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赤髪の男

 右にレイ。左にカロン。

 食堂を後にしたフローラは、美貌の二人と並んで歩く。ここでも、周りの視線を浴びながら。


「フローラ様、一度宿へ戻りませんか。出発までしばらく休憩いたしましょう。女同士、私達の部屋で」

「フローラ。せっかくですから町を散策しましょう。婚約者同士、二人で」


 両隣からにこやかに話しかけられるものの、フローラの頭上では火花が散っているように思えてならない。食堂で繰り広げられたマウント合戦は終わったかのように見えたのだが、依然としてまだ続いているようである。


 (二人とも……どうにかならないものかしら)


 レイもカロンも、互いに互いを譲らない。こういうところが、二人ともすごく似ているとフローラは思う。

 それだけでは無い。素性を隠したままじわじわとフローラに近づいた過去や、先ほどのようにフローラのことですぐ腹を立てるところだって……


 (レイ様もカロン様も、似ているのよね。気は合うと思うんだけど)


 右を見上げると、レイが柔らかく微笑んでいて。左を見上げれば、カロンが涼しげな微笑みを向ける。

 二人ともフローラにはどろどろに甘くて、そんなところもそっくりで。本当は優しい人達なのだ。だから、できるならば仲良くして欲しい。


 三人並んで歩くなか、フローラだけが突然ぴたりと足を止めた。レイとカロンは、急に立ち止まったフローラを不思議そうに振り返る。


「フローラ?」

「な、仲良くしませんか」

「フローラ様……」

「私、レイ様ともカロン様とも、ずっと一緒にいたいから──」


 フローラが二人へ訴えかけたちょうどそのとき、後方で護衛と誰かが揉める声がした。




 その声に振り向いてみると、護衛に取り抑えられていたのはなんと、食堂にいた赤髪の男であった。

 

「痛え! 俺、何もしねぇよ!」

「ではなぜ追ってきた?」


 赤い短髪に、レイでも見上げるほどの長身。そんな体格の良い彼を、護衛は軽々と取り押さえていた。素人目に見てもやはり凄い。レイは精鋭を連れてきてくれたのだろう。


「謝りに来たんだよ! うちの奴らが悪かったって……」


 護衛に羽交い締めにされ、身動きの取れない彼は苦しげに顔を歪ませている。

 彼の言葉を聞いたフローラは思わず、彼等のもとへと走り寄った。


「あの、離して差し上げてください! 悪意はなさそうです」

「ですが……」

「この方は謝りに来たと仰っています。おそらく、さきほどの……食堂での事でしょう?」


 フローラが赤髪の男へ尋ねると、彼は大きく頷いた。その通りだと言わんばかりに。

 男は護衛から腕を離され、やっと解放された身体でフローラへと向き直った。


「さっきはすまなかった。お前らのこと、笑ったりして」

「いえ……」

「あいつらも、お前らに興味があっただけなんだ。だが口が悪かった」


 赤髪の男はバツが悪そうに頬を掻きながら、こちらに向かって頭を下げる。その顔には裏もないように見えて、フローラはとりあえず彼の謝罪を受け入れることにした。


「それでわざわざ、謝罪しに追いかけてくださったのですか?」

「俺、ああいうのは嫌いなんだ。誰でも好きな奴をバカにされたらイラつくだろ。そいつらが腹を立てても当然だ」


 彼は、いつの間にかフローラの後ろに構えていたレイとカロンを交互に眺める。


「フローラ様、あまり素性の分からぬ者に近づいてはなりません」

「フローラ。ここは護衛に任せて行きましょう」


 二人は庇うように、フローラを赤髪の男から遠ざける。背後から男を睨みつける、その瞳は鋭い。既にレイとカロンは、彼を敵認識しているようだ。


「お前、フローラって言うのか。俺はエラディオ」

「エラディオ……?」

「よく見りゃ綺麗な顔だ。そいつらが取り合っても当然かもな」


 そう言いながらフローラの顔を覗き込もうとする彼──エラディオの前に、レイがグイと割って入る。


「近すぎます。やめていただけますか」

「おっ。出たな。恋人か」

「婚約者です」


 レイの背中に遮られ、フローラの姿は完全に隠れてしまった。後ろからは何も見えないが、レイの声色は聞き慣れぬ低さで。


「お前も大変だな。過保護な奴らで」

「いいえ……そんなことは」

「じゃあな、フローラ。またどこかで」


 エラディオはそう言うと、レイの影からひょいと顔を出す。そしてフローラに向かってひらひらと手を振ると、再び食堂のほうへと去っていった。


「大丈夫ですか、フローラ様」

「ええ、私はなにも」

「あの男、どこかで見たような気もするのですが……」


 心配するカロンの向こうに、エラディオの後ろ姿を見る。

 夕焼けのような赤い髪が遠ざかってゆく。


 (また、どこかで……)


 港町で、そしてこの町で。

 彼とはまたどこかで会えてしまうような、そんな気がしてならなかった。

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