1人目の劇団員はイケメン騎士様!?(1)
■■■第1幕 1人目の劇団員はイケメン騎士様!? ■■■
王宮に呼び出された私は、玉座に向かって傅いていた。
「マリナよ、そなたは聖女という立場であり、私という婚約者がいながら、行商人と関係を持ったことに相違ないな?」
ロジャー王子は、有無を言わせぬ強い口調でそう言った。
少しクセのついたブロンドに、一目見ただけで国中の女性を虜にする碧い瞳。
二十代半ばにして、第一王子と王座を争う彼こそが、私の婚約者だ。
婚約から一年、彼に尽くしてきた。
こんな時の彼が、こちらの話を聞かないことはよく知っている。
反論されると機嫌を大きく損ねることも。
しかし、今回ばかりは言わねばならない。
「そこの女に何を吹き込まれたか知りませんが、誓って私は不貞など働いてはおりません」
ロジャー殿下の隣に立つ、私より1つ年上の女を睨みつけた。
そこは私の居場所だ。
「ウソですわ。彼女が夜の街を徘徊しているという証言は多く得ていますもの」
セーラが殿下の手にそっとその白い手を重ねた。
「セーラはこう申しておるぞ」
「それは陛下のために街で情報収集を……」
殿下との関係を深めるため、長い時間をかけてきた。
淑女としての作法を学び、彼の好みを覚え、貴族のオヤジ達を相手にした立ち回りや帝王学まで。
殿下の役に立てるよう、努力をした。
本当にしたいことは別にあったのに……。
夜の街に出たのだって、わざわざお忍びで殿下の評判を聞いてまわっていたのだ。
それで殿下の助けになったことは、一度や二度じゃない。
そりゃあ、窮屈なお屋敷を飛び出したかったってのはあるけどさ……。
それを! こんなぽっと出の女に横取りされてたまるものか!
うちも伯爵家とはいえ、父が賄賂などを断る実直な性格をしているせいで、やりくりが苦しいのだ。
せっかく得た王族との縁は大事にしたい。
「証拠は揃っている。証言者もいる」
「そんなもの、いくらでも捏造できます! 私とその女、どちらを信じるのです!?」
無実なことは私自身が一番わかっている。
だから、証言者がいるというならそいつは買収された嘘つきだ。
「マリナは私の目が節穴だと?」
「いえ……決してそのようなことは……」
思ってるけど!
すごく思ってるけど!
「はぁ……残念だよマリナ。もし反省しているようなら第2婦人にでもと思ったが、難しいようだ」
「殿下! これまでずっと尽くしてきたではありませんか! どうか私を信じてください!」
そう訴えつつも、頭のどこかではわかってしまっていた。
これはもうだめなのだと。
「殿下、あのような女と同じ王宮で暮らすのはちょっと……。殿下のためにもなりませんし」
セーラーはぼそぼそとそんなことを殿下に吹き込んでいる。
聞こえてるっての。
「マリナよ、そなたとの婚約は破棄だ! 以降、王宮への出入りを禁ずる!」
「殿下! それはあまりにも!」
声を上げたのは父だ。
「これは決定だ。娘への処分は任す。厳正な対応をせよ。よいな!」
「は……」
髪に白いものがまざり始め、歳を感じるようになった父が、この一瞬で急に老け込んだように見えた。
申し訳ありませんお父様……。
「だがマリナよ、私とて慈悲はある。選別に何かひとつ好きなものをくれてやろう。申してみよ」
殿下の整った顔が、蔑みの表情で私を見下してくる。
そんな餞別なんてつっぱねたい。
私はきっと、このまま家からも勘当されるだろう。
先程は思わず声を上げてくれた父だけれど、普段の彼からは考えられない行動だ。
貴族としての道から外れた(と王族に言われてしまった)私を許しはしないだろう。
好きなものかあ。
これまで、家のためだけに生きてきたからなあ。
その時、ふと頭に浮かんだのは、小さい頃に見た旅劇団のお芝居だった。
当時は彼らに強く憧れたものだ。
決めた!
どうせ全てを失うのなら、好きに生きよう!
「彼を従者に下さい」
私が指したのは、玉座の間の門で構える騎士だった。
肩口まであるさらさらのプラチナヘアーが似合うイケメンさんである。
歳は私より少し上といったところだろうか。
「従者? 金になるものでなくてよいのか?」
暗に「これこら苦労するぞ」と言われているわけだが、余計なお世話である。
「なりません殿下。手切れ金ならいざ知らず、国にとって貴重な人材をこのような不埒者に与えるなど」
一方、なぜか慌てるセーラである。
あんたには関係なくない?
「よい、二言はない。かわいいセーラよ、国を考えてくれるのは嬉しいが、私を嘘つきにしてくれるな」
「はい……」
王族にそうまで言われてしまえば、いくら貴族の令嬢と言っても引き下がるしかない。
この殿下、腹黒女にあっさり騙されるあんぽんたんだけど、こういうところはまっすぐなのよね。
ちなみに後から知った話だけど、私が指名したアーロン君、どうやらセーラのお気に入りだったらしい。
まだお手つきではなかったみたいだから、逆に私にとられてしまった形だ。
だからあんなに焦ってたんだね。
といっても私は、彼の顔が好みだから従者に選んだわけじゃない。
さーてと、これから忙しくなるよ!
お読み頂きありがとうございます。
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