表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャム〜乙女わざ「北統麝汞流」始末記〜  作者: 遠 泳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/11

第一撃「シナモン」⑥

「ねえってさぁ」

 鮎は顔を上げた。

 さっきの金髪男が、上半身の姿勢悪くスマホを手に立っている。

「キレイだよねー。写真撮ってもいい?」

 ()けてきたのだーーたぶん、わざわざ、電車を降りてまで。

 痴漢に遭った時の3倍くらいの恐怖と嫌悪感が背筋を貫いた。すぐに立とうとしたが、男はすばやく大股で距離を詰め、鮎の両膝の前ぎりぎりの位置から見下ろしてきた。

「さっきさ、井の頭線(なか)で。合ったよね、目? オレのこと見てくれてたじゃんかー。思わず追っかけてきちゃったー」

 「くれてた」ってなんだ。語尾を伸ばすしゃべり方が気持ち悪い。全身に拡がった恐怖が今は首から上に凝集して、頭の中でぐるぐる回りはじめる。園路にはーー誰も入ってこない。自動改札の赤ランプと警告音が脳裏に浮かんだ。

「すっげえかわいいよねー。アイドルみたいじゃん? なんか(オモテ)に出てる人なの?」

「すいません…あの…」

 なんでまた謝ってるんだろう。ショップの袋を肩に掛け直し、男を押し退けるように立とうとしたら、上から片手で右肩を抑えられた。さっき駅のトイレで女性につかまれた時とは力の圧と、質が違った。ノースリーブの肩に触れた男のてのひらから、じめじめしたものが染み込んでくる気がする。


 “におい”が始まった。痴漢の時と同じくらいの強さで。


「やめてください!」

 地面を踏んで勢いよく立ち上がろうとしたつもりだったが膝にうまく力が入らず、弱々しくしか動けない。反攻は男の手に抑え込まれた。

「そういうんじゃないじゃん。声までかわいいよねー」

 主導権を取った気でいる。鮎は「いい加減にしろよ…」と精一杯凄みながら男の目を見上げたが、ニヤけ顔はまったく崩れなかった。手が肩から上腕を沿って移動し、手首を握られる。

 鮎はもう一度男を睨みつけ、「大声出します」という言葉をしぼり出す。

「まぁまぁって。ほんと写真だけだからさぁ…」

「放せよ!」

 ちゃんと大きな声が出た。男の手を振りほどこうとしたが、つかまれた手首を振ることさえままならなかった。身を屈め、「ちょっと話、しよーよ…」と覗き込むように鮎の頬に顔を寄せてくる。

 悲鳴をこらえ、鮎が「キモいんだよ!」と叫ぼうとした時、男の背後でのんびりした声がした。

「すーいません。仔猫捜してて」

 鮎も男も声のほうを向く。

 髪がちょっともしゃっとした、人の好さそうなだんご鼻の少年が立っていた。


〈続きます〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ