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再会

 大神殿へと向かう旅も最終日となったこの日。

 やっと門前町まで辿り着いた一行は、一晩休息を挟んで明日、サビドゥリア大神殿へと訪れる予定である。


 カロンは数日間ずっと、フローラ達を連れて長距離にわたる転移魔法を繰り返した。フローラと共に寝起きする旅は絶好調に見えていても、やはり魔力の消耗は著しいようで。

 ここにきて彼女にも疲労が溜まってきたようだ。宿の部屋に入るなり、ぐったりと横になっている。


「カロン様。なにか欲しいものはありますか?」

「欲しいもの……ですか」

「はい。飲み物でも食べ物でも、なんでも。用意してきますから」

 

 フローラの癒しの力がカロンの魔力まで回復出来たら良いのだけれど、あいにく魔力だけは休息することで取り戻してもらう他ない。

 ただ、少しでもカロンの役に立ちたくて。


「フローラ様にそんなこと頼むわけにはまいりません」

「いいんです。こんな時くらい甘えて下さい」

「あ、甘えて……? フローラ様に?」

「はい。カロン様がいつも私を助けてくれるように、私もなにか役に立ちたいんです」


 学園でも皆から頼られてばかりであった彼女は、もともと誰かに頼るような性格をしていないのかもしれない。

 迷惑をかけまいと意地を張るカロンの手を、フローラは優しく握る。すると疲れ切っていた彼女の顔が、恥ずかしげにフワリと緩んだ。

 照れているのか、困惑しているのかわからないけれど、カロンのこんな顔を見ることができるのは自分だけの特権だと思うと少し嬉しい。

 

「で、では……なにかフルーツを」

「フルーツですか」

「はい。さっぱりしたものが食べたいです。よろしいでしょうか」

「わかりました!」




 カロンが頼ってくれたことに張り切って、フローラは足取りも軽く宿を出た。その際カロンからは「必ず護衛を付けてくださいね」としつこいくらいに釘を刺され、言われたとおり護衛と共に町の商店へと向かう。


「もう大神殿の門前町ですし、私もそろそろ変装を解いても良いのでは……?」

「なりませんフローラ様。こんな聖女信仰のある町で突然『聖女様』が現れたら、大混乱になりますよ」


 護衛に諌められながら、フローラは茶色のウィッグを被ったまま町のメイン通りを歩いた。

 大神殿という神聖な場所に身構えていたのだが、門前町は想像以上に庶民的な町並みで。マルフィール王国の下町とどこか似ているこの町に、フローラはなんとなく親近感を覚えた。まだその聖女信仰を目の当たりにしてはいないからか、一見するだけではなんの変哲もない町のように見える。

 

 そんな町並みを見渡しながら歩いていると、先にある広場に何か人だかりが見えた。


 (……なにかあったのかしら?)


 漂う雰囲気がただ事では無いように見えて、フローラは護衛とともに広場へと近づいた。その隙間から人だかりの中心を覗き見てみると。

 横たわる男のそばで、必死に声をかける体格の良い男。聞き覚えのある声。その男の髪は赤い────


 (あの人……『エラディオ』!)


 フローラは思わず、彼のそばへと駆け寄った。エラディオはフローラに気づくと、驚いたように指をさす。


「……お前、こないだの」

「どうしたのですか。その方は」

「今、こいつが急に倒れたんだ……」


 顔を真っ赤にしてぐったりとしている男のそばで、エラディオは何も出来ずに戸惑っている。


「この町に着いてからこいつ、みるみるうちに調子が悪くなって」

「この町に着いてから……?」

「ああ、動けなくなっちまった」


 彼の言葉に、フローラはピンときた。


 エラディオ達と最初に出会ったのは港町。そして農業の町で言葉を交わして……今、ここで再び出会った。つまり、フローラ達とほぼ同じペースで移動しているということになる。

 

 ただし、フローラ達がこの速さで門前町まで到着したのは、カロンの転移魔法があってこそ。馬車や船では、とてもじゃないがこの移動速度は不可能だろう。

 ということは、同じスピードで移動している彼らも転移魔法を使って旅をしていたのではないか。そして目の前に横たわる男の様子は、まるで……

 

「このかた、もしかして魔力がかなり消耗していらっしゃるのでは? どこかできちんと休ませるべきです」

「な、なんでお前に分かるんだ?」

「症状が似ているのです、私の仲間と」


 ぐったりと力の抜けた身体に、真っ赤な顔。宿で横になっているカロンとまったく同じ症状だ。おそらくこの者もカロンのように転移魔法を繰り返し、無理がたたったのではないだろうか。


「治癒魔法で治せたら良いのですが……魔力だけは、休息して回復を待つ他無いので」

「お前、治癒魔法使えるのか」

「は、はい」

「神殿の奴らと同じだな」


 エラディオは、意外そうにフローラを眺めた。


「俺等は大神殿の客人を港町まで送ってきた帰りなんだ。こいつも魔力量は多いんだが、流石に往復はキツかったか……」

「えっ? あなた大神殿の方なのですか?!」

「ああ。でも俺達はただの衛兵みたいなもんだ。それより、こいつをすぐ休ませることにするわ。世話をかけたな」


 彼は早速、横たわる仲間を抱きかかえた。たくましい腕は、体格の良い男性一人を軽々と持ち上げる。その様子に驚きながらも、フローラはついエラディオを呼び止めた。


「あの、少しだけ待って下さい。すぐに終わりますから」


 フローラはぐったりとした男に触れると、癒しの力を彼の身体へと集中させた。手のひらから男へと伝わる白い光は、たちまちあたりを優しく包む。


「お前……」

「もう終わります、もう少しだけ」


 徐々に眩い光が消え去って。

 光の中からは、顔色を取り戻した男の姿が現れた。依然としてダラリと力は抜けきっているものの、辛い息遣いは収まって今は安らかな寝息を立てている。


「終わりました。熱は引いたはずですが、魔力は戻っていないので……休ませてあげて下さいね。それでは、どうかお大事に」

「あ、ああ」


 エラディオはフローラの治癒魔法にうろたえながらも、ざわつく広場を後にする。

 フローラも彼の後ろ姿を見送ると、再びカロンへのフルーツを探しにでかけたのだった。

 

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