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「ひとまず、聖女様かどうかの確認を」
「どうやってするのかしら」
「この聖油をつけさせていただきます」
うへぇ。油塗るならまた顔洗わないといけないじゃない。ベタベタして汚れるわ。
それで彼らが帰ってくれるならと嫌々頷くと、額ではなく手に塗るらしい。
私の左手をおじいちゃん神殿長が慎重に持ち、聖油を垂らした。何も起きるはずがないと眺めていたのに、左手に白く何かが浮き上がる。
「おおっ!」
枯れ枝みたいに細いおじいちゃん神殿長が興奮して叫ぶ。ねぇ、大丈夫? そんなに震えててあなたの骨折れない?
私の左手には細長い葉っぱと細長い実の模様が浮き上がっていた。
「こ、これはオリーブの実と葉! 聖女様の証明です!」
油塗ってオリーブの実と葉が浮き出てくるってダサくない? 聖女ってそんなにダサかったの? もっとカッコいい模様にしたら? 竜とか。
白けているのは私だけで、神殿関係者は皆細いのにそんなに興奮して大丈夫?というくらい興奮しており、マーサを筆頭に控えていた侍女たちも驚きと喜びが半々だ。
あら。一人侍女がこっそり出て行ったわね。あれは宰相か王弟の手先で知らせに行くのかしら。
え、待ってよ。聖女ってそもそも何よ。神聖な女性ってだけよね? またこれであいつらから命狙われたりしないわよね?
「聖女様にはぜひ神殿にお越しいただきたい」
「え、嫌よ」
即答した私に神殿関係者は目が飛び出そうなほど驚いている。
「しかし、聖女様は神殿にいるもので……」
「聖女って建国の時の聖女しかいないじゃない。神殿にいた聖女もその一人だけでしょ。なんでそんな伝統みたいに話をしているの。何、知らないだけで聖女ってわんさかいたの?」
イライラしながら話すと、また神殿関係者は異物でも見るような表情だ。
「おっしゃる通りですが……」
「そもそも私は王女なの。公務だってあるんだし」
見てくれだけの王女で、割り振られるのは誰にでもできる公務みたいだけど。
え、昨日の公務の報告書ってマティアス書いてくれるのよね? 私、報告書の書き方なんて知らない。
「しかし……神殿には昨日から民衆が……」
「どうして?」
「聖女様に重い病や怪我を治してもらおうと……」
なんで昨日の今日で不確かな情報がそんなに出回ってるの。
「あなたたちが治せばいいでしょ」
「い、いえ。私たちがあれほど重い怪我や病気に対してできるのは祈りだけで……もっと軽症でないと治癒の力は使えません」
まさかの重病・重傷者は聖女一人に治させるスタイル。
「そもそも、あなたが聖女ですなんて言われてすぐ力が使えるわけないじゃない」
「え? 聖女様、いえ王女殿下は治癒魔法が使えないので? 建国の聖女様はすぐに使えたと……」
「使えないわよ。大体、私は聖女じゃないって言ってるでしょ」
「しかし、聖女様の証が」
「知らないわよ」
神殿関係者は困惑して頭をつき合わせて相談している。
何よ、私が悪いみたいに。
神殿関係者の中でも若い神官が進み出てきた。彼は取り出したナイフで自分の手のひらを傷つける。
「聖女様、お願いします。こちらの傷に向けて祈ってみていただけませんか」
「なんであなたが勝手に自傷した怪我を私が治さないといけないの」
神殿関係者はまたもやびっくりしている。聖女ならば治して当然という態度だ。
「しかし、聖女様は昨日フリント伯爵令息を」
「あれは事故だったじゃない。それに婚約者が死にそうだったのよ? 聖女じゃなくても治したいと思うでしょ。でも、それはあなたが好きでつけた傷でしょ? 祈ったら? 自分で治せるのにどうして伝説の聖女に頼ってるの」
「聖女様が治癒の力を使えるかどうかの確認で……」
イライラしたので、訳も分からないが神官の手を凝視する。もちろん何も起こらない。
「建国の聖女様は祈っていらっしゃったと」
「こういうこと?」
適当に頭の上で手を組む。胸の前でもいいけど、必死さが出るでしょ。しかし、何も起こらない。胸の前で祈ってもダメ、神官の手を掴んでみてもダメ。ほら、やっぱり私が聖女なわけないじゃない。
「やっぱり私は聖女じゃないみたいよ。他の人を探したら?」
「左手に証が出ているのに……」
「神殿の人々になんと説明すれば」
「訓練をする必要があるのでは?」
「しかし、他国の聖女様もすぐに使えたと……」
神殿関係者がざわざわしている中で、手のひらを切った神官はぎゅっと拳を握る。そして開いた時にはすでに傷は消えていた。
重病人連れてくるなら分かるけど、そういう神や聖女を試すような行動がダメなんじゃない? 恋人や配偶者にもお試し行動やったら嫌われるでしょ? 私が神なら、いや神ならとっても心の狭い神だろうけど。そんなことされたらイライラするもの。
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