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魔法学園の女王①

 レイからのど派手な送迎を受けた翌日。

 フローラは再び注目の的となってしまった。


 伝承の聖女のような目立つ容姿に、強い魔力をもっていた『魔法学園の聖女』フローラ。


 ウィッグを取り去った当初、フローラは朝から晩までずっと注目を浴び続けた。それも仕方がないかもしれない、彼女は突如として現れた『探し人』──王子の婚約者だったのだから。


 しかしその姿も時と共に馴染んでゆき、学園でもフローラへの関心は落ち着いてきていたはずであったのに。昨日のお迎え騒動で、再び脚光を浴びることになってしまった。

 さらに言えば、あれだけ強い魔力を持っていたフローラの異変も合わせて、学園中に知れ渡って──


「講義中、まったく魔法が使えていなかった」

「転移魔法も使えなくなったらしい」


 昨日あの場に居合わせた生徒達や、フローラと同じ講義を受ける者達から、彼女の魔力が弱くなったということが学園中に知れ渡ったのである。

 改めて、噂が駆け抜けてゆくスピードに戦慄していたフローラだったのだが──




「フローラさん、不便は多いかもしれないけど頑張って」

「あ、ありがとう」

「俺達と一緒に魔法の勉強してみる?」

「え、ええ」


 それからというもの、校舎を歩けば必ず誰かから声をかけられる。講義で困っていれば、助けてくれる。

 生徒達は案外、魔力が弱くなってしまったフローラに同情的な反応を見せたのだった。


 あれだけ桁違いな魔力の持ち主であった人間が、突然なにも出来なくなってしまったのだ。皆から憐みの目を向けられても無理はない。

 むしろ魔力の弱くなった『平凡』なフローラには以前よりも親しみを感じるようで、生徒達からは好意的に話しかけられることも多くなった。


 ただし、一部を除いて。




「レイノル殿下を迎えに来させるなんて」

「図々しくない?」

「でもなんかあの人、魔法が使えなくなったんでしょ?」

「えー、それってもうただの人じゃん」

「それでも、まだ婚約者なの?」

「時間の問題なんじゃない?」


 (あの……聞こえてますよ……)


 まあ……聞こえるように言っているのかもしれない……いつものように、フローラとはほとんど距離も取らず口にしているのだから。

 後ろから聞こえてくる女生徒三人組の陰口に、フローラはほとほとうんざりさせられた。


 だって、一度や二度ではない。こういった陰口は悪意のあるものから無意識であろうものまで、これまでに何度も耳にしていた。


 しかも言われていることはすべて図星だった。

 仕方がないとはいえ、王子であるレイに送り迎えをしてもらうなんて図々し過ぎるし、魔法が使えなくなったフローラはまったくもって『ただの人』だし、このままでは婚約者でいられるのも時間の問題かもしれない……


 レイはああ言っていたけれど、陰口が聞こえれば聞こえるほど、フローラの心はぐずぐずになってゆく。




「ちょっとあなた達。フローラさんに失礼よ」

「カロン様……!」


 そんな時、女生徒達の陰口に凛とした声が割り込んだ。

 振り向くと、そこには美しい女生徒が厳しい表情で立っていた。


「カロン様」と呼ばれるその人は、すらりとした長身に切れ長の美しい眼差し、そして輝くホワイトブロンドのポニーテール。


 (カロン……あれ、この方って……)


 カロンという名前には聞き覚えがあった。

 それはまだレイが在学中。生徒達の噂から派生した、レイの婚約者候補騒動があった時だ。


『今、王子の大本命は二年生のシーナ。次点が三年のカロン、一年のアルセらしい』


 あの時、兄オンラードがどこからかそんな嘘情報を仕入れてきたのだ。噂による婚約者候補の三人は皆ホワイトブロンドの髪にグリーンアイで、治癒魔法を習得した美人、と聞いていた。

 そのうちの一人がシーナ。現在は、オンラードの愛する恋人だ。そして……


 (この方が、カロン様)


 確かに涼しげな横顔が美しく、佇まいも洗練されたもののように感じる。なにより、陰口をたたく彼女達にきっぱりとものを言えるその人柄、存在感。陰口三人組も、カロンには一目置いているようだった。


 三人組の彼女達がバタバタと逃げ去って行くのを見届けると、カロンはやれやれといったように少し首をかしげる。そして、くるりとフローラへ向き合うとフッと微笑んだ。


「大丈夫? あんなの、気に病むこと無いのよ」

「あ、ありがとうございますカロン様。助けて下さって……」

「下級生を助けるのは上級生の務めよ。気にしないで」


 カロンはそれだけ言うともう一度にっこり笑い、ポニーテールをひるがえして去って行く。揺れて煌めくピアスに、さわやかな残り香。


 フローラは、その後ろ姿を惚けたように見送った。

 それは何とも清々しい後ろ姿だった。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 連載再開なさっているのに先程気付いて追い着いたところです。 大ごとですね。 主人公たちが道を開いていくのを楽しみにしています。
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