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42 公爵家のお仕事

 リュースウェル公爵夫人からのお仕事。

 まず、リシャール様はシンプルに騎士団の訓練への参加だった。


 リシャール様は辺境伯家騎士団の所属であり、交流訓練という体ね。

 基礎訓練に参加した後、リシャール様の実力の確認に移るらしい。

 まずは何より実力を示さないと、そもそもの条件を満たしているか分からないものね。


 私の方は、リュースウェル公爵夫人のお手伝い? だった。

 公爵夫人のお仕事の手伝いって、していいのかどうか。


「あのぅ。知ってはいけないようなことを知ってしまいそうなのですが……」

「ええ? そんなことないわよ。貴方、公爵夫人を何だと思っているの? 普通に侍女ぐらい居るのよ?」

「それは、公爵家側の人間だからといいますか……」

「まぁまぁ。とにかくエレクトラさんは、しばらく私付きになって相談相手になってちょうだい」

「相談相手、ですか」


 公爵夫人の相談相手? 恐れ多すぎる。


「女神様だもの、私の相手ぐらいねぇ? ふふ」

「そ、それは……その。ただの呼び名であって身分を示すものではなく……。あ、あと『戦場の』ですから!」


 ここ、意外と大事である。

 私が他人より優れているらしい部分は、魔法の力となるのだけど。

 出来るのは外傷などを治せるだけだ。


 治療魔法では、病や毒は癒せない。呼び名が独り歩きすると、私ならそういったことが出来るのでは? と思われてしまう。


 だから、私は『戦場の』女神でしかないのだ。

 戦場で、戦う騎士様たちの傷を癒す。それに特化した能力。


 それにしたって、こう、別に魔獣を浄化するとか、結界を張るとか。

 そういった能力は付随していない。

 聖女だ、女神だといった噂に付随しそうな能力を求められると困るのである。


「ふふ、とにかく。貴方はしばらく私の話し相手になるの。クラウディウス卿に上級騎士になって欲しいのでしょう?」

「……はい。それは、よろしくお願い致します」

「ええ。貴方も、ずっとグランドラ領に居たのだから。今の王都や、中央について知っておいた方がいいのではない? 貴族夫人としての『勘』が鈍っているでしょう?」

「勘、ですか」

「そう。ずっと前線、ではないでしょうけれど。魔法で、身体を張ることばかり増えて。交流や情報収集だけで、様々なことを知り、今後の方策を練る頭の使い方、してないでしょう? だから勘を取り戻しなさいね」

「……はい、ありがとうございます。リュースウェル夫人」

「カタリナと呼んでいいわよ、エレクトラさん」

「それは……、いえ、カタリナ様。かしこまりました」


 ということで私は、カタリナ様のお付きになった。

 元々、私が居なくても公爵夫人の仕事はこなされていたはずだ。

 人手不足に陥った様子でもない。だから、私は『オマケ』で追加された人員に過ぎない。


 もちろん、仕事ならばサボるつもりもない。

 しばらくは本当に侍女、……ううん。『秘書見習い』みたいな状態だった。

 基本的に、カタリナ様の身の周りの世話といったことは、していない。

 私が関わるのは、お仕事関係のみだ。だから侍女ではないだろう。


 最初は、意見を求められるというより、現在の情報を頭に入れていった。

 公爵夫人なので、様々なお話が向こうから入ってくる状態だ。


「王太子殿下は、以前は隣国の王女と婚約なさっていた。でも、それは、あちらの事情で婚約解消されることになったの。それは聞いている?」

「はい……。詳しくは分かりませんが、その噂は、私たちも聞いております」


 私はリシャール様から聞いたけれど、彼は騎士団で噂になっているのを耳にしたらしい。

 辺境にそんな噂が伝わってくるレベルの大きな出来事だ。


「ユリアン殿下のお相手は、隣国の第四王女だったのだけど……」


 王太子殿下の名は、ユリアン・フォン・ランス殿下。

 この国の第一王子である。ご年齢は私よりも下で、去年に成人されたばかりだった。


「彼女、どうやら『真実の愛』に目覚められたらしいわ」

「……ええと?」

「早い話が不貞ね。あちらの貴族令息と恋仲になった、と」

「それはまた」


 どこにでも不貞話は転がっているのね。


「あちらの有責ということで、いくつかランス王国に有利な条件で協定がまとめられたの」

「そうだったのですね」

「そう。両国王家の間で話は、既についたし、賠償も決まったのだけれど。その余波が大きかった」


 まず、隣国の王女が嫁ぐ予定がなくなったことで、あちらとの関係が緊張状態になった。

 少なくとも友好的な相手、という関係とは言えなくなったらしい。

 それに伴って、隣国側の辺境伯領や近隣領地にも影響があった。


 隣国との貿易によって潤っていた部分に翳りが見え始めたの。

 とても頭が痛い問題だ。

 国や王家としての面子があるが、正直そのまま友好的な相手で居てくれた方が、貴族側としては有難かっただろう。


「王太子殿下の婚約者の席が空いたことで、いくつかの貴族家が動き始めている。また他国の王族・貴族から相手を見繕うか、或いは国内から相手を探すか。王家の方針が決まった話は、まだないわ」


 それも当然の動きだろうなぁ。年頃の娘の居る家門は、特に……。


「『聖女』なんて噂の立っていた彼女は、もしも結婚していなかったら。候補に上がっていた可能性がある。年齢も相応だもの」

「それは、また……」


 リヴィア様。彼女も聖女と呼ばれているけど、その能力は私と一緒だろう。

 結界を張ったり、魔獣を浄化したり、なんて出来るとは聞いていない。


「呼び名だけでは、王太子妃、ついては未来の王妃など務まらないと思います」

「……そうね。彼女には絶対に無理だった。彼女には、ね?」


 うん? 何か含みのある言い方。


「エレクトラさん?」

「は、はい。何でしょうか、カタリナ様」

「貴方、分かっている? 『聖女』という呼び名で候補に上がるなら、『女神』な貴方は、もっと候補に近しくなると思うの。それも、貴方は領地運営を担っていた実績もあるわ。彼女と違ってね」

「え、私ですか?」

「そう」

「流石にそれは……。だって、私。婚姻歴がある女です。王太子の伴侶にはなれませんよ」

「『白い結婚』なのでしょう? 前の旦那とは」

「それは、その。そうですが……」


 そうかもしれないけど。でも、それを信用できるか否かの話だろう。

 少なくとも『疑い』がある時点で、王族の伴侶など適格とは思えない。


 また、領地運営などの能力に関しても、あくまで私が任されていたのは、狭い男爵領だ。

 とても、この件における評価に値するとは考えられないわ。


「派閥の関係もあるからねぇ」

「派閥、ですか」

「ええ。だって今までは、隣国の王女が王太子妃になる予定だったでしょう? 国内貴族は、ある意味で平等だった。もちろん実態は別として。それが……どこかの家の令嬢が王太子妃になるなら、大きく話が異なってくる。それを避けるためには……」

「避けるためには?」

「教会から名高い女性を招き、教会と関係を強化しつつ、国内貴族を刺激しない。そんな手もあるわよねぇ」

「……いえいえ、その。私、今は実家を離れていますが、これでもヴェント子爵家の出なので! それだと、その」


 国内貴族の不公平感の払拭には役立たないだろう。

 ヴェント家を優遇するような、もの……。


「子爵家、でしょう?」

「……はい、そうですね」


 子爵家を優遇したところで、どうにもならないかぁ。

 もちろん影響がまったくないとは言えないけれど。

 伯爵家以上の高位貴族家に与える影響と比べればね……。


「要するに、貴方はまったくの蚊帳の外ではないということよ。だからこそ、ランス王国内の情報について、私の下できちんと聞いておきなさいね、エレクトラさん」

「はい、カタリナ様。ありがとうございます」


 そうは言っても、だ。流石に自分が、まだ若き王太子と関わるなんて。

 そんな風に私は思っていた。

 だいたい私には……愛する……婚約者が居ますからね!


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― 新着の感想 ―
カタリナは仕事と偽り主人公に必要な情報を与えてるし、前回は領民を気にするだろう気質も理解して警告してる。懐に入れる判断をしたからとしても、本質的に優しい人な気がする。 公爵婦人にしても、制裁相手が苦…
[良い点] 婦人いい人だなぁ [一言] もうさっさと結婚しちゃえば面倒ないんじゃない?
[一言] 使い勝手のよさげな女がいるなら婚約者がいようが「王命である」の一言で召し上げられますからね。 昔見た時代劇で、家来の美人で有名な婚約者を藩主が召し上げて側妻にして何年か後「子供が出来ないか…
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