第十一話 光と影と絡まる巡り(三)
その後、紹藍は朱麗に他の妃たちも一日ではなく数日に渡って話をし、その姿を描いたことを話した。
「私は大体いつでも大丈夫です。もし当日、突然紹藍様のお時間ができたと言う場合でも、是非一度お尋ねください」
「ありがとうございます。では……明日の午後はいかがでしょうか」
「もちろん大丈夫ですよ。お待ちしております」
こうして翌日の予定は決定した。
午後にしたのには理由がある。午前は、少なくとも朱麗の兄の一人に会うための交渉を行っておきたいと思ったからだ。
(でもお兄さんと会う方法ってどういうものかわからないし……約束を取り付け方を聞くために江遵様に相談しよう)
とりあえず部署が分かれば、そこに交渉ができるのではないか。
邪魔はしないので少しだけ話をしたいと思いながら紹藍は江遵の元に向かった。
「江遵様、お時間ございますか」
「ああ、戻ったか。赤妃の様子はどうだった」
「とりあえず今日は二枚描かせていただきましたが、一枚は赤妃様のお手元に、もう一枚はお兄さんにお渡しすることになりました」
「どう言うことだ?」
「紆余曲折ございまして、赤妃様はご家族の様子を心配されていたので、私がお兄さんの絵を描いて持っていくのと、赤妃様のご様子もお兄様にお渡ししたいと言うことになりまして」
「よくわからんが、とりあえず順調だと言うことだな」
「まあ、一応は少しは打ち解けたかと」
仲良くなったかといえば微妙な話だが、最初のとっつきにくいという印象は少し薄れている。まだまだ人となりを感じるには足りないものが多いとは思うが、朱麗という人を描くにあたり必要な情報は少しずつ入ってきていると思う。
「赤妃様の印象はどうだ」
江遵のその問いかけに、紹藍は珍しいと思った。
他の妃の時にはそのような問いかけなどしてこなかったのにと思うと同時に、あらかじめ微妙な立場のはずであるのにと気にしている雰囲気もあったので問われても不思議ではないとも思った。
「とても優しい方ですね。周囲は妃のことがとても大好きということを隠していません。美しすぎる笑顔がやや作り物のようであり、本心かどうか見えにくいことも多く感じましたが、家族を思われている気持ちは本物だと思いますし、後宮がゴタゴタしている可能性を考えればあの笑顔は完璧ですよね」
「そうか」
その返事はどういう気持ちで言ったのか、紹藍にはよくわからない。
ただ、なんとなく知っている通りかというような返事にも聞こえた。
「ところで、江遵様。先ほどお伝えした通り、赤妃様の兄君方の絵を描きたいということになったのですが、私がお会いすることは可能ですか? もし必要なら明日の午前は空けていますので、いろいろ手続きもできると思うのですが」
「ああ、それなら私が話をつけておこう。三人のうち、空きの時間ができそうな者の早い順から予定を入れておこう」
「え? ありがとうございます」
しかしそれだと午前が空いてしまうと紹藍は思ったのだが、江遵はそんな様子を見て肩をすくめた。
「お前も母に手紙でも書いたらどうだ」
「え……。手紙ですか」
「なんだ、赤妃には家族想いだと言っていたのに自分は構わないのか?」
「いえ……その、まあ環境の違いと言いますか。庶民にとって高い紙を使って送料をかけて手紙をやりとりするのって、結構な大事があった時と言いいますか……多分私がやったら、急に会いに行ったりするのと同様に何かやらかしたのかと逆に母の心労を増やすことになるかと思いますので」
一応、士族ならこうなのだろうなくらいの感覚で紹藍も禁城では過ごしているが、庶民の感覚が基礎にある。
下手に手紙を送れば、元気だと書いても本当は首になりそうだと読み替えられないかと心配しなければならない。送るとすれば、年始の挨拶か、面会の約束くらいだろう。
「そ、そうか」
「それに私は後宮に住んでいるわけではないですからね。本当に会いたくなれば、いつでも会いに行きますし、行けます」
「そうか」
同じ「そうか」という言葉でも、江遵の声は先ほどと少し色が違っていた。




