5、ウーノ、悩みにふける(2)
みなさん、ついに「起承転結」の「起」の章が終わります。
死んでしまったメンバーは誰なのか、誰が殺したのか、と「団」の創立エピソードが明らかになります!
目が覚めたのは、それから丸一日ほどたっていたという。
私のそばには、セッテと理央が、ずっとついていてくれたようだ。
「大丈夫?」
目が覚めたのに涙で迎えてくれたのは、文字通りずっとついていてくれたセッテのようだ。一方、理央はセッテにご飯を運ぶなどもしていてくれたらしい。
「起きて早々に済まない、何があったか、教えてもらってもいいか?
オットがここにいないということは、誰かが私以上の重傷を負ったのではないだろうか?」
そもそも、団の中で唯一かつ世界単位で随一の回復係が、同時に病人を見ないのは、今までになかった。
いや、そもそも団員はみな優秀すぎて誰もケガすらしないのだ。複数人のけが人、病人が出たこと自体が初めてのケースだった。
「それで、だれが負傷したんだい?」
そう聞くと、二人は顔を見合わせて押し黙ってしまった。
「ふむ、さすが医者としての腕だけは確かな奴だ。目が覚めるタイミングを完璧に充てるとは。」
うなるように感心しながら部屋に入ってきたのはドウエだ。
「おはよう、そしてお見舞いありがとう、ドウエ。
私の他にも負傷者がいるみたいだが、誰が怪我をしたんだい?」
ドウエですら、一瞬言いにくそうに顔をしかめた。
「いや、違う。
負傷ではなく、戦死だ。」
言いにくそうにされたあたりから何となく予想はついていたが、理性と思考は必ずしも連動しない。
「やはりか……。」
言葉ではそう言っていても、なかなかショックは消えない。10年前の悪夢以来、一度も仲間の中からの死者は出ていなかったのだ。
「それで、それは誰だ。誰なんだ。」
「ティンケだ。」
そんな。
あの子は、どんな時も危険に目を光らせ、核武装してまで身を守っていたはずである。そんな彼女を殺せる人物……。
二人だけ、心当たりがある。一人は、我々に仇なす悪魔、ゼロで、もう一人は我々団の一員であるクワトロだ。
しかし、ゼロは異世界になどいないはずだし、クワトロはティンケとは最も仲が良かったはずである。ということは、この世界における新たな暗殺者か、それに類似する何者かであろう。
そこまで推理したときに、ドウエがまだ何かを言いたそうにしているのに気が付いた。
「まだ、何か報告事項が?」
「ああ。
実は……。
その……。」
「いいよどむなんて、らしくないな。
何か、本格的にまずいことでも起きたのかい?」
「いや、まあ、その通りだ。」
ドウエは一度大きく息を吸い込むと、
「まず、ティンケを殺したのは、クワトロだ。
そして、クワトロは、ゼロと同一人物だった。」
可能性は、考えたことがないわけではなかった。そもそも、私に予知能力を教えてくれたのはゼロである。さらに言えば、ドウエの剣の手ほどきも、トレの狙撃術すらも、基本はゼロが教えた。
彼は、万物に対し才能があり、何をやらせても誰よりもうまく行った。
おそらく、ティンケのような発明やセーイのような情報処理、セッテのような潜入やオットの治療、ノヴェの商売だってコピーできたであろう。
けれども、彼にあった致命的な弱点の話。彼は、「感情」に弱かった。相手の感情を読んで気を使うこと、自分の感情と理性を分けて考えることができなかったのだ。ドウエが恋人としてそれを支えてはいたが、一向に改善の余地はなかった。彼は、兵器としては完璧だけども、人間としてこれ以上ないほどに未完成だったのだ。
彼は、私、ドウエ、トレの三人の才能を見抜き、このことについてであれば自分を超えるであろうということを私たちにそれぞれ教えた。それは、私にとっての予知であり、ドウエにとっての武術、トレにとっての狙撃術であった。
四人で技をひたすらに磨き、競い合った。高校を卒業することになった私たちは、傭兵団を設立することにした。世界に平和を、なんて理想論は、力がなければ解決しえないと気が付いていた。
設立からしてしばらくして、ドウエとゼロは破局した。戦いの訓練の中でも本気で命を取りに来るゼロに、ドウエが付きあいきれなくなったのだ。一方でゼロも、ドウエのそれをたいだであり、甘えであると断じ、二人の意見は決定的に合わなくなっていったのだ。
さて、それからしばらくして、ある事実が発覚する。
私たちの後に入ってきたメンバーは、特に何の才能も持たない、特別でない人たちだった。しかし彼らは必死に訓練をし、生き残るために血すら吐く(程の、ではない)努力をしていた。
もちろん、それでも全員が生き残るわけではなく、少なくない数が我々の元から去った。誰一人として、名前も顔も忘れない仲間たちである。
そんな彼らが、減っていった数がだんだんと増えていった。それは、最初は、気のゆるみだろうと思っていた。
歴戦の兵士でも、気が緩むことはあるし、戦場に慣れていくにつれその割合は増えていくからだ。
ある時、仲間の遺体があるものを握りしめていた。彼は、おそらくもっともゼロやドウエと近いレベルの兵士で、練習だけならドウエと相対することもあったほどの強者であった。そんな彼が倒れるなんて信じられなかったが、事実は覆らなかった。その彼は、自分が倒したものがわかるようにタクティカルペンを相手に突き刺すことを常としていた。相手への敬意を持ち、正々堂々戦ったことを証明するために。
すぐさま、そのペンは鑑定の技術班に回された。彼は人格者であったがゆえにみんな悔しがり、弔いを望んだのだ。
結果は衝撃を巻き起こす……前に、先手を打たれた。最初に負傷したのは、近接戦で一番の危険になるドウエだ。一撃で殺されなかったが、深手を負い、その場で戦えなくなった。
次にやられたのは私だった。予知能力で行く先に対応をされると面倒だったのだろう。ドウエの負傷の報をきき、慌てて部屋を飛び出したところを待ち伏せされていた。少しでも冷静であれば躱せたのに、愚かにも厚くなってしまった。
最後に、トレは当時使っていたSVD狙撃銃を破壊され戦闘不能に、追撃の手も封じられた。
残ったのは悪夢だった。先ほどまで笑いあっていた仲間たちが、あるものは体に穴が開き、あるものは腕や頭の一部が消えていた。
唯一の共通点は、確実に死んでいると一目でわかったことだ。結果、トレに助けられた私は呆然とするしかなかった。
その戦い、いや、虐殺において、私たちはゼロを敵と認識し、彼の抹殺を団の第一目標とした。
しばらくして、団は少数精鋭の傭兵団として再開した。しかし、業界内で落ちた信用を取り返すのは簡単ではなかったし、みんなにもたくさんの迷惑をかけた。
その矢先に、この事件だ。
ドウエは、最後に
「いま、オットが蘇生を行っているらしい。幸いにも、刺されただけで遺体はきれいに残っていたから、あいつなら余裕で再生できるだろう。」
と、少しだけ安心できる要素を言い残して帰っていった。私が一人にしてほしいのも、そして何より、もと恋人の自分が一人になりたかったのも、理由だろう。
部屋の中ではセッテと理央が、いまだに所在なさげにしていた。私が一人になりたいのを感じ取りながらも、彼女たちは一人になりたくなかった、さらには外へ出るタイミングを見失ってしまったのだろう。
「ゼロって、あの、ゼロだよね……。」
私たちの過去をわずかにだが話したため、知識としてはゼロを知っているセッテがつぶやく。
「あいつ、まだ生きていたんだね……。」
私たちと、断片的にしか過去を共にしていない理央がつぶやく。
「あいつだけは、殺さないと……。」
理央に、ここまで言わせるやつだ、ゼロというのは。
私は「理央」には手を汚してほしくなかったのだろう。
「とらえられるなら、それでもいいのだよ。」
しかし、奴を捉えられるほどの強固な拘束具は、ティンケでしか作れないし、そのティンケも生死の境をさまよっている状況だ。
「理央ちゃんは、手を汚したらだめだよ。」
「そんなの関係ない。」
女性二人が、緊張のあまりけんかになりつつあるので、
「待ちたまえ、まずはドウエ以外のメンバーを一か所に集めて、みんなで防御態勢を整えよう。」
といって止める。
「場所は、ティンケが眠る部屋だ。
オットのことだけは守り抜かないと、誰の蘇生も出来なくなるし、何よりティンケが危ない。」
こういう時に大事なのは、的確に指示を出す指揮官だ。これがいないと、あっという間に集団は崩壊しかねない。
「理央はトレに、作戦K開始と伝えてくれ。
セッテは、セーイ君経由でオット、ノヴェにこの内容を通達。いいね?」
私も苦しんでいることをわかってくれている二人だからこそ、すぐにまじめな調子に戻って聞いてくれた。
「それと、ドウエに内線をつなぎたい。まだ少し体が重いから、理央、取ってくれるか?」
と理央に携帯もとってもらえるようにお願いする。
すぐに差し出された携帯を手に取り、ドウエにつなぐ。
「僕だ。
すぐに僕の部屋に来てくれ。
完全武装で頼む。
あたりの警戒を怠るな。
おそらく奴は、次に私を襲いに来るだろう。」
その場で一番危険な敵を、次にブレーンを倒す。これは、クワトロの毎回同じパターンだし、おそらく今回もこれで来るだろう。
異世界において一番力を発揮するのは、ティンケなのだ。彼女の力が一番際立つ場所なのだから。
だから奴は最初にティンケを、次に私を攻撃した。だが、あの時と同じく私を殺し損ねた。
そして、前回と今回の大きな差異は私が指示を出せるかという点、ドウエが健在である点だ。
今なら奴を仕留められる。考えを重ねるごとに予測は確信に変わった。
「遅くなった。」
ドウエが飛び込んでくる。
「今回の作戦を確認する。
作戦レターは?」
「Kだ。」
これは、ゼロが現れたときのために決めていたコードだ。Kというのは、奴を必ず殺すという意味の「KILL」と、我々に彼の所業を気が付かせてくれた、今は亡き戦友の頭文字をとったものだ。
「本物だな。
ティンケの元へ急ぐぞ。」
結論から言うと、襲われなかった。私たちが二人以上でいるのを警戒したのか、そもそもどこか別のところに潜んでいるかだ。
彼にも、そして私にも、お互いに予知は効かない。だからこそ、お互いが最大の敵となりうる。これは、ドウエやトレにも言えること。つまり、私たち三人が二人以上でいれば、奴には高い確率で勝てるのだ。
私たちは、ティンケの遺体の前で一塊になる。オットは、ほかの部屋で作業中のようだ。
「ちょいちょい、ノヴェ、カモンカモン。」
こういうときでも「普段」を感じさせてくれるのは、さすが医者であろうか。それとも、実は年長であることの影響か。
ともあれ、私たちは、ティンケの設計したビルの一角で、彼女の帰りをただひたすらに待つしかない。彼女が、帰ってくると信じて。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回で「起」の部分は終わりといいましたが、まだまだ続きますよ!
回収しきれていないフラグやなんかもありますからね!(メタい)
これからもなるだけ冒険チックに書いていきたいです!
あとは、少しだけネタバレですが、気になっている人もいるであろう、「ボーイズラブ」のタグについても、これから本格的に回収に走りますよ!