ただ歩くのが辛い
移動教室は嫌い
ただ歩く
ただただ歩く
視線はどこにやるのが正解? 前を見る? それとも足元?
苦痛の時間
今は行き
そして帰りも
平気なフリをする
なんとも思っていない、誰がなんと言おうと平気
フリ……ただのフリ
全然平気なんかじゃない
前を行く人、後ろからついて来る人、すれ違う人
気配が、話し声が、笑い声が、全てが自分に向けられているような錯覚
分かってる
あの人もこの人もあの子達もこの子達も、誰も自分になんて興味無いこと
皆のキラキラした瞳には、自分はただの背景としか映っていないこと
その他大勢でしかないこと
思い上がっている訳じゃない
ただの自意識過剰
ちゃんと分かっているのに
朝と夕方の行き帰りは空を見るのが好き
雲の流れを見るのが好き
太陽からの細長い光の線とか、うっすら見える白色の月とか、ちっちゃな飛行機にヘリコプター、コンクリの割れ目から生える雑草やプランターの花や虫や鳥を見るのが好き
用水路の中を泳ぐ魚群を見るのが好き
雨の日は傘や地面を跳ねる雨の音が好き
水溜まりを踏まないように避けて歩くのがアクションゲームみたいで好き
いつも同じものなんてなくて、日々移ろって、飽きることなんてない
だから楽しい
教室の席は好き
授業の合間は読書にどっぷり浸かれる
宿題が出れば休憩時間にすればいい
眠たくなったら頭を机に突っ伏して目を閉じる
友達がいる人は大変
友達とお喋りしなきゃいけないから、友達からトイレについて来てって誘われるから
でも私は違う
時間を有意義に使うことが出来る
授業で班を作れって言われると、どうしようかなって少し困る
でも、時間が経てば班がある程度出来てきて、どこかの班は人数が足りなくなるから、自分だけが1人ってことにはならない
必ずどこかの班に入れてもらえるから
給食の時間は黙々と食べる
ただ黙々と、もぐもぐと、黙々と
パンをちぎって形を作る
時々指でぎゅっと摘まんだりして整えて、爪の先っちょで凹ませたりして
これはウサギ……いや、熊?
ご飯の日も同じ
箸でご飯の位置を移動させて、高さを出したり、押さえて表面を平らにしたり
犬……いや猫……かな?
掃除の時間はひたすら掃除
ただただ掃除、疲れた日にはだらだら掃除
でも、移動教室だけは苦手……嫌い
変わらない景色、自分の視線が定まらない
前の人の背中?
斜め前方?
歩幅が狂う、歩く姿勢も、何もかも
ざわざわとした学校の喧騒が、さざめきが、なだれ込むように、どっと押し寄せて、押し潰される気がして
でも、そんな気持ちを自分の中に押し込めて、隠して、ひた隠して
平気
誰がなんと言おうと平気
誰も自分を見ていないのは分かっているのに
ちゃんと平気に見えていますようにって、願いながら歩く
イラスト:みこと。様
イラストは みこと。様が描いてくださいました♪
可愛い女の子を見ると沈んだ心も浮上します!
素敵なイラストを有り難うございました(*´ー`*)
●異世界恋愛作品『愛ある結婚を望む令嬢』 https://ncode.syosetu.com/n6750hz/
にも みこと。様 に描いていただいたイラスト有ります♪