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再びイルレア王国へ その4

 シャルロッテがとびらを開けると同時に、中に銃を持った兵士たちがなだれこんできました。シャルロッテは警戒するようにコートのすそをぎゅっとつかんで、兵士たちをにらみつけました。


「なぁに? こんないっぱい入ってきて。ロッ……、わたしになんの用?」


 寝ぼけたふりをするシャルロッテを、兵士たちはじろじろと無遠慮なひとみでねめつけます。カイは内ポケットの中で、剣の柄に手をかけました。


「失礼いたしました。ただいま車内を調査中でして。どうか調査にご協力ください」


 ルーシア共和国の軍服を着た、国境警備隊の男が、丁寧な態度でシャルロッテに話しかけました。しかしそのうしろで、イルレア王国の兵士たちが、なにごとかひそひそ話をしています。


「調査って、なにを調べているの?」


 シャルロッテに聞かれて、国境警備隊の男は、ちらりとうしろをふりかえりました。イルレア王国の兵士たちは、ひそひそ話を続けていましたが、やがて国境警備隊の男にうなずいたのです。国境警備隊の男は敬礼してから、うしろへ下がりました。


「なんなの、あなたたちは?」


 シャルロッテがとげとげしい声をだして、イルレア王国の兵士たちをいかくします。しかし、イルレア王国の兵士たちは全く意に介していない様子で、にやにや笑いをうかべながらシャルロッテに近づいてきました。


「なによ、大声出すわよ!」


 シャルロッテの言葉に、兵士たちはついにこらえきれなくなって、笑いだしました。


「アハハハハ! いや、悪い悪い。ごめんよお嬢ちゃん。お兄さんたちはね、悪いスパイがこの汽車に乗っているって聞いたんで、そいつらを探していたところなんだ」


 兵士の言葉に、内ポケットの中でカイが歯がみしました。


 ――やっぱりバレていたのか――


 しかし、シャルロッテは動揺を見せずに、顔をこわばらせながらも男たちをにらみつけたのです。


「そんなやつ知らないわ! ここには誰もいないから、早く出てってよ!」


 かみつくようにどなるシャルロッテを、男たちは少し驚いたような顔で見つめました。しかし、すぐにさっきのにやにや笑いをうかべてから、兵士の一人がシャルロッテに問いかけたのです。


「そうか、そりゃ悪かったな。ところでお嬢ちゃんは、一人旅かい? こんな若いのに、ずいぶんと珍しいな。彼氏とかと旅行じゃないのかい?」

「なによ、一人じゃいけないっていうの? それにロッテ……わたしにはちゃんと彼氏くらいいるんだから!」


 シャルロッテがむきになって、兵士たちにわめき散らします。カイはひやひやしながら、兵士たちの様子をじっと見ます。兵士たちは顔を見合わせて、それから豪快に笑いだしたのです。


「なにがおかしいのよ!」


 ますますむきになるシャルロッテを落ち着かせようと、カイは内ポケットからシャルロッテのからだをとんとんっとたたきました。シャルロッテが思わず声を荒げます。


「ちょっと、カイは黙ってて!」


 ――バカッーー


 かろうじて声に出しませんでしたが、カイの顔が真っ青になります。シャルロッテも自分がしてしまった過ちに気づいて、急いで口を押さえました。兵士たちはにやっとしてから、シャルロッテを問いつめます。


「うん? 誰だい、カイって。もしかしてお嬢ちゃんの彼氏かい? でも、彼氏のすがたはどこにも見えないなぁ。お嬢ちゃん、いったい彼氏はどこにいるんだい?」

「べ、別に、彼氏なんていないもん……」

「あれれ、でもさっき彼氏くらいいるっていってなかったっけ? それともあれか? お嬢ちゃんの頭の中にだけいる、見えない彼氏なのかな?」

「失礼ね、ちゃんといるわよ!」


 もはや支離滅裂になるシャルロッテを、兵士たちは面白そうにながめていましたが、やがてクククと意地の悪い笑い声を出してから、兵士の一人がふところから写真を取り出したのです。


「ごまかしたって無駄だよ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんとカイとかいう野郎、それにティアラちゃんっていうお嬢ちゃんのお姉さんがいるんだろ? そうだろ、ロッテちゃん?」


 シャルロッテの顔から血の気が引きました。兵士の持っていた写真には、カイ、ティアラ、シャルロッテが三人並んでいるすがたが写っていたのです。


「そんな、どうしてロッテの写真が?」

「よし、とらえろお前ら、うぎゃあっ!」


 写真を持っていた兵士が悲鳴をあげました。いつの間にか内ポケットから飛び出していたカイが、兵士を切りつけていたのです。それとともにシャルロッテのすがたが消えて、兵士たちの間に動揺が走りました。


「なんだ、いったいどこに逃げた?」

「バカ、やつらの力だよ! 姉のほうの力で妹を小さくしたんだろう。どこかに隠れてるはずだ、探せ! 姉はすがたを変えられないんだ、見つけるんだ!」


 兵士たちがどなり、銃をかまえようとしますが、すぐにぐあぁっと悲鳴をあげます。足を押さえこむ兵士たちの間を、カイがぬうようにして剣をふるっていきます。


「くそっ、あの姉妹だ、姉妹をねらえ!」


 兵士の一人が、ぐったりとうずくまるティアラを見つけて、そのからだをつかもうとします。しかし、手をカイに切り裂かれて、ぎゃああっと悲鳴をあげました。そのすきにカイはティアラを抱きかかえて、思い切り窓を切りつけたのです。パギィンッという甲高い音とともに、外の凍えるような空気が一気に車内に流れこんできました。


「くっ、待て!」


 兵士たちが腕を伸ばしてきましたが、カイはその手をかいくぐって、汽車の外へと飛び出したのです。


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