表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/86

12 教会のエレン

「ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐いて……落ち着いてくださいね」


 私は、横たわる人物に対して手を翳す。

 そして意識を集中すると、ふわりと温かな光が溢れ出した。

 治療魔法。主に神に仕える教会の者が使う魔法だ。


 ()には、その才能があった。

 下位貴族とはいえ貴族令嬢として育った私は、こういう直接的な奉仕活動に縁がなかったのだ。

 だから、己の才能について今まで知らなかった。


「はい、終わりました。どうですか?」

「ああ……、随分と楽になりました、ありがとうございます、シスター」


 シスター、というのは厳密な役職ではない。

 でもまぁ、大雑把な括りで言えば、今の私はシスターか。


「はい、では、お大事に。しばらくは安静になさってくださいね」


 こうして治療魔法を使える者として、日々の職務をこなしている私。

 存外、悪くない日々だと思っている。どうにも性に合っている気がした。


エレン(・・・)、終わった? お昼の準備を始めるわよ」

「はい、分かりました」


 そう。エレン。

 それが今の私が名乗る名前だった。


 不貞を犯した旦那に追い出された哀れな『平民』の女、エレン。

 もちろん、カールソン男爵領や、ヴェント子爵領からは離れた教会に居る。


 私、エレクトラ・ヴェントは、カールソン家で元夫に離縁状を残した後、教会の保護を求めたのだ。


 そして、私は『エレン』を名乗った。

 何者かが私に対して悪意を抱いていると当たりをつけ、そして、それは教会関係者も加担している。

 あくまで推測に過ぎないことだが、おそらく確実なことだろう。

 けれど、あえて私は教会に保護を求めた。

 バレないように潜伏することと、敵の正体を少しでも知っておきたい、という願望もあった。

 もちろん、大きな危険を犯して調査をする気などはない。


 始めは上手くいくかとドキドキしたものだけど、今では、すっかりと溶け込めていると思う。

 おそらく私を陥れようとした何者かは、教会のすべてではないのだ。

 だから、一連の問題とは無関係の人々は私にとって、ただ優しく、ここは居心地のいい場所でしかなかった。


 治療魔法の才能があると見いだされ、人々の助けになる内に、今ではこれが自分の天職なのでは、などと思うほどだ。

 正直に言って、日々が充実していた。


 例の『何者』かが、もう私に興味もないというのなら、それでいいと思う。

 だって、あのままハリード様の妻であった方が、きっと私は不幸せだっただろうから。


 今では、こうなって良かったとすら思っているのよ。


「さぁ、お昼を食べたら、またお仕事ね!」


 元気良く、シスター仲間にそう笑い掛け、私は今日も平穏に生きていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 既に協会内部に入り込んでるエレンさんw うん「貴族」ってのを隠してる以外は真実だもんね。これで後から「教会へ保護求めた理由」を切り捨てれば、協会自身の失態になるし、聖女を守るためにエレン…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ