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11、心配せど、無力なセッテ

おかげさまで寝不足脱却しました、怪物mercuryです!

今回、一人称はしれっと初のセッテの回です。

少しヤンデレなウーノの彼女です!

 私は恋人だから、一樹の自責が手に取るようにわかる。美月ちゃんを巻き込み、殺してさえしまったことへの。


 私は恋人だから、一樹がどこへ行こうと、何をしようとついていく。もちろん、どんな敵と戦うとしても。


 でも、美月ちゃんは恋人じゃないから、そこまでする覚悟があったかわからない。ましてや、美月ちゃんはクワトロに信頼を置いてた。

それなら、今回の件はたとえ生き返っても悲しく、怖いことだろう。


 みんなが招集をかけられた日、どんなに待っても弟のセーイは現れなかった。珍しく一樹君の言うことを聞かずにビルの中を探し回ってしまったが、ビル中を探しても、ついぞ現れなかった。それでも、美月ちゃんとオットを二人きりにするのは(いろいろな意味で)危ないから、誰もクワトロもセーイも探しに行けなかった。


 私は無力だ。自らを責める恋人すら支えられず、血を分けた双子の弟すら見つけられない。刺された友人のことも助けられないし、その友人を助けてくれる人すら守れない。


 せめて一樹の役に立ちたくてティンケの遺した発明品の取り扱い説明書も読んでみたが、さっぱりわからなかった。唯一できるのはビルの移動だけだが、それも勝手に移動したらセーイは帰ってこられなくなるし、どれだけの距離を移動できるのかわからない中で勝手にエネルギーを使うわけにもいかなかった。


 それなら発電でもできないかとみてみたけれど、私に使えるのはやっぱり手回し発電が限界。ビルを透明にするために美月ちゃんが張っていたソーラーパネルが発電モードになっているらしく、手回し発電は24時間続けてもそれの1%にもならない。


 オットとノヴェの手伝いでもしようかと思ったが、オットの部屋から喘ぎ声が聞こえた時点で引き返してきた。というかあの声、ノヴェのじゃなかった!?


 そこは深く考えるのはよして、それならドウエの手伝いでもできないかと質問してみたら、


「俺に殴られても死なない程度の奴でなければいい。」


と言われ、こぶしを固め始めたからあわてて逃げてきた。最後に何か言っていた気もしたが、あいつは脳みそ筋肉のはずなのに乙女思考とかいうよくわからないやつだから聞き取れなかった。


 とはいえ、あいつのことを冷たいともいえない。なにかをしていたいのは私の方で、あいつは強すぎるから一人のが楽なのだ。


 理央は私ん一樹を狙っているとはいえ、友達でもあるので、心配して行ってみると、一樹に媚びるように泣いていた。いや、媚びるようにってのは主観だから、私もそうしたいって気持ちの表れだろう。


 いくら何でもこれを理由にご飯を奢らせるというのは一樹に対する女としての度量が試されている気がしたのでさすがにやめた。


 ふと思いついた。


 人は、料理を、特に美味しい料理を食べると気持ちも前向きになるという。私は料理は苦手だが、ここにははっきり言って一生食べても余るほどの食材がある。美月ちゃん作、自動食料生産システムのおかげだ。


 練習はいくらでもできる。私が料理を作ろう!ひそかな決意を胸に、厨房へと向かった。




 最初は、ベーコンエッグを作り始めたはずだ。気が付いたらスクランブルエッグになっていたので、あきらめて焼いていたら、裏が真っ黒になり、煙が出ていた。慌ててひっくり返すと、焼けていなかった最初の表面が飛び散った。仕方がないのでオムライスを作ることにした。


 オムライスと言えばチキンライスだ。それぐらいなら私も作れる。ご飯にケチャップと鶏肉を混ぜて焼くのだ。


 米俵から取り出したお米にケチャップをかけるとなんかいつもと違う気がした。そうか野菜が足りないのか。冷凍庫からミックスベジタブルを取り出し、お米と混ぜる。なんか違うな。


 とりあえずフライパンの上にそれらを乗せると、火をつける。これ以上卵を焦がしたくないから、最強の火で焼こう。


 そういえば、フライパンには油が必要だと以前セーイは話していた。でも、私は石油ぐらいしか扱ったことがない。あれって食べれたのかな。


 でも、あれはれで、焼くと香ばしくなるのかもしれない。貯蔵庫へレッツゴーだ。




 重かった。へとへとになって厨房にたどり着く。料理とは奥が深い。両腕はパンパンだ。


「よいっしょ。」


缶を地面にドンッ、と置くと、フライパンが再び煙を上げていた。今度はケチャップとチキンライスが焦げていた。慌てて駆け寄ると、非常用ガスボンベに躓く。


「ひゃっ。」


 転びそうになって手をかけた先には


「開けるな禁止。小麦粉は下の蛇口から採ること。」


と書いてある。上を見ると、小麦粉の山がっ……。




 その日、ビルから厨房は消滅した。原因は大爆発。私が大量にぶちまけた小麦粉と、躓いたガスボンベ、雑に置いたので漏れてしまった石油が、火がつけっぱなしだった厨房で爆発したのだ。


 このビルはさすが美月ちゃん製、さすがに核爆弾は飛んでこなかったが、爆発あら身を守るための対爆バリアが自動発動し、私は無傷だ。


 また、美月ちゃんはここでも何か実験していたのか完全な防音になっており、外から誰かが様子を見に来ることもなかった。


 自動修復機能により機械が修理していく厨房の中で、私は境目のわからなくなった、溶けてくっついたフライパンとチキンライスの混合物を持って立ち尽くした。




 フライパンは燃えないゴミのごみ箱に不法投棄し、私は悩んだ。このままでは、使えない子だ。無限に近い食料とはいえ、爆発させるためのものではない。


 今の私の二時間は、みんなの食料を減らしただけだ……。


 落ち込んでいると、こんな見られたくないときに限って一樹が来た。


「セッテじゃないか。どうしたんだ、こんなときにこんなところで。

 一人でいたら危ないじゃないか。」


こんな時にも優しい一樹、やっぱり素敵……。


 って、そんな場合じゃないよ!なんとかしてこの惨状をごまかさないと……。


「料理で、私たちを元気づけようとしてくれていたのだね。ありがとう。

 でも、無理をして、そのきれいな肌に傷でもついたら大変だ。

 次からはきちんと準備をしてからやるんだよ。」


見透かされてる!?


 やっぱり、一樹は素敵な人だ。ああ、異世界で入籍できないのがなんとも恨めしい。でも、こうやって恋人のままでいるのもそれはそれで心地いい……。


 好きが止まらなくなったあたりで、何とか我に返ることができた。


「か、一樹はどうしてここに?」


強引に話題を変えて何とかごまかそうとする。もちろん、こんな雑な手でごまかしがきいてくれる一樹ではないのだけれど……。


「いや、おなかがすいてしまってね。

 ちょうど、誰かの手料理でも食べたかったんだよ。

 おっと、こんなところになんともおいしそうなオムレツが!

 ひとつ、いただいてもいいかね?」


 炭化したフライパンとの塊の、捨て忘れていたほうを、一樹はすぐにオムレツと見抜いてくれた。


「え、いや、それは失敗作!

 食べたらたぶん死ぬから!

 食べちゃダメ!」


 慌てる私の静止を聞き入れず、一樹はお上品にフライパンから炭……もとい、たまごを切り離しながら、口に運ぶ。そして、自然な笑顔で


「少し、火を通し過ぎみたいだね。

 こんどは、僕も一緒に作るよ。

 二人でおいしい料理を作って、みんなに笑顔になってもらおう?」


本当に、この人は……。


 気が付くと、熱い液体が頬を流れている。それは、感謝であり、恐怖でもあり、不安でもある、ごちゃごちゃになった感情の結晶だった。


「ありがとうっ!」


 私は泣きながら、一樹に抱き着く。


 一樹はこの団の誰よりも弱いはずなのに、その腕は、誰よりも頼りになった。




 素面に戻り、一樹の助けで、というよりもほとんど一樹が作ったオムライスは、みんなに笑顔をもたらす。いつもより三人も少ないメンバーで囲む円卓は、それでも久しぶりで、少しだが確実に、不安が安らいだ。


 そこから起きたことは早かった。


 一樹が、いつの間にか調べていたこのビルの近辺の情勢を教えてくれた。大国のユミル公国に向かうことになった。


 ビルのまま移動したら、エネルギーを大量に使うのではと思ったが、美月ちゃんはこのビルに、車に変形する機能も付けてくれていた。随分と大きな車だが、それでもビルの半分以上はおいていくこととなった。もちろん、厨房はついてくる。


 運転するのは、一樹と、運転免許を実は持っているノヴェだ。


「出発をする。揺れるから注意したまえ。」


 ウーノ君の声とともにがくんと揺れる。少し長い旅になりそうだが、その間の食事は、今はクロすらいないので、私が作ることにした。


 今日の夜ご飯は、一樹との初めての料理を祝して、オムライスにしよう。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

これで、クワトロ→オーディン、セーイ→フェンリル、団の本拠地→ユミルと移りました!

ここで軽く各国を紹介します。

オーディンは比較的軍事主義の帝国で、皇帝による独裁政治が置かれています。

フェンリルはかなりの小国で、故に板挟みにもなりやすいですが、オーディンにもユミルにもいい顔をすることで何とか生き延びています。

ユミルはオーディンとはちがい、比較的政治が安定しています。王家といっても、象徴のような立ち位置であって、権力はそこまで大きくありません。魔法を使った投票なども積極的にやるそうです。

話に一瞬だけ出てきたトールは、魔法と科学を組み合わせた先進国で、比較的中立の立ち位置にいます。しかし、軍事力で言えばオーディンをしのぐほど。有力な国ではあるんですね。


それでは、またお会いしましょう!

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