対魔王戦
魔王は動く気配はなく、その場に留まっている。
「よし、それじゃあ作戦通りにいくよ。丸古よろしく」
「…ああ」
丸古が魔法の球体から出る。
丸古の身体は紅く染まると、丸古と水との間に僅かな空間が生まれる。
「…来い」
丸古が挑発スキルを使うと魔王の周辺にいた魔人たちが一斉に向かって来る。
魔人の姿は深海魚のような頭に全身は鱗で覆われ一見すると半魚人のようだが、背中には多数の触手を生やしていた。
「…紅蓮」
丸古は次々と魔人たちを殴っていく。
相性の悪い水の中であっても炎の威力は衰えることなく、大ダメージを与えていく。
「今のうちにボクたちもいくよ」
「おう」
丸古が魔人たちを引き付けている隙にマヤとカッペイは魔王の元に向かう。
「僕は丸古のサポートをするからミユちゃんは二人の方をお願いするね」
「はい、任せて下さい」
桃井は丸古の、ミユはカッペイとマヤのサポートに回る。
作戦は丸古が取り巻きの魔人を引き付け、カッペイとマヤが魔王と戦うという段取りだ。
桃井のサポートがあれば不利な環境でも魔人相手なら丸古一人でも対応できる。
魔王とメインで戦うのはマヤでも問題ないのだが、水中で自由に動けるカッペイの方が適任だということでマヤは今回サポート役となっていた。
「ボクがしっかりサポートするからカッペイ君は気楽にやるといいよ」
「ああ」
勇者の鎧はどんな環境にも適応でき水中でも自由に動ける上、近くであれば会話も可能と何でもありな装備だ。
魔王の近くまで来た二人。
魔王の姿がよりはっきりと見える。
「うぇ~気持ち悪い。海のモンスターってなんでこんなのばっかなのかな」
大まかな部分はクラーケンの身体であるが、所々鱗やフジツボなどで覆われており、蛸足の他イソギンチャクやクラゲの触手がウネウネと蠢いていた。
マヤとカッペイの身体が光り出す。
後方にいるミユからのバフが二人にかかる。
「まずはそのキモいウネウネから」
マヤの鎧からレーザーが放たれ、魔王の触手に次々と命中する。
その隙にカッペイが魔王の懐へ潜り込む。
「練気、白」
聖属性の力によりカッペイの全身が白く輝く。
カッペイは魔人との戦い以降、聖属性を自分のものにしていた。
「聖拳っ!」
魔王に殴りかかるカッペイ。
ドゴッ!!
轟音が水中に響き渡る。
魔王が身じろぐ。
カッペイの攻撃は魔王に効いていて、確かなダメージを与えていた。
「うんうん、いい感じだね」
再生する触手をひたすら潰しているマヤはカッペイの様子を見て満足そうに頷く。
「光よ」
「うおっ」
後方のミユがハブを重ねるとカッペイの身体は更に輝きを増す。
余りの輝きで小さなカッペイの姿は光の球体にしか見えなくなっていた。
「あはは、なんだかハエみたい」
巨大な魔王の周りを目まぐるしく動き回る光の球を見てマヤが笑う。
「誰がハエだ!」
「うわっ、聞こえてた」
マヤの悪口が聞こえていたのか、カッペイはマヤの目の前に一瞬だけやってきて反論するとまたすぐに魔王の所に戻っていく。
その後もカッペイとマヤはひたすら魔王に攻撃を続ける。
攻撃手段であろう触手を潰しているので、反撃されることなくダメージを与えていく。
「…こっちは終わったぞ」
しばらくすると丸古がやってくる。
どうやら取り巻きの魔人を全て倒したようだ。
「うーん、中々固いな。結構ダメージ与えてるんだけどな」
マヤの感覚だとそろそろ弱ってきても良さそうなのだが魔王はまだまだ健在だった。
「海系のモンスターは体力が多いからね。そのせいかも」
マヤの所に桃井たちも合流する。
「そろそろデカいの決めるか」
カッペイは拳に力を込める。
「大、聖拳!」
その威力は巨大な波となり周囲に伝播する。
直撃を受けた魔王の身体の全身にヒビが入る。
「やったかな?」
「いや、まだだね。中に何かいる」
桃井は魔王がまだ倒れていないことを伝える。
魔王の身体はボロボロと剥がれていく。
大部分が剥がれ落ちると中から本体が現れる。
「へっ、ここからが本番って訳か」
カッペイは気を引き締める。
「カッペイ君気をつけて、そいつさっきと別物だから」
「皆、水が引いていくよ」
空間を覆っていた水が引いていく。
地面に降り立つ魔王とカッペイたち。
魔王との戦いは第二ラウンドに入ろうとしていた。




