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46 大会準備に奔走する

 カタリナ様の意向で開くことになった騎士たちのお祭り。

 私は、その実現のために尽力することになった。


 しかも、課せられたことは、それだけではない。

 きちんとシスターとして教会に向かい、治療士として活動するようにも言われた。


「せっかくの『女神』の名声を絶やしてはダメよ、エレクトラさん」

「……ハーイ」


 もう、ちょっとヤケ気味だ。どうして、こうなったのかしら?

 私、別にそこまで望んでいたワケではないような。

 いえ、もちろんリシャール様の腕についての責任を問いたいとは思っていたけれど。

 既に治っているから許されるものでもないはずだ。


 ただ、私の考えとしては『降りかかる火の粉』を払いのけられる立場になりたい、と。

 そんな、どちらかと言えば受け身な目標だったのだけど……。


「どの道だと思うのよね、エレクトラさんたちの場合」

「ええと?」


 私の悩んでいることを聞いて、カタリナ様はそう返された。


「なんとなく、そうだろう。このままじゃ終わらないかも。また何かあるかも。そんな風に考えて、色々なことを警戒して。それでいて『もしかしたら彼らは自分たちに、もう何の興味もないかもしれない』と期待して。……疲れるでしょう? そんなことを続けるのは」

「それは……はい」

「ね? 何の証拠もない危機感に、いつまでも気持ちを割けるようには人間は出来ていないわ。だったら、こちらから仕掛けて早々に決着を着けた方が健全! でしょう?」


 そうかなぁ。そうかも? でも、わざわざ喧嘩を売りたかったワケじゃない。


「きちんと貴方の中で、決着が着いていなかった。だから、いつまでもモヤっとした気持ちが残っている。その解決方法は、もう完全に忘れ去るか、決着を着けるかだけ。でも、相手が相手だから、ただ文句を言いに行くのは良くない。今後のこともある。だから、貴方たちが『立場』を強くしようとしたのは間違いではないわ」

「……カタリナ様」


 私は、ちょっと感動を覚える。でも。


「まぁ、それはそれとして『聖騎士』と『英雄』の対決が観たいのは本当のことだけど」

「……ソウデショウネー」


 はい。私たちの個人的なことは、さておき。

 興行的なことを考えると、騎士のお祭りの目玉対決として欠かせないのだ。

 もう、そこまでいくと、あんまり私の事情は関係ないかな、と。


「エレクトラさん、貴方は慰謝料とか欲しいの?」

「え? ええと、それは……」


 慰謝料。離縁についてだろうか。でも今更、貰ってもね。

 分かるわよ。不貞をしたのは、あちらだろうと。

 でも、速やかに離縁することを選んだのは私の方だ。

 たとえ、あちらも、そう望んでいたのだとしても。


 夢ではない。現実で起きたことのみを考えるべきである。

 現実では、不貞の噂を聞いて、私は自ら『身を引いた』のが正解だろう。

 公爵家の工作があったとはいえ、私は実害を被ることなく、速やかにカールソン家を去ったのだ。


 今、お金に困っているワケではない。

 私は充実した生活をしているので、殊更に請求したいことではない。

 また、決着を着けたいという点は、彼らを追い詰めたいという欲求じゃないわ。

 私が何もしなくても彼らは借金を背負ったらしい。


 ……だけど、だから許す、というのもまた違うだろう。

 私が望むことは……まぁ、決まっているのだけど。


「慰謝料とかは望んでいませんね。あまりにも今更過ぎます。私は自ら離縁を望んだ側ですし」


 『ただの夢』と現実は、別けて考えるべきだ。当たり前の話。


「そう。じゃあ、やっぱり正々堂々とした対決こそが、前へ進む鍵になると思うわ」

「正々堂々……」


 戦うのはリシャール様だと思うけど。


「綺麗事を通すためには、ある程度の武力や権力が必要なのよ」

「……はい」


 泣き寝入りする自分では居たくないとは思う。

 でも、そこまで拘っているかと言えば、やっぱりノーだ。

 私は、リシャール様と暮らしていければいいと思っている。


 私は、一言。謝って欲しいな、と。

 そう思っている程度なのだ、結局。

 だから慰謝料なんて欲しくないし。彼らが借金で苦しんでいても、ああそう、としか思わない。


 領民のことは気になるけれど、それにしたって領地を離れてから、もう1年以上。

 私が背負うべき責任ではなくなり、これ以上を関わろうとするのは傲慢というものだ。

 ハリード様だって貴族なのだから。責任を背負うべきは彼である。

 いざとなったら、領民だって隣のヴェント領なりに逃げていくだろう。


「まずは、興行的な、お祭り的な成功を目指して頑張りましょう? 実績は、何より貴方の自信と力になるわ」

「はい、カタリナ様」


 そんなやり取りを挟みつつ、忙しい日々が続いた。


 やれ、場所はどうする。どれだけの規模の大会にするか。

 どの騎士団に参加を呼び掛けるか。その順番は。

 予算は、どの程度か。他家の支援は呼び掛けるのか。教会との連携はどうするのか。


 領地運営とは違う。『新しい事業』を起こすような感覚だ。

 単純に、こういう大会したいんですー、と。言うだけでは実現しないと突きつけられる。


 大会の規模もそうだが、勝敗をどう納得のいく形に落とし込むか。

 公平感が無い試合など、観ている側は面白くもないし、納得感もない。


 規模が大きくなるにつれ、私たちは『チーム』を組むようになった。

 カタリナ様を後援とする、大会運営組織の結成だ。


 興行、というのは本当にそうで、ただ騎士たちが競い合うだけでは終わりそうにない。

 見物客は、どの程度を見込むのか。開催場所は、改めて『作る』ことになりそうだ。

 そう。作るのである。


 本当に大規模な話になってきた。言い出したベルシュタイン卿など『そんなつもりじゃ……』と言っていた。

 その気持ちは、よく分かる。


 ……それで、だ。


 リシャール様もそうだけど、ハリード様もまた、この大会の『目玉商品』と言っていいだろう。

 あとは参加する家の騎士団長などもそうだ。

 そんな彼らに無様な試合をされては興醒めとなる。


 だが、借金で苦しい生活をしているだろう人を無理矢理に引っ張り出して、鍛錬から離れていたのに、現役で鍛えている人とぶつけて『はい、勝ち!』なんて、余計にモヤモヤするに違いない。

 私は、彼をいじめたいのではない。


「そうねー。では、そろそろ動く(・・)かしら?」

「動く、ですか? カタリナ様」


 カタリナ様は、ニコニコと微笑んだ。


「『英雄』様に特別支援をして差し上げましょう。敵には『お砂糖』を送らなければ」


 敵に砂糖(・・)を送るは、ランス王国の諺だ。昔の騎士同士の関係でどうとか……。


「え、カールソン家に支援をされるのですか?」

「そう。大会成功のために。英雄様には予め、鍛え直していただかないと」

「それは……」

「嫌かしら?」

「……別に嫌とまでは言わないのです。どちらかと言えば、もうどちらでもいい、と」


 これは本心からだ。今、私が抱えている問題は、もうなんだか過去を押し流してしまっている。

 最近、本当に忙しかったから。『どうでもいい』は、心の底から出てくる感想だった。

 それより、ちょっとお休みが欲しいかも。治療魔法は、根本的な疲れには効かないのよね……。


「ふふ。英雄様を掬い上げたら、ファーマソン家はお怒りになるかしらね?」


 ……カタリナ様って、実は喧嘩が大好きなんじゃないかな。

 そんな風に思うのは私だけだろうか。

 ちょっとリュースウェル公爵様に聞いてみたいと思った。


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― 新着の感想 ―
そりゃ~当事者じゃない見てるだけの外野は愉しいでしょ! 中々食わせ者だねこの夫人
[良い点] 公爵夫人は面白い人だなぁ
[一言]  かたりな「なぐ、叩ける時に叩くのが蛮族の戦い方。どう愉しむかからどう綺麗に終らせるかまで考えるのが貴族の戦い方よ(嘘)」
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