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過去への逃走、そして脱出 その13

「まずは敵を明確にしなければならないな。大臣がたの予想された通り、騒ぎの元凶は我が国のイズンのうち一体だろう。我が国には三体のイズンがいるが、その中でももっとも戦闘能力の高いイズンだ」

「なんと、やはりゲルム王国のイズンでしたか。しかし、戦闘能力の高いイズンであれば、かなりやっかいではございませんか?」


 先ほどの頭がはげあがった大臣が、不安げにピーター大臣にたずねます。ピーター大臣は不敵に笑って首を横にふりました。


「いや、このわたしにかかれば、三体のイズンの中で最もくみしやすい相手だといえよう」

「くみしやすい? しかしピーター殿は、戦闘能力が最も高いとおっしゃられたが、どのようにしてその攻撃をかわすおつもりですかな?」

「なに、簡単なことだ。このわたしに対するやつの攻撃は、すべて無効化されるのだ。このピンはやつのイズニウム……まぁ、やつを動かす魂のような物質だが、それと同じ物質で作られている。そのためやつの攻撃を受けても、それはわたしに届くことなく防がれるということだ。先ほどわたしに、ドアが爆発してその破片が飛んできたが、その破片はわたしに届くことなく手前で魔法の壁に防がれたのだ」

「なんと! ならばピーター殿はやつの攻撃をすべて防ぐことができると、そうおっしゃられるのですね?」


 頭のはげあがった大臣を含め、イルレアの大臣たちはみな一様にうなずき、ピーター大臣をほめたたえるように笑い合いました。ピーター大臣はふんっと軽べつしたように鼻を鳴らしましたが、すぐに気を取り直して、イルレアの大臣たちを見まわしました。


「とにかくそういうわけだ。だから君たちはわたしのうしろに隠れておくといい。やつの剣や真空波だけでなく、それによって破壊されたドアの爆風さえも防げるということは、やつはどうあがいてもこのわたしに傷を負わせることはできないということだ。……おい、君たち」


 ピーター大臣が料理人コンビに向きなおりました。二人の料理人は、急いで姿勢を正してピーター大臣に敬礼します。


「その元凶の、魔法の人形はいったいどこに行ったのか? まさかまだ調理場にいるわけではあるまい」

「えっ、それは……お前、見たか?」


 やせた料理人が、太った料理人へとたずねました。太った料理人は難しい顔をしたまま、口をへの字に曲げました。


「いや、床に落ちるところを見たけど、そのあとはどうなったか……。なんせあいつが、ガスの通ったパイプを切り裂いて、そのあとすぐに引火したから、おれも逃げるのに必死でさ」

「ばかっ、役立たずだな! 大臣様、お許しください。……ですが、あの爆発です。あの人形も、きっと炎に巻きこまれて焼け死んでるんじゃないでしょうか?」


 やせた料理人が、ご機嫌を取るかのようにへへっとうすら笑いをうかべました。しかし、ピーター大臣は首を横にふりました。


「まさか、やつはゲルム王国の英知の結晶だ。たとえ炎に巻きこまれたとしても、死にはしないだろう。それに君たちの話では、やつがその爆発を起こしたのだろう? ガスが爆発することくらい気づいていただろうし、それでもあえて爆発させたということは、当然爆発に巻きこまれないようにくらいはしていただろう。……だが、少し気にかかることがある」

「気にかかること、でございますか?」


 イルレアの大臣たちが顔を見合わせます。ピーター大臣はそちらには目を向けずに、じっと考えこんでいましたが、やがて再度口を開きました。


「ああ。どうも腑に落ちないのだ。やつはなぜこのような大騒ぎを起こしたのだろうか?」

「えっ? ……あ、そういえばあの人形、ロメン宮殿の美術品もめちゃくちゃにするっていってました! やっぱりあいつ、ロメン宮殿にうらみがあって、それで復讐に」

「バカ、そりゃお前の勝手な妄想だろ! だいたいあいつは魔法の人形で、悪霊なんかじゃないっていってたじゃないか」

「いやでも、もしかしたらロメン宮殿に住み着く悪霊にとりつかれて、それでこんな騒ぎを起こしたんじゃないのか?」


 ぎゃあぎゃあ騒ぐ料理人たちを、先ほどのはげあがった頭の大臣が一喝しました。


「ぺちゃくちゃわめくな! ピーター殿の邪魔になるだろうが!」

「も、申し訳ございません!」


 すぐに平謝りする二人は無視して、ピーター大臣はじっと考えこみます。


「……やつは魔法の人形だが、それと同時にスパイでもある。スパイなら、どうしてこのような大掛かりな騒動を起こしたのだろうか? しかも美術品を破壊しようなどと、スパイがいうだろうか? その目的は?」

「それならやはり、我が国に対する恨みなどではございませんか? それかまさか、ピーター殿も知らないところで、やつになんらかの指令が与えられたとか」


 はげあがった大臣の考察を、ピーター大臣はすぐに否定しました。


「いや、それはないだろう。やつはスパイ活動自体に嫌悪感を持っていると聞いている。それなのに他国にうらみなどを持つことはないだろう。むしろゲルム王国上層部や、それ以上にやつの直属の上司であるロドルフォ君にうらみを持つはずだ。……それにこのわたしが知らないところで、指令などというのはありえない。ゲルム王国の内政で、このわたしが知らないことというものは存在しないのだ。表も裏もな」


 自信たっぷりにいうピーター大臣でしたが、すぐに顔を引きしめました。まゆをひそめてさらに考察を深めていきます。


「確かにわたしは、ゲルム王国の内政はすべて把握している。それにイルレア、ルーシア両国についても同様だ。しかし、それはロドルフォ君も同じだ。それにだいたい、今の時点でやつらはイルレアとルーシアの国境地帯にいるはずだ。それなのにどうしてロメン宮殿に? ……まさか!」


 ピーター大臣の顔が青ざめました。


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

最終話まであと6話となります。10/14に終了する予定です。

どうか最後までお付き合いいただけると幸いです。

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