第五話「悪霊退散」
「ああ、その事ね」
ヤマザキさんは何だという感じでいう。
「もちろんオーケイだよ。君みたいな素晴らしく、崇高な魂をもった方は大歓迎だよ」
そう言って、栄一に手を伸ばした。
栄一はその手を握ってブンブンと振った。
「交渉成立ですね」
と、吉方。
「ところで、ヤマザキさん。俺、どんな事をして、霊能力を開花させるんです?」
「んん。先ずは、厄介払いだ。栄一くん」
「えっ」
「多分気付いていないだろうが、君の後ろに憑依ているのは、間違えなく厄介者だ」
ヤマザキさんは今までの丸い目を鋭く輝かせた。
「………俺の、後ろ?」
「ああ、そうだ」
栄一は振り替える。
「お前か!!」
栄一は吉方に殴りかかるふりをした。
「待て、待て」
吉方は防御。
「栄一くん。敵はその友達じゃなくて……」
ヤマザキさんは、栄一に鏡を見せた。
「ん?俺の背後にモヤが」
「そう。よくわかったね、詰まる所君は、厄介者に見いられている」
「ああ。厄介者って悪霊の事だったんですか」
「その通り」
「じゃあ、どうやって祓えばいいんですかね」
すると、ヤマザキさんはいきなり立ち上がった。
「こうするんだよ…………」
右手を大きく振りかざして、栄一に波動弾を放つフリをした。
すると、その場にいた全員が吹き出した。
「アッハッハッハッ!それ、中二病ミタイですねぇ、ヤマザキさん」
悟一は派手に馬鹿にする。
「ん?そうかい。俺は普通にイカしているとおもうんだが」
キョトンとする彼を見て、悟一や吉方だけではなく、波動弾をおそらく受けたであろう栄一本人も、大爆笑である。
「えっ。それはなんですか?」
といった具合だ。
だがしかし、次の瞬間、一同は再び爆笑の渦に包まれる事になった。
栄一の後ろの壁に、黒いモヤのような物が怪しく蠢いているのであった。
その得たいの知れないナニカは、人の形をしているように見え、歪に手足を動かしていた。
一斉に
ドワァーーッ
と歓喜に満ちた声が部屋中に響き渡った。
「アッハッハッハッ!」
「これ、結構ヤバイ悪霊じゃないっすか!霊媒師でも逃げ出しまっせ」
悟一は妙にテンションを上げている。
「いや、おれ正直、除霊に関しては全く知識ないけどよお、いまのヤマザキさんのインチキ波動弾で、栄一に憑いていた悪霊が、取れただって?しかも、かなり恐ろしいタイプの悪霊?面白オカシイにも程があるっしょ」
吉方は手で椅子をバシバシ叩きながら笑い転げている。
当然、波動弾を撃ったヤマザキさんもそれを受けた栄一も腹を抱えている。
「さて、君はどういう用にしてこの物騒な悪霊を退治してくれようかな?栄一くん」
ヤマザキさんは笑い終えてから、その丸い目を切れ長の表情に変えて、栄一に問いかける。
「どうしましょうかね。いや、と言ってもコイツ、別に害は無さそうだし、浮遊霊としてほったらかしにしておいても良いんじゃないですか?」
栄一は、なんだか悪霊を見下した感じで、答えた。
「ほう、それは実に面白い。大抵の人間なら、このレベルの悪霊に恐れおののいて、一目散に霊媒師のところへとび込んで、除霊の催促を頼むくらいなんだ」
ヤマザキさんは、ニヤァと笑って話を続けた。
「アッハッハッハッ!それを害は無さそうだしってかぁアッハッハッハッ。そりゃ悪霊も出番はないな。どれ、俺がもう一度波動弾をはなてば…………………」
ヤマザキさんが腕を振り上げると、栄一はそれを制止した。
「まってください。俺にもやらせて……」
彼は、その悪霊に向かって、波動弾を放つフリをした。
次の瞬間だ。
その空間全体の空気が、一瞬にして澄んだ。
そして辺りには、高価な線香を炊いたような、なんだか良い香りが漂っている。
今まで、目の前で蠢いていた黒い影は、彼の波動弾により、
…………弾け飛んだ。
「えっ! ちょっと栄一くん。今のワザ、どっこで覚えたーん!」
ヤマザキさんは仰天し、目を丸くさせた。
「いや、あなたの真似をしただけですよ」
「ほーーう。こりゃおったまげたね、何たって今のワザは俺たちがよく使うヤツだよ」
「俺はその技を慈悲眼、ヤマザキさんはそれを平和の核爆弾と呼んでいるんだよ」
悟一は栄一に向かって言う。
「へえ。そんな中二病みたいな名前が付いているんですか」
と栄一は少し照れながら言った。
すると、悟一とヤマザキさんは顔を見合わせてから再び
「アッハッハッハッハッハッ!」
と大笑いしたのだ。
「そりゃいいや。栄一、中二病で成仏しちまう悪霊ってのはッ」
悟一はまだ笑っている。
そして栄一は何がそんなに面白いのか分からないまま今日は解散という事になったのである。