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卓也と由美シリーズ

私は「可哀そうな人」なんかじゃない

作者: リィズ・ブランディシュカ



 家の中に飾られた花を見て、由美は頬をゆるめる。


 その花は、まだ住み始めたばかりの殺風景な部屋に彩りを添えていた。


 今までは、花に特別な興味はなかった。


 けれど、とある事がきっかけで目を向ける事になったのだ。


 そのはじまりは……。






 普通の人には、普通の人にしかわからない幸せがある。


 由美はその時、そう思った。


 可哀そう。

 可哀そう。


 私の境遇を知った時、皆そう言ってくる。


 母子家庭で、母親しかいない生活が、彼等には可哀そうに見えているらしい。


 父がいないのは可哀そう。

 親子三人そろっていられないのは可哀そう。


 けれど、そんな事を言われても困ってしまう。


 由美は、別にその環境を悲しいと思った事はないのだから。


 人と比べる事はある。


 ささいな事で、父がいない生活を実感する事も。


 けれど、人が大げさに悲しむような不幸は、そこには存在しなかった。


 どうしてみんな、そんなに私を可哀そうにしたがるのだろう。


 いつも不思議でたまらなかった。


 社会人になってからは、あからさまにそう言ってくる人はいなくなったけれど、表情で分かった。


 可哀そうな人を見る目で見られるからだ。


 どうして?


 由美は、そのたびに憤りを募らせていく。


 どうして皆分かってくれないのか。


 私はぜんぜん可哀そうなどではないと言う事を。


 私はたくさんの愛情をもらって、生きてきたのに。


 でも、いくらそう伝えた所で、強がっていると解釈されてしまう。


 良い人だ、母親思いだ、そう見当違いな感想を抱かれれてしまう。


 もちろん由美が、母親を思っていう言葉も今までの中ではあった。


 けれども、それは一部だけ。


 だから由美は、次第に自分の境遇の事を人に話さないようになっていった。


 どうせ分かってもらえないから。


 私の気持ちは伝わらないから。


 しかし、そうではなかった。


 分かってくれる人がいたのだ。


 職場で働く男性、卓也という人とある日話をした。


 その日は、お世話になった上司が定年間近だから、一緒に花束を注文する事にしたのだったか。


 いつも使っている花屋が休業してしまっていたので、二人で調べて実際にその花屋に行ってみる事にしたのだ。


 そこで、母の日が近かったものだから、口に出してしまったのだ。


 そしたら、そのお母さんは幸せものだね、と言われた。


 私は嬉しくなった。


 女性一人で子供を育てなければならなくなった母親。


 その母親も由美と同じように、周りの人間からたびたび可哀そうな目を向けられていたからだ。


 卓也は優しい人間だった。


 触れ合ったその人の事を、しっかりと見てくれる人間だった。


「由美さんは、きっとお母さんの事が大好きなんですね」


 そうだ。


「二人で充実した時間をたくさん過ごしてこられたんですね」


 そう。


 誰にも伝わらなかった想いを。


 この人は分かってくれる。


 そう思った瞬間、私はとても嬉しくなった。


 その後、上司に贈る花を選び、当日の予約をとりつけた私達は会社に戻った。


 その機会から、卓也とはそれからも色々な話をする事があった。


 どれも他愛ない会話だったが、卓也と過ごす時間は他の人から与えられないぬくもりに満ちていた。


 やがて、由美が卓也に思いを告げようと決心する事になる。


 その時、由美は花を贈る事にきめた。


 だって、花は、自分の人生に彩りを与えてくれたのだから。






 新しい家で、花を眺めて過去の事を考えていた由美は、部屋にやって来た人物に声をかける。


「卓也さん、お夕飯の準備できたけど、どう?」

「じゃあ、一緒に食べようかな。用事までまだ時間があるし」





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