イルレア王国の美術館 ~潜入編~ その4
カイにいわれて、シャルロッテが待ってましたとばかりにまくしたてます。
「まかせてね、カイ! まずはこの通路をまっすぐ進んでね、最初の分かれ道はまっすぐ行くけど、二番目の分かれ道は右だよ。右に行ったら、ライオンさんの絵がかかってるところがあるから、そこを今度は左だよ。それで、ペッレグリの絵、『騎士たちの夜』がかかってるところでやっぱり左で、それで……」
「ちょっと待て、ちょっと待て! なんだって、ライオンの夜が左で、それで」
「違うよ、ライオンさんの絵は、『王者の晩餐』って題名なんだよ。モンテーロの絵なんだけど、ロッテはあんまりモンテーロの絵は好きじゃないの。タッチがちょっとゴワゴワしてるんだよ。モンテーロよりは、ペッレグリや、そうだ、『騎士たちの夜』の手前にある、ヴァシリの『隊長の帰還』のほうが」
「シャルロッテ、そうじゃない。絵の名前はいいから、もう一度どう進んでいくか教えてくれ。全然わからなかったぞ」
「もうっ、カイったら、ちゃんと聞いててよね。だから最初の分かれ道はまっすぐで、二番目の分かれ道は、バルザーリの『野ばら』が飾ってるからわかりやすいんだけど、右に行くんだよ。そのまま『王者の晩餐』がかかってるところまで行って、そこを左で」
「ストップ、ストップ! わかった、こうしよう。シャルロッテ、分かれ道が来たらそのたびどっちに曲がるか教えてくれ。な?」
あわあわするカイのすがたを、ティアラが面白そうに見ています。対照的に、シャルロッテはカンカンです。不満げに胸ポケットの中で暴れます。
「なんでよぉ! ちゃんと説明したじゃんか! カイが全然覚えないのが悪いんじゃんか。だから、『野ばら』を右に行って、『王者の晩餐』を左、で、『騎士たちの夜』を左で」
「シャルロッテ、違うんだよ、別におれが覚えられないからじゃないんだ。ただ、分かれ道のたびにシャルロッテに聞いたほうが、確実だと思ったんだ。それにさ、分かれ道に来るたびシャルロッテとおしゃべりできるほうが、おれも元気が出る気がするんだよ」
これはかなり効果があったようで、胸ポケットの中のシャルロッテが完全に固まってしまいました。少しの沈黙のあと、シャルロッテがおそるおそるカイにたずねます。
「ホントに……? カイ、ホントにロッテとおしゃべりするの、好き? ロッテのこと、好き?」
「ああ、本当だ。ロッテはおれの大事な仲間だからな」
「違うの、仲間とかじゃなくて、その、ロッテのこと……」
「ロッテ! カイもいってたでしょ、静かにするようにって! ほら、カイも早く行きましょう。もしかしたら見張りが来ちゃうかもでしょ」
なぜか顔を真っ赤にして怒るティアラに、カイはぽかんとしていましたが、じろっとにらまれたので、あわてて通路を進んでいきました。
「ずるいよ、お姉ちゃん、ロッテを」
「シッ! 静かにして! 誰か来ちゃうかもしれないでしょ」
ティアラにすごまれて、シャルロッテも思わず息を飲みました。ティアラはぐんぐんカイを引っぱって進んでいきます。
「どうしたんだよ、ティアラ。いつもは暗いところじゃすごい怖がるのに。今日はずいぶん積極的じゃないか」
ティアラに引っぱられながら、カイが意外そうに聞きます。ティアラはそっぽを向いて答えません。シャルロッテがからかうように小声でいいました。
「どうせお姉ちゃんのことだから、怖くて早く帰りたいって思ってるのよ。ね、カイもそう思うでしょ?」
「ロッテ、分かれ道に来たけど、ここはどうするの?」
いきなりティアラに聞かれて、シャルロッテはへぇっとすっとんきょうな声をあげました。
「えっと、あれ、『野ばら』が飾ってる? え、どうしよう、ここ最初の分かれ道だった? それとも違った?」
「もうっ、おしゃべりするのはいいけど、ちゃんと案内してよ! ここは最初の分かれ道よ」
ティアラに怒られたので、シャルロッテは不機嫌そうに鼻を鳴らしました。
「なによお姉ちゃんったら。……あれ、あれなにかしら? あっ、きゃあっ、おばけよ!」
「ひぃっ!」
ティアラが悲鳴をあげたので、カイはあわてて口を押さえました。闇に身を隠して、しばらく様子を見ます。しかし、どうやら本当に見張りはいないようで、誰もやってきませんでした。シャルロッテがアハハと笑いましたが、カイがわざとらしくせきばらいしたので、急いで口をつぐみました。
「ふぅ、危なかったな。……二人とも、頼むから静かにしててくれよ。この間みたいに見張りに見つかったら、とんでもなく面倒くさいことになるんだからな」
カイが顔をしかめて注意します。ティアラが腕にしがみついたまま、申し訳なさそうにうつむきました。
「……ごめんなさい。そうよね、わたしたちの仕事は誰かに気づかれたらそれで終わりだもんね」
神妙なおももちのティアラの頭を、カイが優しくなでつけました。
「まぁでも、この間だってなんとかなったんだから、不安になる必要はないよ。なにかあったとしても、ちゃんとおれが守ってやるからな」
ティアラの胸にうずまいていた、しめつけてくるような恐怖がやわらぎ、代わりに安心感で満たされていきました。カイの手をもう一度ぎゅっとにぎって、ティアラがぽつりとつぶやきました。
「カイ、手を離さないでね」
カイもティアラの手をしっかりと握ってから、まるで自分にいい聞かせるかのようにこたえました。
「ああ。今度こそ絶対に離さないよ」
お読みくださいましてありがとうございます。
本日の投稿はこれで終了となります。
また明日も19時台からだいたい一時間ごとに1話ずつ、合計4話投稿予定です。
よろしければ明日もまたお読みいただければ幸いです。
ご意見、ご感想などもお待ちしております。




