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新任少尉

 後方基地にある第三竜騎兵団の兵営、そこの奥ある兵団長の執務室。


 そこには立派な机が置かれており、エルフの幼女が足を組んで座っていた。


 彼女は僕を呼び出すと、

「おめでとう、貴官は今日から晴れて士官だ。少尉として任官することになる」

 士官学校を出ていない青年がその歳で士官になるなど、異例なことなのだぞ。

 彼女はそう付け加えて、新しい階級章と銃を寄越した。


 立派な机の上に無造作に置かれる階級章と拳銃、それを受取ると、それぞれをあるべきところに収める。階級章は胸に、拳銃は腰に。


 ちなみに拳銃に触るのは生まれて初めてだった。


 拳銃は士官しか持つことが許されないからだ。


 いわば士官にのみに許された特権であった。


 ついでに僕は、士官になった特権、正式な竜機士となり、ドラグーンに乗ることを許されたもののみ知ることを許される情報を尋ねた。


「准将閣下、我々はこの戦争に勝てるのでしょうか?」


「単刀直入な問いだな。それは対外的な回答を求めているのかね。それとも真実を求めているのかね?」


「対外的な回答ならば毎週のように上官の演説やラジオで聞かされています。この戦争の終焉は近い、冬至祭までには家に帰れるだろう、と」


「その演説は三年前から流用されているな。いったい、その冬至祭とはいつのことなのだろうな。来年か? 再来年か? それとも一〇年後だろうか」


「つまり、戦線は膠着し、戦いの終わりは見えない。そういうことでしょうか?」


「ああ、その通りだよ。新任少尉よ。目下のところ、我がトリスタン王国と敵軍、マルセイユス帝国との戦争に終わりは見えない。マルセイユス帝国は禁断の秘術を使い、戦獣どもをこの世界に蘇らせ、いくつもの国を滅ぼし、この世界を手中に収めようとしているが、その野望が達成される日も存外、近いかもしれない」


「……つまり、我がトリスタン王国が負ける……と?」


「その可能性は高いな」


「しかし、我がトリスタン王国は、列強の中でも最大のドラグーン保持国だと聞いています。その国が戦獣どもを使役する悪魔の国に負けるだなんて……」


「とても信じられないか? しかし事実だよ。考えても見たまえ、ドラグーンとは我が国が作り出した兵器ではない。古代遺跡から発掘される遺物だ。ただ、我が国が昔、古代王国の首都だったから、たまたま多くのドラグーンが発掘されるに過ぎない」


 マリーシア准将はそこで言葉を句切ると、紅茶に口を付け、喉を潤す。


「発掘される。つまり、その数は有限と言うことだ。機体も騎乗者もね。一方、敵軍はドラグーンに対抗できる戦獣を無尽蔵に召喚できる。さらに付け加えれば、敵軍もドラグーンを保持している。その数は少ないが、滅ぼした国々からドラグーンを徴収し、その数を増やしつつある」


「つまり、我が軍の切り札であるドラグーンの数は日々少なくなり、敵軍の戦力は増える一方、ということですか?」


「端的に言えばそうなるな。それで戦争に勝てる、と思っている人間がいれば、そいつの頭の中を覗いてみたいね」


「ならば准将の頭を切開して覗き込まないといけませんね」


「どういう意味だ?」


 マリーシアはいぶかしげに尋ねてくる。


「だって准将はこの戦に勝つつもりでしょう? 勝つためにはなんでもやるつもりでしょう? だから僕みたいな得体の知れない男を昇進させ、ドラグーンに乗せるんだ」


「……なるほど、たしかに。私はこの期に及んでまだ敵軍に勝てないか考えている。だからお前を我が部隊に誘った。無論、貴様一人で戦局を打開できるだなんて思ってもいないが」


「それについては俺も同意です。過大な評価は困る。たしかに僕は何度でも復活しますが、ただそれだけの男でしかありません。僕が戦場で死ぬ確率は低いでしょうが、それは僕だけであって、極論をいえば僕以外のトリスタン軍が全滅して包囲されれば、僕は永遠に復活する運命を強要されるかも知れない」


「それはぞっとしない未来だな」


「ええ、考えただけで寒気がします」


「ならばそうならないよう取りはからおう。貴様の復活とやらを上手く利用し、マルセイユス帝国の連中に一泡吹かせてやる」


 彼女はそう言い切ると、その秘策を考える、それまで時間をくれ、と言い放った。


「私が秘策を考えるまでは我が部隊にとどまり、最前線で戦って貰うぞ、新任少尉」


「望むところです」


 と言えばいいのだろうか。


 やる気を見せないよりは見せた方がいいだろうと、覇気を込めてそう言ったが、マリーシアには見透かされているようだ。


「軍隊では覇気を見せるのが上官に可愛がられるコツだが。私の前では見え透いた演技はやめてもらいたいな」


「……どういう意味ですか?」


「そもそも貴様は戦争が、いや、戦いが好きではないのだろう。なのにどうして戦う?」


「戦う理由……ですか……?」


「そうだ。なにか理由があるのだろう」


「そんなこと初めて尋ねられました。この国では僕のような村人は、ただ国から徴収され、ライフルを渡され、前線に立たされるだけです。上官はもちろん、同僚にもそんなことを尋ねられたことはないです」


「たしかにな。今のこの国では兵士の命など、路傍(ろぼう)の石も同じだ。いや、石の方がまだ価値があると思っている将校もいる」


「准将閣下もその口ですか」


「質問は私がしている。ユークス新任少尉、尋ねられた質問に答えよ」


「……はい」


 と、返答すると、僕は自分が戦場に立つ理由を考えた。


 無論、初めは国に徴兵されたから戦場に立っていた、であっているはずである。


 職業軍人を志したことはなかったし、もしもこの戦争が終結すれば、さっさとと除隊して国元へ帰りたかった。


 しかし、今はそんな気持ちはない。


 何百回も死を繰り返し、同じ一日を繰り返していると、自問自答する時間が大量にあった。


 その時間を利用してたどり着いた答えが、やはり彼女を救いたい、という気持ちであろうか。

 幼き頃に出会った少女の顔を思い出す。


 紋白蝶のような色のワンピースを着た可愛らしい少女、彼女は僕とその妹の数少ない味方であった。友人であった。


 僕は、彼女の名を口にすると、幼き日のことを思い出した――。

「面白かった」

「続きが気になる」

「更新がんばれ!」


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