第1話 追放の令嬢、異世界への扉
侯爵家の邸宅、絢爛たるシャンデリアの光が大広間を満たす。その中央で、次女・エリス・サンドフォードはいつものように静かに立っていた。
「次女殿、お控えなさい。貴族の座にふさわしくない振る舞いだ」
兄の言葉は、いつも冷たく、刺のように心を貫いた。
だが、今日のエリスは違った。胸の奥で燻っていたもの──屈辱と怒りが、今、静かに沸騰する。
「……もう、我慢はしません」
それは、侯爵家を去る決意の宣言だった。
──兄の陰謀によって、無実の罪を着せられた。侯爵家の次女として生まれながら、冷遇され、利用され、遂には「国に逆らおうとした」という濡れ衣まで着せられたのだ。
その夜、誰もいない庭園でエリスは深呼吸をする。手には、母から譲り受けた小さな魔導陣の書があった。
「……ここから、私の自由が始まる」
静かに円を描くと、空間が震え、光の門が開かれる。侯爵家の邸宅の奥で、異世界への扉が煌めいた。
目の前の世界は、異国の香りと、未知の魔法の気配で満ちている。石畳の街路、空を駆ける浮遊船、そして見知らぬ人々。すべてが、これまでの自分の世界とは違う。
「まずは……学院だわ」
エリスは決意を胸に、魔導学院への推薦制度を調べる。元侯爵家令嬢であることは伏せ、平民として受験を申し込むことにした。
しかし、学院では簡単な道のりは待っていなかった。序列は低く、試験で敗北し、貴族生徒たちから侮辱を受ける。だが、剣士見習いのリオ、薬師のセリーナ、謎めいた転校生カイと出会い、少しずつ信頼を築いていく。
そして、学院主催の魔導大会で──思わぬ事件が巻き起こる。
人々が騒然とする中、エリスは静かに立ち上がった。
「私が、解決します」
その瞬間、彼女の魔導の力が初めて全開する──。
光と炎、風と雷が融合し、規格外の魔法が周囲を包み込む。
──これが、追放令嬢の、異世界での最初の勝利だった。