表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/96

過去への逃走、そして脱出 その5

「おれを救うって、いったいどういうことだ?」


 少し声に警戒の色を混ぜて、カイがロドルフォを問いただしました。ロドルフォは別段気にする様子もなく、逆にカイに聞き返しました。


「お前は戻りたくないのか?」

「戻りたくないって、だからいったいどういう」

「元のからだにだ。イズンではなく、人間のからだにだ」

「なっ……」


 絶句するカイでしたが、ロドルフォはさらに説明を続けます。


「ティアラとシャルロッテの力は、その人間の時間を完全に巻き戻すことができた。それを応用すれば、お前のからだも、イズンになったころよりもっと前、事故に会う前まで戻してしまえるはずだ。そうすればお前は、人間に戻ることができる」


 カイは信じられないといったおももちで、ロドルフォから目が離せませんでした。しかし、やがてエメラルドのひとみをゆっくりとまたたかせて、それから首をふったのです。


「……だが、あんたはいいのか? おれはあんたが創り出したイズンだ。スパイとして使えるようにお前が生み出したんだろう? おれが元の人間に戻れば、そのイズンは消滅してしまうんじゃないのか? それともたましいがこもる前の、完全に人形だったイズンへと戻るのか?」


 カイの疑問に、ロドルフォは肩をすくめました。


「そこはわからん。お前を戻すことで、イズンとお前のたましいが分離し、そのまま人間のからだとイズンの二つが出現するかもしれないし、人間のからだだけが出現するのかもしれない。……最悪イズンだけが現れて、お前のたましいが消えてしまうかもだな」

「……あんた、それが狙いか?」


 ロドルフォは首をふりました。その目は今までのような、カイに対する強い憎しみはなく、むしろ、わずかながら温かささえ感じられました。カイはきつねにつままれたように、きょとんとした顔になってしまいました。


「まぁ、お前が疑うのもわかるよ。本当いうとわたしですら、なぜこんなことを提案しているのかわからないくらいだからな。……だが、わたしの推測だが、最悪お前のたましいが消えてしまったとしても、今度は時間を進めてしまえば戻るのではないかと思う。……もちろん確信はない。すべてわたしの推測だ。だからお前がこれを望むかどうかも自由だ。……だが、娘の婚約者が人形のままというのは、ローザがあまりに不憫だと思ってね」

「……ロドルフォ、あんた」


 ロドルフォはふっとカイから視線を外しました。ゆっくりと無精ひげをなでつけ、それから再び口を開きました。


「勘違いするなよ。別にお前のためを思って提案しているわけじゃない。今いったように、わたしはローザが不憫だから提案したまでだ。もちろんどうするかはお前の自由だ。魂が消えるのが怖くて、しっぽを巻いて逃げたとしても、わたしは別に構わん。それにローザとの仲を引き裂こうとも思わん。まぁ、ローザがどう思うかはわからないが」

「お父様、ローザさんはそんなこと気になさらないはずだわ!」


 抗議するようにティアラがロドルフォを見あげました。ロドルフォはハハハと笑ってうなずきました。


「あぁ、ティアラ、わかっているとも。きっとローザはお前がどんな人間であろうと、人間でなくイズンであろうと、そんなことは気にも留めないだろう。だが、わたしがカイのたましいを、同意なくもてあそんだことは確かだ。だからその償いをしたいと思ったまでだよ。そうしないとこの男に、わたしは永遠に借りを作ったままになってしまうからね。それが我慢ならないだけさ」

「……お父様ったら、素直じゃないんだから……」


 ぽつりとティアラがつぶやきましたが、ロドルフォは聞こえなかったのか、それとも無視したのか、カイに向きなおって続けました。


「どちらにしても、お前はついでだ。わたしの究極の目的は、ローザを植物人間の状態から救い出すことなのだから。もしそれがうまく行ったら、お前を救うことぐらい苦にもならん。……それに、お前たちがスパイ活動をする必要もなくなるだろう」

「なんだって? いや、だがあんたはゲルム王国の」

「わかっている。そこはうまく国を説得するさ。わたしの知識でもなんでも提供して、自由になってやる。それで娘とその妹たち、それにいけ好かない婚約者と暮らせるなら、安いものだ。……今までずっとお前たちにスパイ活動をさせてきたのも、それが目的だったのだからな」

「ロドルフォ……」


 ロドルフォはカイからティアラに向きなおって、その手からランタンを受け取りました。まだなにもいえないカイを、それにティアラとシャルロッテもポケットに入れて、ロドルフォはフッとランタンの火を消しました。ランタンもティアラとシャルロッテの入ったポケットに入れると、ロドルフォは乱暴にピーター大臣をせおいました。


「どちらにしても、そんな生活を手にするためには、このバカをゲルム王国の牢屋にぶちこまなければいけない。それにもちろん、ここから無事に出なければな。……ティアラ、シャルロッテ、準備はいいかな?」


 ロドルフォに聞かれて、二人は元気よく答えました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ