blue. 02(ハヤブサ)
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案件:機械操作のためのメディアコンテンツ・制作。図と操作で解説する。画面構成分かりやすく。
各種素材制作:イラスト・デザイン・レイアウト・動作アニメ・写真加工エトセトラ。描いても描いても終わらない。大ボリューム案件。四六時中モニタの凝視で頭痛がする。
「急がないでいいぞ」友人(相方)が云う。
でも、そっちを待たせては悪い。
「気にしないぞ」
だって納期に間に合わない。
「大丈夫だぞ」
そうだろうか。
「こっちはできるところからやってるし、レウアウトは先に上げて貰ってるから、ボタンとかクリックポイントは適当に置いて(絵)上がった分からはめ込んで調整する」
分かった。仕事に戻る。
「よろしくな」言葉を残して回線切る。
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子供の頃から絵を描くことは好きだった。
小学校の作文に(将来の夢)イラストレーターと書く気取った子供だった。それがどんな仕事か知らず/分からず、響きだけで決めたような(子供だからね)。
なのに美術部には入らず、運動部で過ごした中学と音楽に転げた高校生活。絵の勉強なんてひとつもしてないまま、デザイン学校ですら(何も)教えてくれなかった。
独学の色:美術の先生(授業で)褒めてくれた(一言)ただ一つの根拠。
学生時代:生まれて一番絵を描いて描いてとにかく描いた。課題でも/趣味でも/ひたすら描いた。睡眠時間・削って描いた。食費・画材に充てた。電車・乗らずに歩いて帰った。(若い頃)青い頃(体力)時間と未来・無限だった。
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チーム仕事:見た目はこちらで、仕組みはそちらで、それぞれの得意分野で。一人仕事は内向的に視野狭窄に陥りがちでボリューム(ある程度)超える案件は他人と組むのが特に良い(取り分は二の次)。仕事は何をするかのではなく誰とするか。作ることは孤独がすぎる。担当(分野)は違っても、同じ(案件)携わる(信頼)相手なら互いに愚痴をこぼせる気安い軽口/悩み・霧散する。
マウスを握り直し、ぼくは絵の続きに戻る。パスを使ってポイントを置いて、増やしすぎたレイヤーを整理する。拡張キーを押しながら、線の流れを調整する。
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「おサボり発見伝」でん、と、自分でエコーをつけつつ、きみが背中から首に手を廻し、顔をくっつけてきた。
「し・ん・か・ん・せ・んんん?」
モニタに広げた時刻表。東京駅から〈はやぶさ〉で三時間。新青森駅・着。
(ハヤブサは目を象徴とする獣頭人身の古代エジプトの神々のひとりです──)
「それで?」何が分かったの?
これなら(もしかすると・ひょっとすると)日帰りも/可能かもしれない(シャガール)。
ぼくは腕を伸ばし、きみのほっぺたに手を添えて、(肌の下)頬と顎の骨を感じる(その奥に、歯と歯と歯と歯が並んでいる)。
「慌ただしいのね」かぷ、と、きみが指を噛んだ。ぼくの指を口にくわえて、(小さな)前歯で甘く噛んだ。舌の先で指の先を舐められた。きみの口は(欲望に熱く)あたたかい。
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マルク・シャガール(一八八七ー一九八五)
仏の画家。二〇世紀の巨匠の一人。宙に浮いた恋人たちや戯画化された動物を配する幻想的な画面構成は、ロマンチックで詩的と捉えられる向きがある。とりわけ青の色彩 (シャガール・ブルー)が目を引く。
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最初に美術館へ誘ったのぼくだった。巨匠の(わりと知られた)名画はやって来ないが、巨匠の作品展覧会、スケッチ・書簡類の(数々を)展示。それでも、巨匠は巨匠と呼ばれるだけあって(無名)の作品ばかりでも(熱に)当てられ一巡し休憩ソファにへたりこんだ。
「大丈夫?」
少し休ませて。
「すごかったね」
横に座ったきみは笑って額縁(細工の細かさ!)口にした。
見たのは額の方なのかい。
「面白かった」わ、と云う。「彫刻かしら」
額縁は絵の一部。本と同じで額装と装幀は職人の技そのもの作品を読み解き再構成する。そして幾倍も作品(美しく)飾る。
「そうなんだ」笑う。「大変ね」だって「腕が良くなきゃ注文されない。自信がなければ引き受け(られ)ない」
ぼくは同意する。中には他人に任せることを良しとせず自分で作る作家もいる。気持ちは分からなくもない、が、それだと自分だけ・ひとりだけ(世界が)完結してしまう。
芸術は(鑑賞者)ひとりで完結為しえない。問いかけは時空さえも超越する。