1人目の劇団員はイケメン騎士様!?(11)
◇ ◆ ◇
王宮から戻ると、泊まっている宿屋の一階にある酒場が打ち上げ会場と化していた。
「いやー面白かったぜ! 芝居なんてのは、お貴族様の娯楽だと思ってたけどよお!」
「ほんとほんと! 次やるなら絶対見るからな!」
「アーロンさんかっこよかったぁ!」
王都のみんなに、やいのやいのと私達は囲まれた。
常連さん以外もやってきていて、酒場は大繁盛だ。
少しはおかみさんへの恩返しにもなっただろうか。
お客さん達にもみくちゃにされることしばらく。
私とアーロンは、部屋に戻ってささやかな2人だけの打ち上げをしていた。
テーブルには、階下の酒場で買ってきた安い葡萄酒とお肉が置かれている。
「お芝居って、こんなにも楽しんでもらえるものなのですね」
葡萄酒をちびりと口に含んだアーロンが、幸せそうに呟いた。
「すごいでしょ?」
「はい。騎士のままでは、こんなにたくさんの笑顔を作ることなんてできませんでした」
「それは違うわ」
「え?」
「騎士が国を護っているから、私達はこうしてお芝居ができた。だから、貴男は自分の過去も、かつての仲間も誇っていい」
「マリナさん……」
「それに、騎士としてしっかり訓練を積んできたからこそ、観客を惹きつける芝居ができたわけだしね」
「あ……」
アーロンは続く言葉を絞り出せず、ただ一粒涙を流した。
きっと、彼も歯を食いしばってがんばってきたのだろう。
それがどういう生活だったのか、私にはわからない。
ただ、ここで流した涙だけは覚えておこうと思う。
アーロンは指先で涙をぬぐうと、照れくさそうにはにかんだ。
その表情に、思わずドキリとさせられる。
「マリナさん、貴族のあなたがなぜこのようなことを?
芝居におくわしいのなら、貴族を相手にした方がお金は稼げると思うのですが」
「貴族であること、平民であること。そんなことより、お芝居が好きなの。
平民だからって、お芝居を観られないのはもったいないわ。
いつまで生きられるかわからない世の中だからこそ、死ぬ前に観てほしい。
生きるのにせいいっぱいだからこそ、一時でもその苦しみを忘れてほしい」
「なぜそれほど平民に寄り添えるのです」
「うちはとても厳しい家だった。
お芝居をみたり、思い出したりする時間だけが幸せだった。
街に旅劇団が来ている時は、こっそり家を抜け出して、劇団に遊びに行ったわ。
彼らは皆、平民だった。
そこで私は、平民がどんな生活をしているか知ったの。
それでも、貴族であることの義務は果たさなければいけないと思ってた。
でももうそれも終わったわ。
だったら、残りの人生は、この『好き』を広めることに使いたいと思ったの」
黙ってうなずきながら私の話を聞いていたアーロンが椅子から立つと、壁に立てかけてあった剣を手に取った。
そのまま掲げるように剣を持ち、跪く。
「この剣、マリナ様に捧げます」
今日の演目にあったセリフだ。
「ありがとう。ならば私は家名を捨てましょう」
私もセリフで答える。
目を合わせた私達は、いたずらっぽく微笑み合った。
「さて、これからメンバーを集めなきゃね」
「人を増やすのですか?」
「2人だけだとできることもかぎられちゃうからね」
「僕はしばらく2人でがんばってもよいとは思いますが……」
「私も本当は役者じゃなくて、脚本と演出に集中したいしね。自分が出ちゃうとどうしても客観的には見られないし」
「わかりました……」
アーロンが少し顔を曇らせた。
「大丈夫、資金的に不安かもしれないけど、計算は得意なの」
さーて、ますます忙しくなるよ!
まずは少数精鋭だからね。
良いメンバーを見つけなきゃ!
お読み頂きありがとうございます。
今回で第一幕完となります。
好評なようでしたら続編を執筆したいと思いますので、ブックマークや高評価で応援いただけますと嬉しいです。