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最強傭兵団活動録:異世界編  作者: 怪物mercury
異世界への遠征
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2、忙殺されるドウエ

前回の予告通り、今回はトレに片思いする彼の出番です!

ここら辺から、仲間たちの過去がだんだんと浮き出始める……かもしれないですね!

無事に、理央は目を覚ましたらしい。ひとまずは安心した。


 俺の仕事は最も傭兵らしく、そしてハードだと思う。もちろん、ほかのみんながさぼっているというつもりは全くないし(一部例外はいるが)むしろそれぞれの能力には尊敬の念すら抱いている。


 ただし、そもそも前線に立つのは俺だけだ。トレが狙撃を外したところは見たことがないし、クワトロに至ってはそもそも姿すらろくに見ない。一応、すべての暗殺を成功させているらしいが。


 セッテはごくまれに前線に行くこともあるらしいが、変装は見破られないし、ウーノが彼女を危険なところに送るはずがない。


 俺の仕事は、主に前線の維持である。どでかい剣を振り回し、半鎧の拘束具でもって相手を押しつぶす。


 その最中にはしょっちゅう銃弾やら爆撃やらを食らうが、痛いだけだ。


 逆に言うと痛いのだ。


 だれだ、「団」の2番手は不死身だとか言ったのは。ノヴェは稼ぎがよくなったと喜んでいたが、いくら仲間の稼ぎのためとはいえ何度も絨毯爆撃など食らいたくはない。


 以前はセッテとセーイにかろうじて助けられたが、危うく核爆弾まで持ち出されそうにすらなった。個人を倒すために。


 そんなわんぱくな仕事をしている俺にも、片思いの相手がいる。二重人格のトレのもう片割れ、理央だ。彼女は、不幸な境遇で育ったにも関わらず、とても明るくて優しい。それでいて、どこか守らなくてはいけないようなはかなさもある。


 しかし彼女はウーノこと一樹に絶賛片思い中だ。その相手には恋人がいることも分かっていながら。


別にそこからどうなってほしいなどとわがままは言わないが、その熱の一分でも自分に向けてほしいのは確かだ。


向こうは友達程度にしか思っていないだろうが。


今日はイタリアンマフィアの掃討。お偉方からのご依頼だから、引き受けざるを得ない。そのあとはシリアのテロリストの基地に殴り込み、北朝鮮にやとわれたスパイを封じて(これは本来はクワトロやセッテの分担だが、ホワイトハウスから指名があった。)、深夜にもう一度イタリアにもどってパトロール(こんなのは警察の仕事では?)。朝になったら一度帰還して報告、少しだけ休める。


早く帰って、理央の笑顔に癒されたいと、心の底から願った。




ようやくパトロールも終わり、ティンケに「ついで」で頼まれた、サハラ砂漠に謎な建物を作る作業を終えて、ワープホールのある隠れ家についたころには、もう朝になっていた。


ドアを開けると、そこには理央が倒れていた。


「大丈夫。」


「大丈夫か!?」


聞かれる前に勝手に起きたトレにこたえられたが、口を開き出てき始めた言葉は止まらなかった。いつもの発作と理性ではわかっているが、好きな女が目の前で倒れていて冷静になれるほど感覚はマヒしていない。


慌てて彼女を抱え上げ、ワープホールに飛び込むとオットの元へ急いだ。




彼のことははっきり言って苦手だ。いくら報酬なしでは仕事をしないのが団の中での暗黙の了解とはいえど、人の命を救うだけの力がありながら人助けをしないのは、好感が持てない。もう少しでも、人を救う力をふるえば、彼が本気になれば、おそらく俺が今まで殺した数よりもたくさんの人を救えるからだ。


しかし、今日ばかりは、彼が怠け者であったことに感謝しなければならない。


かれが遊び場にしている団の「保健室」のドアを蹴り砕き、それでも理央に振動を加えないように細心の注意を払って飛び込んだ。


「やあ、君が来るのは珍しいね、ドウエ。

 てっきり嫌われているものだと思っていたけど?」


案の定遊んでいた(しかも、医者のくせに子供用の偽注射器を持っている。何をしていたんだ、こいつは)オットに笑われた。普段なら説教の一つでもしてやりたいところだが、今はそれすら惜しい。


「理央が倒れたんだ、黙ってベッドを貸せ!」


そう怒鳴ると、相変わらずへらへらした調子で


「同意がないのにやっちゃったら犯罪だよ?

 って、傭兵団の僕らが言うのも筋違いだけどさ。

 それで、僕への依頼は膜の再生か何かかな?」


このふざけたエロ親父を殴り飛ばしてやりたいが、今は時間が惜しい。しかもこいつは殴り殺したところで、自分の細胞をいじくっているらしく、勝手に再生するらしい。


「貴様の冗談に付き合う予定はない。

 り……トレが倒れたんだ、見てやってくれ。」


これは形骸化しつつある内容だが、仕事に関することでは特に、本名を呼び合うのはよくないとされている。個人情報や何かを探られないようにするためだ。かつてこの団にいた、俺の元恋人が作ったルールだ。


「見ろって言われてもなあ、日本人女性は好みじゃな……嘘だよ、冗談、君やウーノ君に殺されたくないから、そんな顔で睨まないでくれ」


相変わらず腹が立つやつだ。


「この子のこれは、心因性のものだよ。

僕がどうこうできるものじゃない。だから睨まないでくれって。」


肝心な時に使えない野郎だ。しかし、心因性と聞いて安心してしまうのは戦場に立つゆえの悪癖だろうか。少しだけ反省しつつ、オットに言う。


「なら、しばらくトレをここで休ませろ。貴様が変なことをしないように、俺も見張る。」


俺は椅子を手元に引き寄せると、椅子を壊さないように注意しつつ座った。しかし、本当に優しい子だと思う。俺の出身のイタリアや、それだけに限らず多くの国で、親からひどい目にあわされた子供はろくな正確に育たない。非行に走ったり、他人にひどいことをする人間になることが少なくない。それなのにこの子は……。


 俺の昔の恋人もそうだった。何を隠そう、俺の当時の恋人は男性だ。つまり、俺は世にいうバイセクシャルというやつだ。彼との日々はとても楽しく、時に刺激的だった。


 ある時期を迎えるまでは。


 少し、心を緩めすぎてしまったかもしれないな。疲れていたのか、心の口が軽くなる一方で、瞼は重くなる。


はっきり言って、ね……む…………




 目が覚めて気が付く。やられた。オットに薬を盛られたのだろう。どうやってかはわからないが、俺が眠るということは相当に強い薬だったのだろう。もちろん、理央にも起きる気配はないし、起きた気配もない。次あったら泣いて謝るまで振り回してやろう。あいつが泣くところは想像しにくいが、だからこそのやりがいだろう。


 腕時計型の携帯電話端末(ティンケ作)には、かなりの通知が来ていた。もちろん、ウーノとしての一樹からだ。


 どれも「武手」指名だ。たまには「狙撃者」「暗殺家」に振ってもいいのだが……。


おそらく俺は前線に出すぎたせいで有名になりすぎたのだろう。


 逸話ゆえに真偽のほどは定かではないが、先進国では俺の名前が引き継ぎ事項に含まれるようになってきているとか。儲かるのはいいが、ほどほどにしてほしい。


 報酬のうち20%は団の活動費(とある女が私物化しているが)に、残りの80%は個人のものになる。もちろん非課税。しかし、みんな(クワトロ、ティンケを除く)はノヴェの提案でそのほとんどをチャリティー系の寄付にしている。クワトロは知らないし、ティンケは金食い虫だ。冷静に考えたら、俺が暴れても壊れないこの鎧を作ったのもティンケだ。俺の金で。


 金がなくなるまで遊ぶオットや周辺機器を買いあさるセーイほどではないが、金が有り余っているわけではない。自分の金は何に使っているのだろう。


 そんなこんなを考えているうちにも、次々と仕事は溜まっている。ウーノ曰く、これでも仕事は厳選し、ほかに適性のあるメンバーがいる場合は、クライアントにそちらを進めることも多いらしい。それでも「自分が『武手』を動かした」という事実は戦場において軽くない。それだけで士気が逆転し、そのまま状況まで逆転しうるんだとか。


「先にティンケの下で新しい発明を試してほしい」


などという不吉なメールとともにウーノからの連絡は途絶えていた。


以前似たような文面をもらった時は(自費で)拘束具をつけられた。これが一番士気の低下につながる気がするのだが……。


もとより士気が低下しきった俺はいまだ眠り続ける眠り姫に「行ってくる」とだけ声をかけ、もちろんキスはせず、いつの間にか直されていた保健室のドアを今度は砕かずに出ていく。


ぜひとも壊したかったが、それで理央が出られなくなったらかわいそうなので、そんなことはしない。




ティンケの新しい発明とやらに(悪い意味で)ドキドキしながら発明室のドアをくぐる。


この部屋は、本人曰く、ティンケに危害が加えられる未来予測が出てきたとたん、彼女の周りに中性子バリアをはじめとする様々なバリアを張られ、平気で核爆弾を連射する構造になっているらしい。しかも部屋の外に被害は出ないんだとか。よくわからないが、さすがの俺も食らったら死ぬ。おそらく、肉片すら残らないだろうから、オットの蘇生もできない。


入るだけでもドキドキできる部屋に新発明のテストに行くわけだから、怖いなんてもんじゃないが、仕方ない。


中には、どでかい、そして中世のそれのような大砲が置かれていた。大砲に対して当然のごとく嫌な予感がする。ティンケの作るものだ。普通の大砲のはずがない。体力に優れた俺を使って大砲の実験なんて、二つしか思いつかない。撃たれるか、もしくは……。


「おーおー、よく来たよく来た!

 待ちわびたぞ、『武手』ドウエよ!」


前半は親せきのおじさん調、後半は西部劇の決闘調で話しかけてきたこの白衣の少女、ティンケは、変わり者でオタク、中二病と軸性てんこ盛り状態だ。話しているだけでも疲れる上に、自分の拘束具まで作った相手。はっきり言って苦手だが、話さざるを得ないのだ、仕方がない。


「それで?今日は何の用だ?」


少しつっけんどんに聞くと、にやにやした顔でもって、


「ふっふっふ、君の依頼を同時に解決する方法を見つけたのだよ!」


自慢げかつ得意げに、上から目線で語られる。


「君はまじめだから他人に自分あての依頼を任せるなんてできないだろう?

 そのくせして、いつも依頼に追われ、へとへとになっていると見た!

 そこで、君の移動時間と戦闘時間を極端に減らす方法を思いついたのだよ!」


なるほど、少しは話を聞いてやろう。裏がありそうな気もするが。


「やることは簡単。

 これに乗り、中にある一体型の鎧を着こめば準備完了!あとは君の意思に合わせて、こなすべき依頼の現場に隕石として降り注ぎ、吹き飛ばす!それだけ!」


やはりか……。


この大砲を見たときに思いついた使い道その2.俺を撃つのではなく、俺を「飛ばす」という使い方。


「ウーノにも許可を取ってあるし、何か事故が起きてもドウエなら大丈夫でしょ?

 飛行機とかロケットには気を付ける必要があるけど、基本は安全だよ!」


それは安全とは言わないのではないだろうか。鎧だけで大砲に乗って飛ばされ、隕石として攻撃するとは、人間の発想ではない。親友が裏切ってくれたのはあとで報酬を吹っかけて制裁するとしよう。


「まあ、楽になることは悪いことではな

 俺も最近、依頼が増えすぎて困っていたからな。

 ありがたくうけとることにする。」


「まいどありぃ!

 鎧、大砲、エネルギー、占めて合計15億円です♡」


わざとらしいハートマークにイラついたが、この部屋ではティンケが王様だ。


「わ、わかった。今回も自費なのな……。」


ウーノに吹っ掛ける予定の額を倍にすることにした。




 ぴっぴっぴっ……。不安にしかならない音が大砲の外から聞こえてくる。ティンケ曰く「えーっと、初期設定?」とのことだ。なぜおまえが一から開発した機械の使用に疑問符が入る。


 絶対怪しいが、普段の拘束具以上に頑丈なこの鎧は、全力でも出さないと破れまい。


 さすがに15億を未使用で粉々にするほど人格が破綻しているわけではない自信があるし、実際そうするつもりもなかったので、おとなしくしているほかない。


 急に大砲全体が明るく輝きだした。


「おい、なんだこれは。こんな機能いるのか?」


慌てて聞くと、


「もちろん!

 ヒーローの出立には演出が不可欠だよ!

 ちなみに、エネルギーの80%はこれに使われているからね!」


エネルギー代を返してほしい。


 そうこうしているうちに、何やら音楽まで聞こえてきた。本当に無駄な演出である。


「おい、これじゃあ秘匿性に支障が出るだろ!」


「大丈夫大丈夫!

 中にしか音楽聞こえていないから!

 これぞほんとの中だ……」


「やめろ!それ以上言うとコンプライアンス的にアウトだ!」


このままでは活動記録として残せないものが出来上がってしまう。少なくとも、十代の少女に言わせていい言葉ではないはずだ。


「それで、いつになったら出発なんだ?」


無理矢理に話題をそらすと、親父臭い笑いをしたまま、


「あと五秒」


「唐突だな!」


「あとそれ、操縦はできないから」


「え?何言って……!」


体に強いGがかかる。俺でなければ、体が鎧の中で四散して、目も当てられなくなっていただろう。


 かつて自分を鍛えてくれた恋人に感謝しながら、彼のことを思い出し、ひそかに胸を痛めていると、目の前に真っ赤な、数字の10が投影される。


 嫌なこととは相次ぐものだろうか。着地までのカウントダウンに違いない。しかし、一向に進まないのはどういうことだろうか。


ドーーンッッッ!!


カウント、ダウンしないじゃないか……。


そんなことを考えている余裕もなく、ゴムボールのように飛び上がる。文字通りのバッドトリップだ。特に、乗り物酔いがひどい俺にとっては重大な問題となろう。


これ、あと何回続くんだろう……。


5回目の着地でピンチが訪れ、15回目の着地で境地が訪れた。23まで数えて、意識を手放した。




「ガゴンッ!」


鎧が、ついに着地とともに砕け、地面に足がついた感覚とともに目が覚めた。ティンケが俺を見て、


「弁慶だ、弁慶だ!」


と叫んでいる。弁慶とは日本のサムライだったか。ディスプレイから離れて、こちらへと踊りながらやってきたティンケは


「あれ?

 生きてるの?

 これは鎧、もう少し強くしなくちゃね!」


などとふざけたことを言っている。これが実は乗り物酔いだということは言わないほうがよさそうだ。


 というか、殺す気だったのだろうか、俺のこと。


 こっそりと震え上がっていると、ティンケが、


「うんうん、計算通りのエネルギー補充量!」


などとのたまっている。


「待て、今なんて?」


「なんでもなーい!」


怪しい一言とともにこの「発明室」から隣の「研究室」へと行ってしまった。


 横を見ると、使った大砲が真っ二つに割れている。


「これ、直せないよな……。」


そうつぶやくと、次は砕け散った鎧に目が行く。


「これ、鉄くずだよな……。」


正確には特殊合金であり、鉄などではないだろう。だが、それより大事なことがあった。


「15億、使い捨てかよ……。」


ウーノに吹っ掛けた報酬は、旨く言いくるめられ、5億円まで減らされてしまった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

いかがでしたでしょうか!

ノヴェがメンタル的にハードな苦労人なら、ドウエは肉体的な苦労人をイメージしています!

次回は、語りこそ一人ですがメインメンバーは二人です!

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― 新着の感想 ―
[良い点]  異世界へ行く方法から描かれているのはあまりないのでいいアイデアですね! [気になる点]  最初から登場人物が多いので混乱してしまいます……(汗) [一言]  イタリアの数字が名前になって…
2020/10/01 12:42 退会済み
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