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覚醒

 僕の所属する第一五歩兵団は、歩兵を中心に組織された軍隊である。


 歩兵、つまりライフルや剣で武装した人間をもって、巨大な戦獣と戦わせるのだ。


 まともな思考を持つものの判断ではなかったし、正気の沙汰ではないが、それでも多くの人間が参加していた。


 戦獣には意思がない。


 ただ、彼らは人間を殺すことしか興味がないように殺戮をおこなう。


 女も子供も関係なく、彼らは人間を手にかける。


 まるでその種をこの地上から抹殺しようとしているかのように無慈悲に人間を殺す。


 ならば勝てないと分かってはいても、男たちは銃を取るしかなかった。剣を握るしかなかった。


 徴兵可能な年齢になると、男は招集され、戦場に立たされる。


 全長一〇メートル近い巨人や石化の呪いを持つ大蜥蜴、有翼の魔神。


 神話の中にしか存在しなかったはずの化け物どもが、群れをなして襲ってくる。


 兵士たちは無駄だと分かっても、武器を取り、化け物に抵抗した。


 一説では、C級の戦獣一体殺すのに、一〇人の完全武装の兵がいるといわれている。


 一度に現れる戦獣の数は、多いときに数千。


 今回の襲撃も、一〇〇〇をくだらない数の戦獣が、このトリスタン王国に攻め寄せていた。


 第一五歩兵団は戦獣の第一波を抑える役目を任された、というわけである。


 ちなみに兵団の数は五〇〇〇。ドラグーンの数は三機。


 戦獣の数は一〇〇〇。ただし、その中にはドラグーンと互角に戦える巨人タイプや魔神タイプの戦獣が多数散見されるとのことだった。


 まずまともに戦っても勝てない数であるが、後方に待機しているドラグーンが援軍にやってきてくれるはずだ。


 その数は二〇と聞く。


 一流のドラグーン乗りは一体で数百の戦獣を殺すことも可能なので、彼らがやってくるまで持ちこたえれば勝てる、そう上層部は計算しているのだろう。


 その間、第一五歩兵団の奮闘を祈る、とは、兵団長の言葉であったが、彼の悲壮感ただよう演説を聴く限り、自分たちは捨て石にされたのだろうな、と誰もが気がついていた。


 しかし、それでも第一五歩兵団の連中は必死で戦った。


 戦獣に負ければこの国は終わる。


 家族が皆殺しにされる。


 逃亡してもそれは同じだ。


 ならば巨大なガーゴイルが現れても、彼らは死ぬ気で戦うしかなかった。


 僕は彼らがライフルに弾を込め、剣を片手に突撃を繰り返す中、必死で戦場を駆け抜けていた。


「危ない!」


 後方からそんな言葉が聞こえる。


 その言葉を聞くまでもなく、回避動作に入る。


 僕はその時間、その場所に、巨大な石が投げつけられるのを知っていた。


 遙か前方にいる巨人が投げた石がそこに着弾することを知っていたのだ。


 逆に僕は後方にいる仲間にその場所から離れた方がいい、そうアドバイスをしたかったが、それはできなかった。


 二〇回前に死んだとき、そのアドバイスをしても無駄だと悟ったからだ。


 案の定、彼らは魔獣の炎を浴び、火だるまになっていた。


 何度も見ているが、その光景にはなれない。人が焼ける匂いもたまったものではなかったが、それでも僕はそれらを無視しながら、目的の場所へと向かった。


 道中、E級の戦獣。ゴブリンやオークもいたが、それらは剣で斬り殺していく。


 最小限の動作で。


 僕は彼らがどのように動き、どのような行動を取るのか、知っていた。


 彼らにも何度も殺されたからだ。


 どのオークが司令官なのか、どのゴブリンが懐に毒の吹き矢を忍ばせているのか、僕は熟知していた。


 だから、それらを回避しつつ、どうすれば生き残れるのか、それだけを考えながら、その場所に向かった。




 そこにおもむくと、見上げんばかりの巨人がいた。タイタンだ。


 神話の中だけにしか存在しなかった化け物は、ドラグーンと呼ばれる竜型兵器と対峙していた。


 ドラグーンの騎手は片手剣と盾を装備している。片手剣は特殊な機構をしており、脱着可能の刃を備えている。 


 また盾も特殊な形状をしており、ガトリング砲がはめられていた。ドラグーンの乗り手は、それを斉射し、タイタンの肉をえぐっていたが、それでも劣勢であった。


 タイタンはB級の戦獣。その実力はドラグーン並であったし、またその数も多すぎた。


 真っ白いドラグーンは、ガトリング砲でタイタンどもを射殺し、白い機体を赤く染め上げ、片手剣で次々とタイタンを刺し殺していったが、数の暴力の前にはどうしようもなかった。


 一体のタイタンに羽交い締めにされると、尻尾に括り付けられた防御障壁発生装置を破壊される。


 なんという膂力であろうか。


 ドラグーンの装甲は、鋼よりも固かったが、操縦席を開けられてはどうしようもならない。


 乗っていたパイロットはタイタンに捕まれると、そのまま握り潰された。


 タイタンの手から真っ赤な鮮血がこぼれ落ちる。


 その光景を見たのはすでに三〇回目だった。


 何度見てもなれるものではないが、目を背けることはなかった。


 以前、目を背けたとき、タイタンの存在に気がつかず、死んでしまったからだ。


 僕はこちらに気がついたタイタンの棍棒の一撃をかわす。


 かわす、といってもその棍棒は巨大で高速だ。


 なんとか避けるので手一杯だった。


 あたりに砂塵が舞う。


 僕はそれで視界が不良になったのを利用すると、敵のタイタンの前まで近づいた。


 ドラグーンの騎乗者を殺したタイタンの足に剣を突き刺す。深々と。


 タイタンは苦痛のためか咆哮を上げるが、その口にめがけ、手榴弾を投げ込む。


 弾の角度、着火時間、すべて適切だった。


 すでに何度も試しているからだ。


 完全なタイミングで手榴弾がタイタンの口に入るとそのまま爆発した。


 B級の戦獣を一兵士が殺す。


 上層部の人間が見たら、驚愕し、トリスタン王国十字勲章を授与されることは間違いないであろうが、そのようなことを話しても誰も信じてはくれないだろう。


 なので功績を誇ることなく、そのままドラグーンの操縦席へと向かった。


 そこには鮮血に染まった操縦席が残されていた。


 血の匂いは気にならなかった。すでにかぎなれていたし、何度も見てきた光景だ。


 軽く前の騎乗者に黙祷を捧げる。


 竜型騎乗兵器(ドラグーン)の鞍に乗ると機体全体が白く光る。誰かが乗れば点灯する仕組みになっているようだ。


 そして流麗な女性の声が響き渡る。


「異分子が当機に騎乗しました。当機はあらかじめ登録された人間、もしくはパスコードを知っている人間しか騎乗することはできません」


 このドラグーンに憑依している精霊は、そう言って僕を拒んだ。


 無論、そんなことは知っている。


 このドラグーンに騎乗したのは二〇回目だ。一回目からその質問は受けたし、五回目には先ほど死んだドラグーンの騎乗者から死の間際、パスコードを聞き出すことに成功している。


 僕はこのドラグーンの憑依している精霊マルムの質問を待つ。


 彼女は問うてきた。


「コーヒーには何を入れる?」


 僕はよどみなく答える。


「練乳を大さじ一杯、それに蜂蜜を隠し味で」


 その答えを聞いたマルムは、機械的な返答をした。


「認証に成功しました。貴方をこのドラグーン、ファブニール七〇二式の騎乗者として認めます」


「それはありがたいことだ」


 僕はそう漏らす。その台詞はすでに何十回も言っていた。


 何十回も言ったということは、何十回も死んだということである。


(――できれば〝復活〟というやつはこれで最後にして貰いたいものだ)


 僕はドラグーンの手綱を握りしめると心の底からそう願った。

「面白かった」

「続きが気になる」

「更新がんばれ!」


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