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セルフィ・ブランフォード

 准将閣下に呼び出される。


 軍服の襟元をただすと、そのまま執務室へ向かう。


 そして三度ノックをし、許可を得、室内に入る。


 ――それと同時に僕は身をよじる。


 先ほどまで僕がいた場所に鉛玉が通過する。


 硝煙を銃口から漂わせるエルフの女は眉根をつり上げる。


「どうして私が銃を撃つと分かった?」


「その銃によって二度ほど殺されているからです」


 正直に答える。


「……二度、ということはもう一撃撃つことが分かっているのだな」


「はい」


 というと再びふわりと弾丸をかわす。


 まるで舞っているような優雅な動きだ、とはマリーシア准将の言葉であるが、このようなたわむれはいい加減にして欲しかった。


「准将、なぜ、このような真似をするのです」


「いや、貴様が本当に復活できるのか気になってな」


「できますよ。だからこうしてかわせるのです」


「しかし、私は貴様が復活するところを見ていない」


「准将だけでなく、すべての人間がそうですよ。時間が巻き戻ったと知覚できるのは僕だけです」


 だからこのような無駄なことはやめてください、銃弾を受けると死ぬほど痛いんです、と言ったが、僕はとあることを思い出す。



「実は私はこう見えても三〇〇歳を越えているんだ。今年で三〇〇と一二歳になる」



 それは僕がマリーシア准将と始めてあったときに聞き出した秘密である。


 復活能力を信じて貰うため聞き出した言葉であるが、今こそその数字を使うときなのかもしれない。


 僕はぼつりとつぶやく。


「三一二」


 その言葉を聞いた途端、リボルバーを平然と撃ち放ってくるような女の顔が一変した。


 やはり幼女のような身なりの彼女は、三一二歳という不釣り合いな年齢を気にしているようだ。


「ど、どこでその情報を……」


「准将閣下から直接聞いたのですよ。このような事態に備えて」


「く、あさはかな私め!」


 吐き捨てるように言う。


「その情報を聞いたということは生かしてはおけない。……といいたいところであるが、そういうわけにもいかない。私は貴様の能力を買って第三竜騎兵団に貴様を入隊させたのだしな」


「ですね。僕も早く前線に出たいです」


「ほう、やる気満々だな。貴様は平和主義者に見えるが」


「鶏を絞めただけで気分が悪くなるくらい血が嫌いですよ。村で一番の臆病者といわれていました」


「そんな婦女子のような貴様がなぜ、前線を望む」


「前線に出れば早く出世できるのでしょう」


「たしかにな。無論、武功を立て、生きて戦闘から帰還できればだが」


 マリーシアはそう言うと形のよいあごに軽く手を添える。


「もっとも、その点は心配ないか。なにせ復活の能力者だしな。きっと、生きてかえってくるだろう」


 しかし、と彼女は続ける。


「武功を立てられるかは別だ。貴様は最初の戦闘で超人的な活躍を見せたが、それは能力のおかげだ。次ぎもその能力を発揮できるかは分からん」


「…………」


「ドラグーンは基本的に戦列を組む。複数で戦うのだ。戦獣は騎士のように一騎打ちには応じてくれないからな」


「つまり、僕が仲間と協力して戦えるかは未知数と言いたいのですね」


「そのとおりだよ」


「たしかに僕も不安です」


「ならばその心配を払拭しようか。実は貴様が配属される第三竜騎兵団からささやかな苦情があった。泣く子も黙る第三竜騎兵団になんの実績もない馬の骨を配属するのか、と」


「気持ちは分からないでもないです。僕はたったの一回しか実戦に参加していませんしね」


「そこで貴様の腕を見せてやつらの(もう)(ひら)いて欲しい」


「といいますと?」


「要は模擬戦を行い、実力を見せつければいい」


「なるほど、竜機士らしい考え方ですね」


「理解できるか?」


「理解はできますが、納得はできませんね。でも、彼らがそうしたいというのであれば、そうするしかない」


「勝てそうか?」


「勝つしかないんでしょう?」


「良い答えだ」


 マリーシアはにやりと頬を緩ませると、僕の背中を叩き、ドラグーンが設置されている格納庫に向かうように命じた。




 ドラグーンが設置されている格納庫は基地の最深部にあった。


 ドラグーンは基本的に登録された竜機士しか乗ることはできないので奪取される心配は少ないが、それでも軍事機密の塊であった。


 古くからその国の国力はドラグーンの数で決まると言われているくらい重要な戦略兵器であり、その情報が他国に露見するのはよろしくない。


 それに奪取はされなくても爆弾を仕掛けられ、心臓部の精霊石を破壊されればどうしようもない。精霊石を破壊されたドラグーンはただの鉄の塊に戻る。


 なので格納庫は兵団ごとに分けられ、その格納庫にも二重三重のチェックを通過しないと入れないようになっている。


 無論、僕は准将から許可を得ているので、格納庫に入ることが許される。


 その格納庫に入ると、さっそく手痛い洗礼を受ける。


 竜機士の正装に着替えようとロッカーに手を伸ばすと、そこにはガムのようなものが大量に付着されていた。


 また、正装に着替え、ロッカーを抜けようとすると、途中、足を突き出してくる男がいた。


 そんな子供じみた嫌がらせは、復活を使うまでもなく避けられるが、ここまで典型的なルーキーいびりをされると今後が気になる。


 果たして自分はこの第三竜騎兵団でやっていけるのだろうか、と。


 いや、やっていくしかないのだけど。


 そんなことを思っていると、後方から笑いが漏れ聞こえる。


 どうやら先ほど足を突き出してきた人相の悪い男がなにやら悪戯を仕掛けているようだ。


 なにをやられるのかな?


 他人事のように見守っていると、声をかけてくる少女の存在に気がついた。


 彼女は、金色の髪をした彼女は、冷静な口調で語りかけてきた。


「――ユークス新任少尉、ここはあなたが所属していた歩兵団のように甘くはないわよ。やられたらやりかえさないと一生馬鹿にされる」


 ごく一般的な常識論であったので、驚く必要は一切なかったが、驚かざるをえなかった。


 驚いたのはその忠告ではなく、彼女の容姿だった。


 僕に話しかけてきた女性、僕と同年代のその女性は見慣れた目鼻立ちと髪の色を持っていた。


 数年前、幼い頃、同じ時間を共有した少女。


 ともに妹を取り返すため、悪漢の拠点に乗り込んだ少女。 


 銃弾から妹を守るために負傷した少女。


 僕を友だと言ってくれた少女がそこにいた。


 彼女は成長を重ね、その美しさに磨きをかけていた。


 黄金の清流のような美しい髪は、肩の位置で短く切りそろえられてしまっていたが、それでもその美しさは一分子も損なわれることなく、彼女はそこに鎮座していた。


僕はしばし言葉を失ってしまうが、我を取り戻すと言葉を選び、姫様との再会を喜んだ。


 軍隊に入隊して以来、他人には見せたこともないような笑顔でこう言った。


「ひさしぶりだね、ルキナ」


 その言葉を聞いたルキナは、不思議そうな顔で言った。


「ルキナ? わたしはそんな名前じゃない。わたしの名前はセルフィ。セルフィ・ブランフォード」


 彼女はそう言うと、ルークスのことを初めて見るかのようにまじまじと観察を始めた。

「面白かった」

「続きが気になる」

「更新がんばれ!」


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