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【SS】シーナとフローラの女子トーク(コミックス二巻発売記念)

時期は二部終わりくらいのお話です。


 校舎屋上へ続く扉を開けると、ひやりとした風が頬を撫でた。

 このところ陽だまりを暖かく感じられる日もあるのだが、屋上に吹く風はまだまだ冷たい。


(……誰もいない)


 がらんと広い屋上。

 フローラは辺りをぐるりと見渡す。

 

 いつもならこの時間、三人で昼食をとっているその場所には、兄オンラードとその恋人シーナが待っている。

 しかし今は誰も見当たらない。


(仕方ないわね、今日は兄様がいないもの)

 

 オンラードは今朝から体調を崩し、学園を欠席している。

 症状を見るに、どうやら軽い風邪らしい。本人は「大丈夫だ、行ける」と登校直前まで粘っていたのだけれど、大事をとって無理やり寝かせてきたのだ。

 

 朝そのことをシーナに伝えたところ、ひどく心配させてしまった。

 オンラードのことで気を揉む彼女は、とても可愛らしくて。不謹慎ではあるが、兄に伝えればさぞかし喜ぶことだろうと思ってしまった。


(帰ったら兄様に教えてあげなきゃ)

  

 フローラはひとりきりで座り込むと、小さなランチボックスとお茶を広げた。一人で食べる昼食は少々寂しいが仕方ない。ここが一番落ち着くのだから。

 いざ寂しく食べ始めようとしたところで、誰もいないはずの屋上に人の気配を感じた。そして階段を登る足音が、勢いよくドアを開ける。


「──シーナ様?」

  

 思わず出入口に目やると、そこにはシーナが立っていた。

 

「あっ……遅くなってごめんなさい! 少し、先生に呼び止められてしまって」


 彼女はいつものように小さなランチを持参して、ぱたぱたとこちらへ走り寄る。

 光に透けるふわふわとしたプラチナブロンドが、わずかに乱れていた。きっと、急いで来てくれたのだろう。


「お腹すきましたよね。さ、食べましょう」

「……まさか、シーナ様も来てくださるとは思いませんでした」

「えっ? フローラさんがいるのなら、私もここで」

「兄もいなくて、私と二人きりですけどよろしいですか……?」


 今日の昼食は、一人きりで食べることになるだろうと諦めていたのに。この場所にこだわっているのは、フローラひとりだけだろうから。

 

「ええ。だって私達、お友達でしょう?」

「えっ?」

「あ、あれ? 違います!?」

「シーナ様は、私のことを友人だと……そう思って下さっていたのですか」


 意外だった。フローラはオンラードの妹で、シーナにとっては恋人の家族。ひいては未来の義妹である。彼女にとって自分はそういう存在であると思っていたし、彼女もそのつもりなのだと思っていた。

 なのに、まさかシーナが自分のことを『友達』だと思ってくれていたなんて。


「そ、そうですよね、聖女様でレイノル殿下のご婚約相手である方に私ったらなんて事を……! ごめんなさい、ちょっと仲良くなれたからって、調子に乗っておりました!」

「いえ、そういうことではなくて」


 あわてて弁解をするシーナの優しい声が沁みわたる。

 一人きりでポッカリと空いた心の穴を、彼女の柔らかな存在が埋めてくれるようだった。


「嬉しいです、私」

「フローラさん……」

「友達……ふふっ、すごく嬉しいです」

「ふふふっ……私もです」

「ふふ……」


 二人は目と目を合わせると、照れたように笑い合う。レイともカロンとも違う、シーナの優しくふわりとした眼差し。彼女がオンラードのことを抜きにして自分と向き合ってくれていることに、フローラはやっと気付かされた気がした。


「私、早くシーナ様と姉妹になりたいです」

「えっ、えっ」

「兄もシーナ様のことが好き過ぎて待ちきれないようですよ。今日なんて、風邪だというのに『休んだらシーナに会えない』『登校してシーナに会いたい』の一点張りで。休ませるのに苦労しました」


 本当に、今朝のオンラードは往生際が悪かった。寝ていたと思っていたらいつの間にかちゃっかり制服を着て、フローラと共に飛び立とうとしていたのだ。

 気持ちは分かるが大いに困った。卑怯かとは思ったものの「シーナ様も呆れるわよ」と名前を借りて、やっと諦めてくれたのだ。

 

 オンラードの様子を聞いて、シーナの頬はみるみるうちに染まり上がった。真っ赤になって恥ずかしがる姿は本当に可愛らしくて、永遠に隣から見ていたくなる。


 (兄様の気持ち、よく分かるわ……!)


「もう……! オンラード様は大袈裟なのです。学園にいらっしゃれば、いつだって会えるのに」

「でも、兄はもうすぐ卒業してしまうでしょう。最近は寂しさが募っているようで、しょっちゅうシーナシーナと嘆いていますよ」

「そうですか……」


 近頃のオンラードはため息が多い。学園では毎日のようにシーナと会えていたものが、卒業してしまえば簡単には会えなくなってしまう。そんな実感が湧いてきたのだろう。春が近づく気配に比例して、彼のため息の数も増えていった。

 

「――私も、どうしていいか分からなくて」

「シーナ様……」

「卒業すればオンラード様も忙しくなりますし、これまでのようには会えなくなりますよね……」


 シーナがシュンと目を伏せる。彼女も、兄の卒業を寂しく思ってくれているらしい。


「なにを仰ってるんですか! 兄に会いたい時は、うちに来ていただいて構いません」

「え……コバルディア家に?」

「ええ、私がお招きしますから。いつでも、それこそ毎週でも」

「そ、そんな訳にはまいりません……! さすがに図々しいかと」

  

 うろたえるシーナの手を握りしめ、フローラはぐいぐいと迫った。優しい彼女も流石に困っている。

 ただ、どうしても力になりたくて、フローラは引くわけにいかなかった。


「こういう時こそ、妹である私を利用してくだされば良いのです」

「フローラさんを利用だなんて……!」

「だって私達……お、お友達じゃないですか」


(言ってしまったわ……!)

 改めて口にすると、カアッと顔が赤くなる。けれど不思議と恥ずかしくはなくて、もっともっと言いふらしてしまいたかった。とりあえずは兄に。


「帰ったら、兄様に自慢します。シーナ様と私は友達なんだって」

「ええ……?」

「悔しがるでしょうね。『俺もシーナと友達になりたい』なんて言い出すかも」

「わ、私はオンラード様と『お友達』だなんて嫌です!」


 思いのほか大きな声が出たシーナは、真っ赤な顔で縮こまった。その様子はまるで小動物のような、甘い砂糖菓子のような……


「か、かわいい……」

「からかうのはやめてください、フローラさん……」

  

 シーナの醸し出すふわふわとした雰囲気に包まれて、幸せなひとときを過ごす。

 そんな二人を、優しい風が包み込んだ。


 

☆おしらせさせて下さい。


『自称“平凡”な癒しの聖女ですが、王子から婚約者として執着されています。』

(漫画:七里慧先生、レーベル:FLOS COMICさま)

コミックス2巻が9月5日(火)発売になります。


挿絵(By みてみん)

ピンクがふわふわで可愛らしいですね…!


単行本特典として、紙・電子書籍共にスペシャルボイスドラマが付きます。

レイ役:小野賢章さん

フローラ役:関根明良さん


七里先生の描き下ろし漫画とともに、皆様ぜひ聞いてみてください。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


また、コミックス1巻の内容をまるごとボイスコミックにして下さいました。

8/23よりYouTubeでボイスコミックが配信されております。

全6話、水曜日更新です。



詳しい情報や更新情報などは、公式Twitter(X)が早いです。

レイの甘いセリフも、フローラと兄オンラードのワチャワチャも全部聞けてしまいます。すごい…!

レイやフローラたちの声を、ぜひぜひ聞いてみてください。


フローラ達をどうかよろしくお願いいたします!

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