たい声が響いた。
「エリナ・サンド、魔力は優れている。しかし制御できなければ意味がない。再挑戦は許可する」
周囲の生徒の嘲笑が耳に刺さる。だが、その瞬間、リオがそっと肩を叩いた。
「まだ、終わりじゃない」
セリーナも、そっと薬草の小瓶を手渡す。
「少し落ち着けるはず。使ってみて」
彼女たちの存在は、何よりの励ましだった。エリスは深く息を吸い、再び魔法陣に立つ。手のひらに集まる魔力の感触を確かめながら、今度は慎重に、だが鮮やかに光を操った。
結果は、序列上位には及ばなかったが、講師や仲間たちから称賛のまなざしを受ける。
「思ったよりも速い成長だな」
カイのつぶやきが耳に届く。表情は読めないが、どこか興味を持ったような響きがあった。
その夜、寮の部屋でエリスは日記に筆を走らせる。
今日、私はまた一歩前に進めた。
失敗もあったけど、仲間がいてくれるから怖くない。
そして──誰よりも強くなる。必ず、私を追放した兄も、侯爵家も、驚かせてみせる。
窓の外には、明日の大会に向けて浮遊船が静かに揺れている。
その光景を見ながら、エリスの瞳は静かに輝いた。
──自由を手にするための、第一歩は、確かに踏み出されたのだ。




