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03 出会い

 辺境で起きた魔獣の大量発生は、深刻な事態だった。

 初動は辺境伯家の騎士団が抑えたものの、魔獣の数が多過ぎたのだ。


 なんとか持ち堪えつつ、近隣の家門からも援助を受けて、凌ぐ。

 そして、報せを聞いた中央からの援軍を待って魔獣の群れを大きく押し返す作戦。


 これが上手くいけば状況は良くなるが、失敗すれば悲惨なことになるだろう。


 ハリードを含めた援軍の騎士たちは、この押し返し作戦に参加することになった。



「大きな狼、そして蛇か……」


 陣形を整えた上でならば、まだ狼の相手は出来るだろう。

 しかし、蛇は厄介だ。こちらの陣形をするりと抜けてしまう。

 また、どちらも森の中に入り込まれると一気に討伐が難しくなった。


 連日連夜、戦いは続いていく。

 まずは防衛線の死守で手一杯だった。


 しかし、多くの援軍を得たことで休息を取ることが出来た辺境伯家の騎士団も、気力を取り戻した。


 加えて教会からの僧兵団も到着し、多くの負傷者が救われることになる。



「「「おおおおおお!!」」」


 民の生活圏から魔獣を追い出し、森へと押し返すことに成功した。

 ここから更に防壁の建造も視野に入れ、物量で対処していった。


「森へ深入りしての追い討ちではなく、防壁の建造か……」

「そうらしいぜ。木を切り倒しながら進軍するって案もあるらしいけどな」


 魔獣の全滅が出来ればいいのだが、それは現実的ではないらしい。

 また森に入り込むと、こちら側の戦力が不利になってしまう。

 戦力が減れば、また同じことの繰り返しだ。


 そのため、防壁を建造し、こちらに有利な戦場を築き上げるのだという。


「……時間が掛かる戦略を取ったものだな」


 それらを辺境伯家の騎士団のみでやれるならばいい。

 だが、実際は他の地から多くの人材を派遣した上でのことだ。


 もちろん、同じ国に住む以上は、重大な問題であるのだが。


「ハリードは、結婚したばかりなんだったか」

「ああ、結婚した翌日に来た」

「それは色々と酷いな。早く妻の元に帰りたいだろう」

「そうだな……」


 ハリードとエレクトラは、白い結婚だった。

 こうして戦場に出て、今のところ大きな怪我は負っていないが……。


 やはり、初夜ぐらいは済ませてからが良かったのではないか、と思った。

 生存本能というなら、むしろ一度ぐらい妻を抱いた方が高まる気がする。

 子供だって、ああ言われたが、そうそう不貞を疑うことなどないはずだ。


「やはり、あの話は迷信だな。まったく……」


 誰が広めたのだか。本当に迷惑だし、『損をさせられた』とハリードは思う。



 それから戦場は一進一退の攻防となった。

 魔獣たちには昼夜もないらしく、むしろ夜の方が活発に動くほどだ。


 今まで、よくも辺境伯家の騎士団だけで抑え切れていたものだと感心する。

 それでも、戦場に来て1ヶ月もすれば、だんだんとこの事態に慣れていった。


 慣れてしまえば、狼も蛇も、ただ普通より大きいだけで、そこまで強くもないのだ。

 それにハリード自身、他の騎士よりも強い方だった。


「こんな奴らなら、森に攻め入って滅ぼした方が早いだろうに」


 そう、ハリードは思う。


 ……だが、そんな考えが彼の油断に繋がった。


「なっ……!?」


 ハリードの前に新たな魔獣が現れたのだ。

 今までの四足の獣である狼ではなく。

 二足歩行で立ち上がり、鋭い爪を有した狼……ウェアウルフだった。


『キシャァァア!!』

「ぐっ!?」


 初めて見る魔獣に動揺を隠せない騎士たち。

 そうして襲い掛かられ、多くの騎士がやられていく。

 ハリードも怪我を負ってしまった。


「くそぉおおおおっ!!」


 だが、追い詰められたハリードは、その底力を発揮し、ウェアウルフを仕留める。

 そんな彼の姿に気力を取り戻した騎士団は、声を張り上げ、なんとかウェアウルフの攻勢を押し返すことに成功したのだった。


「ぐっ……うぅ……!」

「ハリード! こいつも運んでくれ!」


 ハリードは仲間の騎士に運ばれ、負傷者が収容される後衛のテントに入れられた。


 そこでは治癒の魔法を使える僧兵たちが、負傷者の世話をしている。


「うぅ……ぐ、ぅぅ」


 ハリードは、多くの負傷者と一緒にされ、治療を待つことになった。


 そして意識としては、気が遠くなるような時間、待ったあと。

 ようやく彼の治療が始まる。


「今、癒してあげますからね」

「うぅ……早く」


 朦朧とし始めた意識で、自身に掛けられる声に縋った。

 その声は女の声だった。


「う……あ……」


 女が、ハリードに手を翳すと温かな光が溢れ、そして苦痛を和らげていく。


 心から救われた気持ちになった。

 死ぬかもしれない痛みと恐怖から、その女が己を救ってくれたのだ。


「はぁ……、ああ……だいぶ、楽になった。……ありがとう」

「どういたしまして、騎士様」


 意識と視界が、はっきりし始めたハリードは、改めて己を救ってくれた女性の姿を見た。


「────!」


 ニコリと微笑むその姿は、とても美しく可愛らしく……。


「……女神だ」

「え?」


 神々しく、見えた。

 ハリードは、己は彼女に出会うために生まれてきたのだと、そう感じる。


「キミの、名前は……? 教えて欲しい」

「リヴィアと言います、騎士様」


 それが、彼らの出会いだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] これは惚れちゃうのも無理ないかもなぁ 妻とは政略結婚だし肉体関係もないからなぁ
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