第三話「始まりの続き」
「知り合いの霊媒師?」
吉方が興味深そうに聞く。
「そうそう。俺、ちょっと取り込んでて時間が無いんだよ。本当はぜひその友達と会って話をしたいところだけど、まあ霊感テストって感じで……………あ、いまその友達近くにいる?」
「よく分かるなあ。実はいるんだよ」
「じゃ、ちょっと変わって」
悟一に頼まれたので、吉方は栄一の肩を叩いた。そうして、栄一は遠慮がちに話かけるのである。
「………あ、もしもし」
「はいはい。君がその霊感がついちゃった友達?」
「はい。長谷川栄一と申します」
「ああ、栄一くんね。同級生だろ?まあ敬語なんて堅苦しいモノは使わないで、気楽に話そうよ」
「いや、でもあなた結構有名な………」
「アッハッハッ」
悟一はいきなり高笑いを始めた。
電話口で初対面の相手が、自分の事で大笑いしているのにも関わらず、何故か緊張感を感じさせない、オーラがあった。
どこか、古い親友とでも再会したかのような安心感が彼にはあった。
「別に、俺はハリウッドスターや芸能人とかじゃないさ。徐霊が趣味のただの高校生だよ」
「えっ。じゃあこんな感じのタメグチでもいいの?」
「むしろウェルカム」
「マジかよ。で、話が戻るけどその霊媒師って人は?」
「うんうん。彼、トテモ面白い人でね。指導者の立場としては俺より優れている。その人が本来持っているエネルギーを最大限に引き出してくれるから、取り合えず一回でもいいから会ってご覧よ、面白いから」
「面白い?」
栄一はそれを聞いて、妙に胸の高鳴りを感じた。
高揚感、満足感、充実感、そういうプラスの波動が全身に満ちて行く用な、感覚になった。
と、いうのもこれから起こる出来事に対しての期待が膨らんだからに他ならない。
「ああ。彼、山崎って先輩なんだけどキャラクター的に最高だよ」
「ああ、なるほど。キャラが面白いって事か」
「そういう事。で、栄一くん、近いうち空いている日にちある?」
「空き時間なら、今学校終わったんで、すぐにでも大丈夫だよ」
「オーケイ。じゃあ吉方に変われる?」
栄一は吉方に携帯を渡した。
「もしもし、ああ。分かった。じゃあな」
と、直ぐに電話を切ってしまった。
それから吉方は栄一の方を振り向き
「行こう!」
と言った。
「えっ。どこに?」
「悟一に会いに行く。今から」
そう言うと、吉方はスクールバックを、ぶんっと振り上げて肩に描けた。
それから、足でイスを蹴りとばして、机の中にすっぽりと収納させた。
「行くぞ!」
「待てよ!」
そういう事で、二人は外に飛び出して、悟一と顔を会わせに行くのであった。
「ところで何処なの?待ち合わせ場所は」
栄一が聞いた。
「まあ、俺について来れば分かるさ」
二人は、また夕陽の射す道を歩く。
吉方は度々、腕時計を確認していた。
「確か、ここら辺でいいはずなんだけどな」
吉方は困った様子で呟いた。
「えっ。ここら辺?」
「ああ、この通り道でばったり会う事がよくあるから、さっきも道でばったり会おうよって感じで待ち合わせたつもりだったんだが」
「それ、待ち合わせって言えるのか?」
「悟一がそう言ったから、きっと来るでしょう」
そう言いつつ、ふと前を見ると、一人の学生がズボンのポッケに手を突っ込み、悠々とこちらへ歩いてくる影が見えた。
「あの人かな?」
「ううーん」
吉方は目を凝らしながら言う。
「ここ時間帯に歩いている高校生は多いからな」
「確かにねえ」
「あれ?悟一っぽいぞ」
その言葉で、栄一は一気に胸が高鳴るのを感じた。
そして、やっと顔が確認できる距離に近づくとその人影は手を振った。
「おう。久しぶりだな、吉方」
「お前も変わらないな、悟一」
八雲悟一という人間は至って普通の人間だった。
学生の間で噂になるほどの人物だから、髪を染めたり、服装を乱したりしているのかと栄一は想像していたが、実際はその真逆だった。
髪は、耳にかからない程度の、さっぱりとした学生らしい髪型で
学ランにはシワが寄っておらず、色落ちもしていなかった。
さらに足元に目を配ると、ローファーもきちんと磨かれていて、まさに生徒手帳に書かれた模範の生徒のそれだった。
栄一は拍子抜けした。
彼は学校の規律を守るタイプの人間なのだろうか。
だとしたら少し残念だとも思った。
「彼が栄一くん?」
悟一が声を発した。
「そうだよ」
と、吉方。
「ああ、どうも初めまして」
栄一は手を差し出した。
悟一はその手を握って、上下に振った。
「おお、ヨロシク!栄一くん」