招くこの手で世界よ踊れ! プロローグ
久々に小説書きたくなって書きました。
構想自体は以前からあったもので、結構好き勝手やってます。笑
キュリエ・アーレイドは心底イラつきながら、自国の王子ラグジッタ・エル・カシュトリクの、その顔面を殴り飛ばした。
「がぶばっご!!」
奇声が玉座の間に轟き、ラグジッタ王子の身体が跳ねる。
キュリエは齢二十三の美丈夫だが、今この場に居る誰より戦闘能力が高い。
キュリエは王子の顔面を床へと叩きつけるつもりで殴っていたが、しかしその力と殺意が余りに強過ぎた為、王子の身体は上下逆さまに反転し暫し頭部を床に擦れさせ、挙句首を支点にしなりその反動で跳ねたのだった。
「王子っ!?」
「王子ぃー!?」
周囲に居たこのカシュトリク国の重鎮らが、こぞって目玉を飛び出させたが、しかし。
「大陸が誇る邪霊浄化機関ハルハラ、その使者をブチギレさせて国ごと浄化宣言食らったワケだが――」
キュリエは声だけが落ち着いた調子でつかつか歩き、うずくまる同い年のラグジッタ王子の、その最も弱った首に左足が乗った所で歩を止める。
静かな声色が言葉を紡ぐ。
「――このままじゃ近い内、国民の殆どがヤツらに浄化されるなぁ。何処かのバカが、その使者の顔面にクリームパイぶつけた所為でなぁ」
今、キュリエは冗談を言っていない。その両の眼が玉座の間全体に、これでもかと充満する怒りを放っているからだ。
今この場に居る全ての者がそれを理解する、いやさせられる。
それでもただ一人、ずば抜けたバカだけが言い返した。
「んなこと言ってもよぉ! あのヤロー『甘い菓子は人を堕落させるからこの国でクリームパイは作るな』って抜かしたんだぜ! 許せねえだろーがそんなもん! だって俺が! スイーツを食えなくなごばぁーーっ!?」
キュリエがラグジッタの見た目だけは美しい顔面を蹴ったから、最後の言葉が乱れたのだ。
「王子ぃあーー!?」
「ぉ王子っぃー!?」
重鎮達の叫びがこだまする。キュリエはそれを聞き――いつもより声の伸びが良くなるか。まあそりゃそうだよな――と冷静に思う。
「他にもあっただろ、最もらしい『難癖』が何個か。よりによって何でそれが一番に来る?」
冷徹に、見下す。
「バ、バカか。俺にはそれが最大最高にムカついたんだ。……この国は俺のもんで、その俺の国で一番良いもんって言ったら、そりゃスイーツに決まってんだろーが!」
重鎮達が顔に青筋を浮かべている。中には泡を吹いて卒倒している者さえ居る。
――何故そんなバカみたいな反論が出るのだこのバカ王子が――と、決して口には出さずに心でそう思って、こんなバカが現在この国の頂点である事実に咽び泣いているのである。
それでも。
「……分かった、俺が何とかする。何とかするしかないもんな」
キュリエはラグジッタと、あくまで対等な口をきいていた。
怒りは幾分収まっていた。それはラグジッタを蹴ったからだが。
しかし怒りを収めていくキュリエの眼は、静かな知性を湛えもしていた。
「この国内で自由に動けるようにする為の、権威ってやつを俺に与えろラグジッタ。名前は任せる、こういうのお前得意だろ?」
まるで友に向けて話すようなキュリエに、しかしラグジッタは確かに呼応する。
両脚をがくがく震わせながら、それでも力強く立ち上がる。
「へへっ、やっぱお前は何であろうと面白くしてくれるよな」
自分をここまで痛めつけた者の為に、その存在を象徴する名を与え、世に知らしめる。
これが面白くなくてなんだというのか。このラグジッタという男はバカ故の真っ直ぐな頭で、そう考えていた。
期待されているのなら、応える。彼にとってそれは美徳。
「招く者、まあ主に災いを――だな。ヤツらに対抗するならこれ位行き切ってやれ、へへっ」
「分かった、シンプルでとてもいい」
キュリエは冷静にそう応えた。
いや、正確には。
その名を胸に刻んだ瞬間に、己の戦意を冷徹に<敵>へと向けたのである。
前書きで述べた通り、書籍化を望むとかじゃなく自分の好きに書ける話として書きました。
展開の素地的には割とよくある流れなんですが、キャラと語り口で味付けしてる感じですね。
書き手としての自分に課したテーマは『よく出来た主人公がそのリソースを十分に割ける為の、説得力のあるバカを用意する』です。
説得力のあるバカって、結構作る難度高いんですよね。不快なバカと紙一重なので。
ただ私の小説には珍しく、男と男のストーリーになったので、そこは書いてて新鮮でした。
それでは!