66 決勝戦
「「「ロビン様~!」」」
相変わらず、大人気の仮面の騎士『ロビン』様。
剣技大会は、いよいよ大詰め、つまり決勝戦を迎えていた。
『聖騎士』の名に恥じない実力があると、リシャール様も認められている。
さて、仮面の騎士様の想い人なのだけど。どうやら今、この会場に来ているらしい。
本当に一体、誰なのだろう? 私ではないのは明らかなのだが。
しかし、目ぼしい相手が居ないためか、ロビン様の想い人が私であるように噂は続いていた。
そんな謎の噂も今日で収束することだろう。
「聖騎士、リシャールよ! 戦う前に今一度、貴方に問おう!」
ロビン様のパフォーマンスが始まる。興行的にはありがたいので、もうお任せだ。
「君の愛する者は、私と同じか!?」
「いいや、違う! 俺が愛する者は、エレクトラ・ヴェントだけだ! 俺も貴方に問おう、仮面の騎士ロビンよ!」
リシャール様も慣れてきたのか、声を張り上げて応じる。
ああいう風に、声を通らせることができるのも、たぶん騎士団の『上』に向いているのだろうな。
「貴方の愛する者は、私と同じか!」
「いいや、違うな! 俺が愛する者の名はエレクトラではない!」
あ、きっぱり否定した。じゃあ、この試合は何なの? となる。
そう。観客的に盛り上がっていたのは『二人の男が同じ女を取り合って戦うこと』なのだ。
互いに違う相手を求めているなら、別に因縁も何もないのである。
「なんと! では、我々が戦う意味はないのか!?」
「……いいや、あるとも! 俺は、彼女に相応しい男でありたい! そのためにこそ、栄光を手にしたいのだ! いわば、これは……私の男としてのプライドだ!」
その宣言に『おおお!』という感嘆の声が上がる。
まぁ、どうせなら優勝を捧げたいと思うのは、理解の範疇よね。
……ロビン様が正体を明かせば、それだけでいいのでは?
まぁ、リシャール様と戦う決勝の相手が弱かったら盛り上がりに欠けるので、彼とリシャール様を反対側に配置していたのは英断だったと思う。
薄々と、ハリード様では、その役割を担うには力不足だろうと。そんな風に思っていたから。
ロビン様ならば、その実力に申し分ない。
「では、仮面の騎士、ロビンよ! お前の思う相手の名を聞かせるがいい! 真に俺たちの想う相手が違うのならば……互いにこの試合に懸けるものは、互いの、男としての意地のみだと! 皆に示してみせるんだ!」
確かに。いつまでもロビン様の想い人が判明していないと、モヤモヤしたものがある。
いえ、だからこそ『私かも!?』と熱狂している女性も居る気はするけどね。
ただ、こうしたやり取りにおける彼らの思惑は理解できた。
きっと、彼らは『爽やかな試合』を望んでいるのだ。
最後の最後にドロドロとした争いにしたくないと。
特にリシャール様にとっては因縁の相手が二人も続いてしまったからね……。
「……いいだろう! では、聞くがいい。私が愛を捧げる女性の名を!」
そこでロビン様は、観客席へ身体を向け、ある一点に手を伸ばした。
誰かの手を乞うようにだ。
「愛しき者の名、その名は……」
固唾を呑んで観客席が静まり返る。多くの人々の注目が集まってもなお、彼は怯えない。
そして堂々と告げられるその名は。
「──セルモニカ・リュースウェル! 現公爵の妹君! 金色の髪に、紫の瞳の貴方だ!」
ついに明かされたロビン様の想い人!
リュースウェル公爵の妹君!?
観客と共に、私はそちらに視線を向けた。
カタリナ様とエルドミカ様の隣に、彼女が座っている。
自身の名が告げられるとは思っていなかったようで、驚いた様子だ。
公爵の妹とは……。
エルドミカ・リュースウェル公爵は若い公爵だ。
爵位を継いで、まだ数年程度。ご両親は早くに引退されたらしい。
公爵位を継承するにあたって、特に不幸があったという理由ではないそうだ。
そんな公爵の妹君、セルモニカ様。結婚していなかったの? 婚約者はいないの?
カタリナ様とエルドミカ様は、確か同じ年齢だ。25歳ぐらいだっただろうか。
私より、2歳ほど年上となる。
セルモニカ公女は、私より、もっと若い方。まだ十代。
ロビン様……こと、王太子ユリアン殿下は、去年に成人したばかりだから21歳ぐらい。
隣国の王女とユリアン殿下の婚約が解消となったのは去年。
セルモニカ様は、婚約者が居なくて許されるギリギリの年齢だろうか。
当然、婚約者が居てもおかしくはなかったはずだけど……。
もしかしたら、数年前から、このようなことになると思っていた?
カタリナ様やエルドミカ様は把握していたのかもしれない。
前リュースウェル公爵閣下たちも。
「私は、今日の試合を……愛する者に捧げよう! 正々堂々と、力の限り戦うと! 君はどうだ、リシャール卿!」
ビッ! と剣を向けるロビン様。
「俺もまた愛する者に剣を捧げる! 正々堂々! 騎士として相応しくあるように!」
「ならば、我らは共に! 愛のために!」
「……愛のために!」
こうして、この大会で最も清々しくも、情熱のある決勝戦が始まったのだった。
セル『モニカ』・リュースウェル。
ポカポカ。
※年齢設定、間違っていたので修正しました。
※セルモニカの容姿が、リヴィアと被るので瞳の色を紫に変更。