1人目の劇団員はイケメン騎士様!?(10)
◇ ◆ ◇
広場にやってきたセーラとお付きの兵士達により、私とアーロンは王宮へと連行された。
案内されたのは、牢の手前にある罪人の聴取をする小部屋だ。
テーブルを挟んで、いかつい兵士が、私とアーロンを睨んでいる。
なお、ドアの前には剣を持った兵士が2人立ち、部屋の隅ではセーラが椅子に腰掛けている。
優雅に脚を組んでいるが、にやつくのを止められないらしい。
口角がぴくぴくと上がるのに気付いては、真顔に戻るというのを繰り返している。
私のことを捕まえられて「ざまぁ」とか思ってるんだろうなあ。
「まさかセーラさんに王宮に招かれるなんてね」
あははと笑いながら、軽口を叩いてみる。
「笑っていられるのも今のうちよ。あれだけの騒ぎをおこしておいて、タダですむと思ってないですわね?」
「さあどうでしょう?」
「兵士さん! さっさとこの女を牢にぶちこんでさしあげて!」
セーラが声を荒らげた。
余裕たっぷりな私がよっぽど癪に障ったのだろう。
「アーロンさん、あなたは私に雇われるというのなら、無罪放免にできますがいかが?」
セーラってば、彼に固執してるなあ。
「いいえ、僕は既に劇団員ですので」
アーロン君えらい! よく言ったよ!
「そ、そうですの。劇団ねえ……たった2人で?」
セーラの目元がぴくぴくと震えている。
おーおー、プライドを傷つけられて怒ってる。
一度ならず二度までも、しかも今度はかなりのピンチだというのに誘いを断られたのだ。
貴族としては、相手を殺そうと思ってもおかしくない。
「これから劇団員はたくさん増えるから、楽しみにしていてくださいね」
煽っているとわかっていてのセリフである。
これくらいは言わせてほしい。
「何を言ってるんですの! あなたの劇団なんて、今日でおしまいですわ!」
「そうなんですか?」
「当たり前でしょう! 許可なく広場であんな騒ぎを起こして!」
「許可ならとってますよ」
「は? 何を言っているの?」
セーラが眉をひそめた。
「あれだけ宣伝していたんですから、許可をとっていないと事前に潰されておわりですよ」
「でも兵士が出動してたわ」
「演目にぴったりのタイミングでね」
「「あ」」
セーラとアーロンが同時に声をあげた。
もちろん、兵士達に芝居に協力してもらったわけではない。
パン屋の娘ちゃんに、「街で騒ぎが起こっている」と通報してもらったのだ。
タイミングはしっかりはかってもらった。
戦いのシーンを盛り上げるための演出である。
彼らを殴り倒すことになってしまったけれど。
「で、でも許可なんて誰に……」
「第一王子に」
「貴女にそんなコネがあるはずないわ!」
「あら、これでも元ロジャー殿下の婚約者ですもの。彼のために尽力する過程で、色々な方と出会いましたよ。第一王子から『こちらにつかないか』と言われたこともありましたね」
その時には既に、ロジャー殿下との婚約が進んでいたのでお断りしてしまったけれど。
「くっ……」
「女であることだけを武器に立ち回っていたら得られなかったコネですよ」
ちなみに第一王子、無類の芝居好きなのだ。
私の計画を話したところ、のってくれた。
舞台に割り込んできた兵士達が事情を知らなかったのは、王子がうまくやってくれたということである。
なお、王子に協力をとりつけた代わりに、今後も売上の一部を上納する約束だ。
ちなみにこれらの取引きは、ロジャーが選んだセーラを陥れようという第一王子の腹黒さでもある。
このあたりは、さすが王侯貴族だ。
さて、こうして捕まることも想定内。
手は打ってある。
外からドアがノックされ、兵士が入ってきた。
「その者達を解放するようにとのことです」
兵士がそう言うと、セーラはこちらを睨み付け、カツカツと大きな足音を立てながら部屋を出て行った。
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