③
「良かったのかい、ラルフさんよ」
「まあ、仕方ないです。人生こんなものでしょう」
「愛していたのだろう、あの娘を」
「そりゃあ心から」
「戻りたくならないのかい?」
「戻れないですよ。戻ったら彼女をまた苦しませてしまう」
「身分の差ばかりはどうしようもできぬか」
「ですね……。彼女の父上のご理解があれば、まだ何とかできたのでしょうけど」
「そうだな。ほれ、今朝のコーヒーだよ」
「ありがとうございます」
「それにしても、娘を庇って崖に飛び降りるとはのう」
「咄嗟のことでしたからね」
「まあ、突き落としてくれと迫る娘も娘だが」
「彼女は精神的に錯乱してましたから。あの子の性格上、危惧はしていたのですが」
「だから、代わりに自分が崖に落ちて死んだフリする、なんて誰が考えつくだろうよ」
「これしか彼女に僕を諦めさせる方法が浮かばなかったんですよ」
「罪な男だな」
「そうかもしれませんね」
「とはいえ、娘が立ち直れていなかったらどうするつもりだい?」
「大丈夫ですよ。彼女なら」
「ほう」
「脆いところも確かにあるけれど、強い心もちゃんとありますから」
「そうかい。それじゃあ、今度の新作発表会楽しみじゃな」
「ですね。そのときはこっそり見に行こうかな、なんて」
「はははっ。見つかっても知らないぞい」
「なーんて、冗談ですよ。彼女はもう僕を忘れて生きて行くべきですから」
「それは自分に言ってるように聞こえるが?」
「ははは。さすが、ボブ爺さんだ」
「まあ、ゆっくりしていきなさいな」
「はい。ありがとうございます。では、お言葉に甘えてのんびりさせてもらいますね」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
せっかくのネット小説なので、少し変わった表現にしてみようと思い、演劇風にしてみました。
もしよければ評価等してもらえると嬉しいです。