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厭世のルシファー  作者: 六日
朝露
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プロローグ

めちゃめちゃ厨二なタイトル付けてしまったなあと思います。

 同じ顔で、同じ体で、お揃いの髪型で、お揃いの服を着て、同じものを食べて、同じ遊びをして、同じことを考える。

 双子とは、それが普通なんだと、そう思っていた。


「やっぱり双子って特別なのねぇ」

めいよいは二人で一つなのよ」


 幼い頃、それこそ、小学生になる前。その考えが当たり前だと思っていた背景には、周りの大人の悪意のない言動があった。毎日のようにそういった類の言葉をその小さい身に浴びていた当時の私は、何の疑いもなく、双子とはそういうものなんだと思い込んでいた。

 特別、双子だということに自負さえ持っていて、双子という繋がりを殊更意識していた。

 何をするにも同じでなきゃ気が済まなくて、いつもいつも一緒にいた。


 昔の宵はよく怒ればよく泣いて、そして、よく笑う、感情表現の豊かな子だった。私もそうだった。宵が怒れば私も怒るし、宵が泣けば私も泣く、そして、宵が笑えば私も笑った。それが素直な感情からの反応だったのは、いつまでだろうか。私たちが同じでいられた期間はとても短かった。

 年が経つにつれてなんてゆるりとしたスピードではなく、日に日に違和感が増していく。ついには明確な差異として目の前に現れた。


 ——宵は天才だった。そして、私は凡人だった。


 同じことをしても同じようにいかなくなった。それでも、精一杯背伸びして同じになるように頑張った。

 いつの間にか、同じであるのが普通だという考えが、同じでなきゃいけないという強迫観念にすり替わっていた。

 それは私が素直に感受することすらねじ曲げていく。宵が素直になればなるほど、私は素直になれなくなっていく。そのうちに感覚が麻痺してきて、自分が本当は何をしたいだとか何が好きだとかもわからなくなって、宵と同じことをすることが私の全てになってしまっていた。

 我ながら、今思い返してもゾッとしてしまう。


 小学生二年の頃だった、それまでなんとか維持してきた関係が崩壊したのは。


 その日は九月の暮れにしては、まるで真夏のように暑かった。夏を象徴するようなやけに立体視できる大きな大きな白い塊がゆっくりと青空を滑り、眩しい日差しが容赦なく地面を照りつけた。

 宵も私もノースリーブのワンピースを着ていた。色違いのギンガムチェック。私が赤で、宵が青だった。


 それは何時間目なっただろうか。太陽は随分と天高く昇っていた気がする。

 図工の時間に、花の絵を描くということで、私たちのクラスはみんな外に出ていた。ほとんどの子が校門近くの花壇の花のモデルにして、似たようなところに固まっていた。

 それを面白くなさそうに眺めた宵が、一人集団を抜け出して走り出す。私の目さえ盗んだつもりだったのかもしれないが、私も遅れて走り出す。


 宵は校門から遠く離れたグラウンドの片隅に座り込んでいた。

 宵の前には、薄い桃色の花びらを広げて、細い茎をしならせた一輪の花が。


「コスモス! めいもコスモスにしようとおもってた!」


 いつもの調子で話しかけて、画用紙とクレヨンを胸に抱きながら同じように宵のとなりに座り込む。


「やっぱり、ふたごだから、つうじあってるんだね」


 宵に笑いかけたつもりだった。

 ところが、次の瞬間には横から何か強い力で押されて強く目を瞑る。やめてよぉおっ、と切羽詰まったような宵の声が響いた。 

 何が起こったのかわからなかった。

 目を開けば、青のギンガムチェックが微かに揺れていて、もう少し上を見上げれば怒りに顔を歪めて私を見下ろす宵がいた。


 困惑しきった頭でわかることは、痛いということくらいだ。


「よいのまねばっかりするな! ぜぇんぶっ! よいがいちばんなんだから、めいなんかいるいみないじゃん!」


 そう力の限り怒鳴り散らした宵は、極めつけにピンクのクレヨンを持って振りかぶる。反射的にきつく目を瞑ると、額に痛みが走った。

 わけもわからぬまま喉の奥がカァーッと熱くなって、じわりじわりと悲鳴が滲む。

 今度こそ目を開くと、もう青いギンガムチェックはどこにも見えなかった。


 じりじりと肌を焼かれているような。強い日差しに晒され地面に横たわったままでいると、痛みが増していくようだった。剥き出しだった腕や膝は砂利で擦れたせいで、皮が剥け、血が出ていた。意識すればするほどじんじんと痛む。

 スカートもどろどろだ。起き上がる気力もなくだんだんと込み上げる気持ちに伴い、とうとう視界が霞み始めた。


「っう、ぁ、ぁあ、っわあああああ! うううああああ!!」


 当て付けのように泣き喚いて、喚き散らした。

 しかし、暫くすると泣き疲れてしゃくりあげるだけになった。喉の奥から奇妙な音が鳴る度に胸が上下して揺れ、息が上手くできずにまた涙がこぼれる。

 先生やみんなは校門にいるため、こんなグラウンドの片隅でどれだけ泣き叫ぼうとも声が届くわけがなかった。それでも、自分が一番可哀想だと思っていた私は、このままずっとここで泣いててやろうかと底意地の悪いことを考える。


 しかしながら、ふと先程の宵の言葉が脳裏に蘇る。


 ——めいなんかいるいみないじゃん!


 急にこわくなった。ずっとここで泣いていても、誰も探しにきてくれなかったらどうしよう。途端に世界で一人ぼっちのような錯覚さえ覚えて震える。

 よろよろと覚束ない足で立ち上がる。脚や腕、スカートについた土を払い落とすと、視覚的にも痛々しい患部が露わになり、余計に痛覚が刺激された。


 ふと、足下には折れ曲がって土で汚れた画用紙と、散らばったクレヨンたち。拾い上げる後から、涙がぽろぽろと落ちていく。

 拾い上げたそれらを脇に挟み、溢れるばかりの涙を右手で拭い、左手で拭い、それでも足りなくて、右腕で拭い、左腕で拭うと傷口に滲みてますます視界が潤んだ。 

 ぼやけて何も見えない世界を走り出す勇気なんてなくて、私はとぼとぼと歩き出す。


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