カレンダー越しに、これから始まるわたし達
短編『まだ、始まっていない』の続編ですが、前作を読んでいなくても大丈夫だと思います。
現代恋愛。会社にて。
廊下に置かれた段ボールには壁掛けカレンダーや卓上カレンダー、それに手帳がごちゃ混ぜに入っている。年末に向けて付き合いのある会社から配られるそれらは、自分たちの使う分を除いて一か所に集められるのは毎年恒例。
「何探してんの?」
しゃがみ込み段ボールを覗き込んでいるわたしに声を掛けてきたのは、同期の小向。背の高い彼は、金曜日の夕方だというのに疲れを感じさせない爽やかさだ。
「相川商事のカレンダー。三ヶ月分予定書き込めるから課長が気に入ってて、毎年職場に貼ってるんだけど、うちの部署は付き合いないから、回ってこなくて」
「あー、うちの課にまだあったかも。見てこよっか?」
「いいの? 助かる」
そう言いながら、ただ待っているのも気が引けて、歩き出す小向についていく。
「髪、切ったのな」
小向はわたしのことを振り向きもせずに小さく呟いた。背中の中ほどまであった長い髪を顎下長さのボブまで短くしたのは、もう二ヶ月も前だというのに。
「うん。首が寒い」
長く付き合ってきた地元の彼氏と別れて、月並みだけれど髪をバッサリ切った。寝癖を結んで誤魔化すことが出来なくなって、朝のブローは必須だ。
「凄く似合ってる」
「ありがと」
「年末年始の休み、帰省するの?」
毎年、お盆と年末は実家に帰っていたけれど、地元には別れた元カレがいる。まだ、彼の近況を平然と聞く勇気がないわたしは、今年は帰らないことに決めていた。
「どこにも行かない。引き籠る」
「俺も、予定ない」
小向の働く部署に着き、彼は足を止めて、わたしを振り向く。賑わう職場の喧騒に掻き消されそうな、彼に似合わない小さな声。
「初詣、一緒に行かないか」
突然の誘いに驚き、わたしは声が出なかった。小向はただ同じ会社の人で、ただの同期で、ただの、よく目が合う人。返事を返さないわたしから目を逸らし、小向はカレンダーを取りに行く。すぐに戻ってきた小向は気まずそうにそれを差し出す。
「お待たせ。相川商事のあったよ」
カレンダーを受け取りながら、なけなしの勇気を振り絞る。
「お正月の前に、マフラー買いに付き合って。首、寒い」
手元を見ていた小向が、わたしの顔を見て、大きく頷く。
「うん!」
目が合っては逸らしていたわたし達。約束を交わした今は、ほんの少しの間、見つあめった。
残り少ない今年のカレンダーに予定が一つ。来年のカレンダーにも、予定が一つ。来年はきっと、小向とのたくさんの予定がカレンダーを埋める。
数ある作品の中から見つけてくださり、読んでくださり、ありがとうございます。
せっかく書くなら『なろうラジオ対象6』に応募しよう! と思ったのですが、1000字、難しいですね……。