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目立つ人達

 サビドゥリア大神殿へ向かう日取りは、レイのスケジュールに合わせることとなった。


 融通の利くフローラやカロンに較べ、王子であるレイが動くには色々と難しい。鬼気迫る勢いで執務や手続きを詰める彼に申し訳なく思うものの、同行してくれることにやはり心強さもあって。フローラとカロンは素直にその日を待った。


 出発の日を待つ間、大神殿出身の父は言った。

「本当に、レイノル殿下も行くのかい?」と、何度も念を押すように。


「ええ。私とカロン様二人だけでは心許ないようで」

「むしろフローラとカロン、二人だけのほうが良いんじゃないかな」

「どうして?」

「どうしてって……殿下にとっては、風当たりの強い場所だろう」


 大神殿という場所は、レイにしてみれば居心地のいい場所では無いと、父は案じているらしい。

 

 フローラは待ち望まれた『聖女』であるし、カロンは元々あちらの住人だ。二人とも神殿の神官達から歓迎されることだろう。

 しかし、レイが行くとなるとそうはいかない。彼は、聖女フローラが暮らすマルフィール王国の王子であり、そのうえ彼女の婚約者。いわば、大神殿から『聖女』を奪った憎たらしい男────


 フローラは、急にレイのことが心配になってきた。大丈夫だろうか。


「まあ……滞在も数日間だけだし、問題ないだろうけど」

  

 そのほかにも、父は大神殿についてざっくりと教えてくれた。神殿について、神官について、……ここでののんびりとした暮らしとは、まったく違う雰囲気であるらしい。 

 

「フローラ、お前は『聖女』として迎えられるのだからね。あそこでは毅然とした態度をとらないといけないよ」


 父からの言葉に、思わず身が引き締まる。

 フローラはカロンから受け取った手紙に目を通しながら、出発当日を迎えたのだった。


  

 

 そして、大神殿へと出発するその朝。


「やはり似合いますね」

「そ、そうでしょうか。なんだか久しぶりで、違和感があるのですが」

「そんなことはありません。とても可愛らしい」


 レイはフローラを見つめて、微笑ましげに目尻を下げる。

 彼の瞳に映るフローラは──茶色のウィッグに眼鏡姿。久しぶりの変装姿であった。


「ついこの間まで、その姿だったはずなのですが……妙に懐かしいですね」 

「レイ様。この変装、必要でしょうか?」

「絶対、必要です」


 彼はきっぱりと断言した。

 大神殿へ行くためには、途中、町に立ち寄ることになる。道中でフローラに何かあっては危険だからと、なるべく目立たぬようにレイからは変装を要求されてしまったのだ。

 久しぶりに身につけたウィッグと眼鏡は、なんとなく不自然な気がして恥ずかしい。もうこの姿になることはないだろうと、そう思っていたのだけれど。


「ただでさえフローラは目立つのですから。本当なら、カロンにもウィッグを被って欲しいくらいですね。彼女のホワイトブロンドも、とても目を引きます」

「私的には、レイ様もすごーく……目立つと思うんですけど」


 フローラは、まったく自覚の無さそうなレイをまじまじと見つめた。彼も、道中で目立たぬようにと一般庶民風の質素な装いではあったのだが。


(シンプルに、見た目がいいのだわ……)


  背が高い。顔が良い。そもそも、中身が並の人間と違いすぎるのだ。あきらかに一般人ではないと分かる風貌は、何を着ていても人目を引くことだろう。

 

 そしてレイのもとに集まっているのは、只者では無いと思われる護衛が四人。脇には大量の荷物。

 そんな彼等の統率を図るカロン……彼女に至っては、何故か男装をしていた。その姿は、並の男性より遥かに凛々しく勇ましい。


「カロン様は、なぜ男装を……??」

「女の姿より、男の姿であるほうがフローラ様をお守りできるでしょう」

「そういうものでしょうか……」

 

 カロンは自信満々のようだった。たしかに、男装の完成度はあまりにも高く、学園のファン達が涙を流して喜びそうな変装ではある。



 

 庶民風のいでたちをした美青年に、目つきの鋭い護衛四人。そして男装の麗人。

 目の前の集団は、この時点ですでに目立ち過ぎている気がするのだが。

 

(なんとなく心配だわ……)

 

 フローラはレイをはじめとする普通じゃ無い集団を前にして、一抹の不安を覚えたのだった。


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