第10章 「ハイエナと女狐」
そして私の期待に違わず、この狐耳を生やした銀髪の巫女さんは物凄く強かったんだ。
すぐに彼女の腕前を見る事が出来たのは、実に僥倖だったよ。
増援の兵士達の足音が、少し離れた所から聞こえてくる。
厳戒態勢が敷かれているのだろうか、どいつもこいつもピリピリしていたよ。
「あのハイエナの偽王女め…また新手を繰り出してきたか!」
「クソッ!道士の女だけでも手に負えないというのに今度は女狐まで!こうなれば…うおお、降神附体!」
ハイエナだの女狐だのと、私達の事を野獣呼ばわりしてくるんだから参っちゃうよね。
だけど雑兵共のお陰で、葛葉舒さんが優勢で戦っている事を知れて安心したよ。
こうして有益な情報を聞き出せて利用価値もなくなった以上、あの連中には死んで私達の戦勲になって貰うしかないようだね。
そしてどうやら、意見は一致したみたい。
「連携攻撃と行きましょう、吹田千里少佐。私の攻撃が当たった相手に追い撃ちを仕掛けて下さい。今の私は霊体なので、誤射の心配御無用ですよ!」
「ソイツは助かりますよ、深草伊奈利さん!ハイエナと女狐の恐ろしさ、降神拳の連中に思い知らせてやりましょう!」
まるで獲物を狙う肉食獣みたいに腰を落とす伊奈利さんに合わせ、私も敵から奪った二丁の拳銃を構えたんだ。
いよいよ血湧き肉躍る人間狩りの時間だよ。
まず最初に仕掛けたのは、嵐山からの使者である深草伊奈利さんだった。
「たあっ!」
裂帛の声を上げ、すぐさま戦闘態勢へ。
大地を蹴り上げ、猛然と疾走する。
腰を落とした前屈姿勢で四肢を使い駆け抜ける姿は、さながら野獣のよう。
「な、何だコイツは!人の皮を被った獣か!?」
「恐れるな、我等は勇猛果敢な青州兵!こんな虚仮威しが通用する物か!」
今度は彼奴等、曹操に帰順した黄巾賊残党を気取ってるよ。
ハッキリ言って、本当に青州兵の魂を下ろせているのか否か。
まあ、どっちが虚仮威しかは早々に分かっちゃったんだけどね。
「飯綱招魂、白狐手刀!」
裂帛の叫びを上げた次の瞬間、手刀の形にした伊奈利さんの両手が眩く発光する。
そうして美しい軌道を描きながら、青白い炎を揺らめかせたんだ。
「はあっ!たあっ!とあああっ!」
掌底に貫手、そして手刀突き。
青州兵を気取る賊軍の急所に、破邪顕正の秘技が次々と炸裂する。
「うぐっ!」
「おああ?」
そうして短い苦悶の声を上げる敵兵からユラユラと立ち上って消滅したのは、あの趙雲気取りから抜け落ちたのと同じ毒々しい紫色のオーラだったの。
どうやら「自分を青州兵だと思い込んでいる異常者」の悪霊も、綺麗さっぱり浄化されちゃったんだ。
そうなったら、次は私の出番だね。
「今です、吹田千里少佐!」
「はい、伊奈利さん!撃ち方始め!」
サッと宙を舞う狐耳の巫女に応じながら、私は両手の親指で左右の撃鉄を起こしたの。
「アッハハ、君達に鉛玉をプレゼントしてあげるよ!」
その後は、二丁拳銃が立て続けに轟かせる破裂音だけが鳴り響いたんだ。
それから数十秒後、その通路で生きている者は私達二人だけになっていたの。
紅露共栄軍の兵士達も降神拳の連中も、そして自称青州兵の悪霊も、まとめて現世からログアウトしちゃったんだ。
「伊奈利さん、本作戦には葛葉舒さんという方も参加されていますが彼女は味方です。合流されたら連携して事にあたって下さい。」
「心得ました、千里さん。崑崙仙軍の道士の方なら、私も心強い限りですよ。」
そうして降神拳の術者を探して駆け出した伊奈利さんを見送りながら、私は例によって戦場の落ち穂拾いに勤しんだんだ。
こうして敵部隊を仕留めて武器弾薬を強奪するのは良いんだけど、キルスコアが増えるのに反比例して接敵率と武器弾薬の回収率が下がるのは考え物だなぁ。
「それに鹵獲出来るのも、精度のイマイチな粗悪品ばっかりだし…あーあ、やんなっちゃうなぁ…」
一刻も早く友軍部隊と合流して、人類防衛機構の正規武装を思う存分に使いたい。
そんな思いは募るばかりだったよ。




