お似合いなのは
カロンがイーゴを救った一件はどこからか噂が広まり、瞬く間に学園中を駆け巡った。
『魔法学園の女王』が、『魔法学園の聖女』でも救えなかった少年を助けたのだ。話題性は抜群である。
当の本人であるカロンは噂を気にするわけでもなく、彼女のスタイルを貫いたまま学園での生活を送っているようだった。
もっぱら、そんな噂を気にしているのは話題に飢えた学生達と、渦中の人物──フローラだ。
魔法学園に、今日も放課後の鐘が鳴る。
学生達がぞくぞくと帰路へ就く中、シーナがフローラの元へと駆け寄った。
「あの噂……大丈夫ですかフローラさん、カロン様との魔法練習は」
どうやらシーナも、あの噂を耳にしたらしい。皆、口々にフローラとカロンを較べては、好き勝手に話を広げる。自身も噂に振り回された経験のあるシーナは、噂によって辛い立場に晒されているフローラのことを心配しているようだった。
「心配して下さって……ありがとうございます、シーナ様。大丈夫ですよ」
「……差し出がましいかもしれませんが、もしお辛いようならカロン様との魔法練習も止めにされては……」
フローラがカロンと魔法の練習を始めてからしばらく経った。
練習を行う場所は人目が少ない裏庭──にもかかわらず、いまや大人数となっている。こうしてカロンがフローラの面倒を見ているということも、カロンを崇拝する者達の熱気を高ぶらせた。
しかしカロン本人は、完全に善意でフローラを助けてくれている。
短い時間ではあるが拙い初級魔法に付き合ってくれているカロンには、感謝しかない。
「いえ、私の魔法は相変わらずなんですが……カロン様には本当に感謝しています。お世話になり過ぎて、カロン様みたいな方を練習に付き合わせるのも申し訳ないと思うほどで」
「そうですよね。あのカロン様とですもの……」
知れば知るほど、『魔法学園の女王』であるカロンはものすごい生徒であった。
座学も実技も上位に名を連ねる彼女は、人望も厚く発言の影響も大きい。そのため教員からも一目置かれているが、それらを鼻にかける事もなく常に自然体で皆への気配りを忘れない。
加えて、魔力がなくなってしまったフローラのことを支えるカロンに、更なる称賛の声が上がっている。
「カロン様は、私とは全然違ってなにもかもが完璧で……こんなに立派な方が本当にいらっしゃるんですね」
「なにを仰ってるのですか。フローラさんだって、立派で素敵ですよ? レイ様とお似合いです」
「そうでしょうか……」
フローラは俯いたまま、シーナの言葉を素直に受け取ることが出来なかった。
卑屈になっていることは自覚していた。けれど、毎日のように頑張ってみても、カロンのお手本を見せてもらい真似してみても、依然としてフローラの魔力は戻らない。座学だってなんとか毎日頑張って、いつだって必死で……
それに引き換え、頭も良く魔力も強く、人望も兼ね備えたカロン。
傍にいればいるほど、フローラは彼女と自分を較べてしまっていた。
(もし、私がいなければ、私が名乗りあげなければ……カロン様のような方がレイ様の隣に並んでいたのかしら)
レイの婚約者騒動の際、学園内で流れた噂を思い出す。
あの時、カロンは婚約者候補として名前が挙がっていた。ホワイトブロンドの美しい髪に、グリーンの瞳、治癒魔法も会得済み……彼女はマルフィール王国が出した御触れそのものの姿をしている。フローラと同じように。
ふと、隣のシーナを見てみる。
「……? フローラさん?」
シーナも以前は家族に強いられ、髪をホワイトブロンドに染めた一人であった。
しかし今は、地毛の色……プラチナブロンドに染め直したりして、徐々に元来の姿へと戻りつつある。ふわふわと光に透けるプラチナブロンドは、彼女をより可憐に輝かせていた。
「な、なんですかフローラさん。じっと見て」
「シーナ様は、もうホワイトブロンドやめたのですね」
「ええ。もうホワイトブロンドである必要はないですもの……」
フローラの問いかけにシーナは首を傾げて考え込むと、なにかに思い至ってしまった……というように視線をさ迷わせた。そしておそるおそる、フローラに目配せをする。
そんなシーナに、フローラも気まずい表情を浮かべると、肯定するように小さく頷いた。
そうなのだ、カロンはまだ────
シーナとモヤモヤとしたまま歩みを進めれば、いつの間にかそこは校門だった。
「フローラ、おかえり」
生徒達が遠巻きに見つめるなかで、レイは今日もフローラの帰りを待っていた。
ところが、今日はレイのとなりにカロンがいるではないか。レイと話をしていた彼女は、フローラの姿に気付くといつものようにフッと微笑んだ。
「フローラさんはこれからレイノル殿下とお城なのよね。ではまた明日」
そう言うと今度はレイに向かい合い、「それでは失礼いたします」と会釈してから華麗に去って行く。
揺れるピアス。たなびくポニーテール。
実力と、自信に満ちた後ろ姿──
その姿を見ていた人だかりから、確かに聞こえた。
「レイ様とカロン様、お似合いだったわね」と言う声が。




