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再びイルレア王国へ その2

「でも、本当に見れば見るほどきれいな砂よね……」


 ルーシア共和国からイルレア王国へ戻る汽車の中で、ティアラがうっとりとした声を出しました。二人はふわふわの毛布の中で、真っ白な賢者の砂が入った小ビンをながめていたのです。カイのすぐとなりで、人間サイズのシャルロッテがもぞもぞとからだを動かしました。なんだかんだいって疲れていたのでしょう。シャルロッテはぐっすり眠っていました。


「確かにきれいだけど、これも結局戦争の道具にされるんだろう。そう考えると、少し後味が悪いけどな。あの男がいっていたように、この砂はもともと悪魔のからだからできたものだ。とてつもない魔力を秘めているのだろう。そしてその使い道を考えるのは人間だ。……使い手まで悪魔になるような道具にだけは、しないでほしいけど、あいつのことだからな……」


 カイの言葉を聞いて、ティアラは重々しくうなずきました。真っ白な、それこそ雪のような、何物にも色づいていないこの砂を、どのように染めていくのでしょうか。ティアラは祈るように両手を組んで、砂をじっと見つめました。


「ロドルフォはきっと、この賢者の砂を使って強力な兵器でも作るつもりなんだろう。今は隣国との戦争もなく、平和なゲルム王国も、戦争に巻きこまれるかもしれない。……そしたら、ローザみたいな犠牲者が、またたくさん増えるんだろう。だけど……」


 もし仮に賢者の砂を隠したり、捨ててしまったりしたら、きっとロドルフォは怒り狂うでしょう。そうなればもう二度とローザに会うことはできなくなってしまいます。カイにはそれが、恐ろしくてたまらないのでした。そんなカイの気持ちを知っているからこそ、ティアラはなにもいわずにそっとカイの手をにぎったのでした。


「……とにかく今日はゆっくり休みましょう。ロッテったら、けっこう寝相悪いから、ここにいたらわたしたちきっとつぶされちゃうよ。わたしも早くいつものベッドで眠りたいし。デザートもたくさん食べたしね」

「ホントに二人ともよくあんなバクバク食べられるよな。あんな甘ったるいもん、一口で十分だよ」


 遅めのディナーのあとに、シャルロッテはまたしても大量のデザートを頼んだのでした。ティアラも様々な味を楽しんで、満足そうにしていましたが、もちろんカイはぐったりその様子を見ているだけでした。


「今日はコーヒーも頼んでくれなかったし、さんざんだよ」

「いいじゃないの。ゲルム王国に戻ったら、ゆっくりできるんだし。カイのお気に入りのカフェに行くのもいいわよね。今回ばかりは、お父様もわたしたちに休暇をくださるだろうし」

「どうかな。……それに任務以外で、おれたちがいっしょに行動するのを、はたしてあいつが許してくれるかどうか」


 ティアラもシャルロッテも、ゲルム王国にとっては数少ない、非常に高度な魔法で創られたイズンです。今まではスパイとして働くための社会勉強ということで、カイといっしょに余暇を過ごすことを許されてはいたのですが、さすがに他国に旅行という形で行くことまで許されるかどうかは、疑問符がつくところでした。


「……でも、休暇なんだし、そこらへんは自由にしていいんじゃないかしら? それに今回はわたしたちも疑われたりしてないんだし、ルーシア共和国に戻っても問題はないでしょう?」


 そういいながら、ティアラはポシェットの中から、大事そうに手紙と写真を取り出したのです。あの男が最後に託した、手紙と写真でした。


「あの人の最後の頼みだもん、やっぱりルリアさんを探してあげないと、かわいそうだよ」


 ティアラの言葉に、カイも疲れたように顔に手を当てました。小さくため息をついて、じっと写真を見つめます。


「……そうだな。それはおれももちろんそう思うよ。でも、ロドルフォたちにはきっと、そんな理屈は通用しないと思う。あいつらの関心ごとは、どうやって他国から情報を盗み出すかってことだけだからな。あとはどうすれば魔法の兵器を開発できるか。それだけだよ。……もし本当に時間を統べる悪魔を呼び出す魔導書(グリモリオ)なんてものがあるなら、ロドルフォは喜んでそいつを使っただろうしな」


 はきすてるようにいうカイを、ティアラは複雑そうな目で見つめています。ティアラの視線に気づいたカイは、少しバツの悪そうな顔をしてから話題を変えました。


「……ま、なんにせよこれでこの雪ばっかりの国からおさらばできるんだ。そう考えるとホッとするよ。やっぱり寒い国は苦手さ」

「カイったら……。でも、ロッテじゃないけど、わたしも本音は、もうちょっと遊びたかったな。雪国なんて初めてだったから。かまくら作って中でポトフとかチーズフォンデュとか、いろいろ食べたかったのに」

「そんなバクバク食べてたら、また床を突き抜けるぞって、痛い痛い、わかったよ、ごめんってば」


 ティアラが怖い顔でカイのほおをつねってくるので、カイはあわてて平謝りします。


「今度わたしが太ったっていったら、カイのこと思いっきり小さくして、虫かごかなんかに閉じこめちゃうからね!」

「おい、そんな怖いこというなよ。悪かったってば。いやほら、それにおれはどっちかっていうと、ふっくらした娘のほうが好きなんだぜ。ローザもそうだったし」

「……カイ、まさかとは思うけど、ローザさんにもそんなこといったんじゃないでしょうね?」

「う……。なんでわかったんだよ」

「バカッ! 女の子にそんなこというなんて最低よ! ローザさんもすっごく怒ってたでしょ!」


 カイは答えずに顔をそむけましたが、右のほおをさすってしかめっつらをしているところを見ると、どうやら図星だったようです。ティアラがふんっと鼻を鳴らしました。


「カイからいろんな社会のことを教えてもらうようにって、お父様たちはいってたけど、カイこそ女の子の気持ちについて勉強し直したほうがいいと思うわ」


 カイはがっくりと肩を落としてしまいました。


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