7、悲しみを超えて進むは、セーイ
今回、本編初登場のセーイ回です!
彼は基本、引きこもりのオタクなので共感が大きいです。(私が……)
彼はさらに、ヘタレで中二病、いわゆるラノベ主人公向きの逸材です!
さて、感想、評価少ないですが頑張っておりますゆえ、よろしければポチポチっとして言ってください!
腹が立つ。
まさかあいつが裏切り者だったなんて。しかも、ティンケが襲われた原因が、本人ではなくウーノたちとの因縁だとか、クワトロのような明らかな異常者を団の中に残したこととか、腹が立つ理由なんて上げていけばきりがない。
しかし、上げても上げてもしっくりこないのは、それが単なる八つ当たりに過ぎないとわかっているから。
有体な言い方をしてしまうなら、無力な自分が許せなかった。
姉ちゃんがスパイとしてきちんと活躍して、俺がただの引きこもりだったころ、それでも姉ちゃんは優しく接してくれた。その優しさを、ほかの誰かにも与えられる人間になりたくなった。
こんな歳にもなって、いまだに中二病の妄想に浸る俺は、単なる雑魚だ。みんなの呼び名も、実は半分ぐらい俺がつけていたりする。
そんな自分につけた二つ名(笑)は「電波野郎」。「電脳」でも「電子」でもないし「王子」「貴公子」でもない。「野郎」で十分だ。
最低限の仕事としての、監視だとか、ネット情報の削除とか、それぐらいはしているけど、それしかしていない。つまり、団に寄生するニートだ。
ティンケとは、オタク仲間として気が合ったし、最強のコンピューターを作るのも手伝ってくれた。日本のコミケも紹介してくれて、それにつれて行ってさえもくれた。
俺の乱高下する体重と体型にも気を使って、オットと一緒に俺専用の健康サプリも作ってくれた。
俺にとっては生まれて初めてのまともな友達だったし、姉ちゃん以外に初めてまともに向き合ってくれた人だろう。
初恋の相手も、彼女だったのだろう。そもそも、仕事以外で初めて歳が近い女子と接したのだ。当然、引きこもりの俺にはその思いを口にすることなどできなかったが。
今にも、彼女は俺の部屋に凸ってきて、あれこれ騒ぎながらネットの面白いうわさなどを聞きに来るかもしれない。
この部屋の扉をいつものごとく何かしら新しい発明品で突き破ってくるのかもしれない。
待てど暮らせど来ないことは、頭ではわかっていても、しばらくは動く気になれなかった。
何時間たったのか、ふと時計を見るとぼーっとし始めてからほぼ同じところを指していた。メールの着信で我に返ったのだと、回転の遅い頭で気が付く。
のろのろとケータイを開くと、姉ちゃんからの着信が入っていた。内容要約すると、みんなにオットの部屋に集まるように伝えろ、というものだ。
見るなり片手で連絡を終えたあとも、みんなの元へ素直に向かう勇気が出なかった。自分はインターネットでこそ最強だが、リアルではごみくずだ。
下手に自分を守らせて、ドウエが怪我をしたらどうする。みんなの足手まといでしかない。
うしろで、物音がした。
さすがに、ティンケであるという希望など持つつもりはない。そこまで現実が見えないわけじゃない。
クワトロだろうか。とりあえず団員の数を減らし、じわじわと追い詰めさせるなら僕を狙う意味もある。
結論から言うと、そうではなかったのだが。
クワトロだと怖いので、一応程度に身構えていると、ガチャッと、クワトロなら決して立てないような音でドアが開く。というか、あいつなら僕は気が付く前に殺されているだろう。そう気が付くと少し気は休まったが、それでもだれかわからないのは怖い。
「私だ。」
機械音声と思えないほど丁寧な発音に仕上げられた、製作者こだわりの声。とある腐女子が、とあるパソコンお宅に口うるさく注文を付けて何度も作り直させた声だ。
声とは裏腹に、機械チックなボディとディスプレイ。ここは、「自分が男じゃないからいいや」と製作者に雑に扱われた形跡が残る。言うまでもない。ラプラスだ。
「ラプラス?
どうしたんだ、急に。」
いぶかしげな声を上げると、答えは声ではなく、ラプラスのディスプレイに映し出された。
「やっほー、みんな、ティンケだよ。」
死んだ彼女が、写っている。
「これ見てるってことは、たぶん私死んでるよね。
しかも、どうせオットの奴が『あの』手術するか悩んで、私の体がいい感じにほっとかれてると思うのよ。」
なるほど、これ以上ないほど図星である。
「ねえラプッチ、これ見たらクワクワとかシェックスとか、泣いちゃうかな?」
「ええ、そりゃあ。」
シェックスとは俺のこと。なんとも下ネタ好きのティンケらしいあだ名付けである。
そんなことより、ティンケもラプラスも、クワトロをきちんと信用していたことにショックを受けた。
奴は、自分を信用しきっていた少女に刃を立てたのか。
「それでだよう、みんな?」
ディスプレイの中のティンケは続ける。
「もしも今回の任務中に私がお亡くなりして、帰れねえ!カオス!ってことになったらさ。
私の部屋の離脱ボタンを押せば、ビルごと元の世界に帰れるよっていう親切設計のご案内!」
いつも通りのめちゃくちゃな文法だ。
「このビルの中にいないと帰れなかったり、量子力学とか的に、もうこの世界には帰ってこれなかったりとかそこそこの欠点はあるけども、帰れはする!はず!」
ここでティンケは少し覚悟を決めるように息を吸った。
「帰れない人が出ないように、きちんと全員入れてあげるんだぞ!
あーでも、エロ……もとい、クロはきちんとみんな向こうの世界に置いてきているからね!
そこはご安心を!
まあ、この動画見てるってことは、一人は帰れないかもだけどね……。」
ここで、ティンケは手元のボタンを押す。
「はー、緊張したぁ。
こういうのなんて言うんだっけ?
遺書ならぬ、遺ビデオ?
疲れたわぁ。
肩揉んでよ、ラプッちー」
どうやら、ビデオが止まっていると思い込んでいるようだ。
「ねえラプッち?
私今ね、すっごい幸せなんだ。
クワクワも、シェックスも、二人とも仲良くしてくれて、誰も私を怖がらないし、いじめない。
それだけじゃなくてね、理央ちゃんも、ラッキーも、二人とも優しいし、
無限も、キューちゃんだって、大切な仲間だし。」
ラッキーとは姉ちゃんであるセッテ(ラッキーセブンより)、無限とはオット(∞マークより)、キューちゃんはノヴェ(由来は察した)のことだ。
みんなと仲がいい。変り者であるのに。いや、変り者であるから、だ。
「こんな言い方、フラグみたいだけどさ?
この幸せ、本当にずっと続いてほしいよね。」
そして妙に勘もよかったりする。
「だって私、ここのみんなが大好きだから!」
その言葉とともに振り返り、カメラに気が付いたらしい。
「あ、ダメダメっ!」
その言葉を最後に、映像は終わった。ティンケの最後のビデオは、やはりティンケらしく終わっていたのだ。
「先ほど、予測計算が終了した。」
ラプラスが、ゆっくりと口を開く。いや、スピーカーか。
「この世界は、ティンケが前々からティンケがやりたがっていたことができるところである。つまり、異世界転移はもちろん、エルフ娘や獣娘に会いたがっていた彼女は、それらに会える世界に設定したということだ。」
「何が言いたい?」
「この世界には、誰でも魔法が使える仕組みがある。」
その言葉を聞いたとたんに、理解した。ラプラスは機械だから無感情に見えるが、こいつは異常なまでに賢い。こいつにも、感情はあるのだ。
「ということは、俺にも魔法が使えるかもしれないのか⁉」
「そして、場合によってはクワトロを上回れる。」
「そしてあいつを倒すことも」
「生き返ったティンケが安心して過ごすことも」
「「できる。」」
そうと決まれば、話は早い。チームごとに分担して、魔法組と守備組に分かれるべきだ。
「それは無理だ。」
「どうして!」
考えを中断されたいら立ちは、ラプラスに向ける。
「ウーノが99%以上の確率で反対し、否決される。」
「ならどうするんだ!」
「賛成するのは、私と君だけだろう。」
「なら、二人で旅に……。」
「それはできない。」
「どうし……。」
「ティンケを守る戦力がいる。」
「じゃあ……。」
「セーイの一人旅になる。」
「燃えること言ってくれんじゃん。」
「生還率は10%未満。」
「萎えること言ってくれんじゃん……。」
それでも、俺にしかできないならやるしかない。
いつだったか「護身用に」とティンケがくれた熱戦銃とナノカーボンディバイダーを手に取る。
「いってらっしゃい。」
「食料ぐらい持たせろや!」
「はい、どうぞ。」
「うおっ、準備いいな、おまえ。」
「説得予知済み」
「つまらないこと言うなよ……。」
「いってらっしゃい。」
「いってきます。」
ここにいないティンケと、見守ってくれるラプラスに告げて、ビルを飛び出た。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
前書きにも書きましたが、評価とか感想とか待ってます!
一つ来るだけでも、人生観変わるものですよ(大げさ……じゃない)
次回は誰の回になるのか、秘密にしておきましょう。
というか、そろそろ続ける心がれそうです……