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満月の夜に

作者: 志崎洋

「おとうさん、ほら見て、きれい……」

 女の子はそう言って、夜空を指さした。

 そこには満月がきらきらと輝いていた。

「うん、きれいだね」

「おかあさんはあそこにいるの?」

「そうだよ」

 父親はやさしく答えた。

「あそこは天国?」

「うん、天国かもしれない。おかあさんはいつもあそこから見守ってくれているんだよ」

「そう……」

 かわいいえくぼをへこませて、女の子は月にむかってほほ笑んだ。

「おかあさん……」


 彼女が物心ついた時には、もう母親はいなかった。いつも父親と二人だけだった。だけど、不思議とさびしさは感じなかった。なぜなら、母親は夜空を見上げればそこにいたからだ。

 月が彼女の母親がわりだった。


 三日月になったのを見ては、    

「おかあさんがやせて、かわいそう」

と言って、目にいっぱい涙を浮かべた。


 そして、満月の時は、

「きれいね、おかあさん……」

と、うれしそうに満月を見つめ、ほほ笑んだのだった。


 いつしか月日は流れ、女の子はりっぱな娘に成長した。見ちがえるばかりに美しくなり、その姿は母親にそっくりだった。


「こんなにきれいになって……」

 父親は目をうるませながら娘を見つめた。

「お前もだんだんと母親に似てきたな……」

「おとうさんは、おかあさんがいなくてさびしくなかったの?」

「さびしくなんかないさ、お前がいるからな」

 父親は母親にうりふたつの娘を本当に愛おしく思っていた。

「おとうさん、私の小さい頃のこと覚えている?」

「ああ、覚えているよ。とってもかわいかった……それに、いつも月を眺めてばかりいた……」

「そうだったわね……」


 彼女の顔にふと、さびしさがよぎった。そして、思い切るかのように父親に向かって言い放った。

「おとうさん、私……知ってしまったの!」

「何!」

 突然の言葉に父親は驚いた。そして、父親は観念したように押し黙った。

 いつかはこの日が来るのを怖れていたかのように……。


「おとうさん、長い間本当にありがとう……」

 娘の目には大粒の涙があふれていた。

「これから、母のところに行きます……さようなら」

 そう言うと、彼女の体はまばゆいばかりの光に包みこまれた。そして、夜空に向かって、ふわりと舞い上がっていった。


「待ってくれ!……」

 父親は、夜空に向かって大声で叫んだ。


「そうか、知ってしまったのか……、お前の母親は………かぐ………」


 夜空には、満月がきらきらと輝いていた。











真実を知ることは時に悲しい…

そして、永遠の別れはさらに悲しい……。


この物語を若くして逝ってしまった今は亡き妻へ捧げます。


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