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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
6/49

9月1日(5)「女子接触」

 「で、今度は何をしてるの?」


 あれから数分を要して復活した僕は―我ながら丈夫だと思うよ―、再び調べ物を始めた祈の後ろから、ディスプレイを覗き込んだ。


 そこには藤野宮女学院〜生徒名鑑〜と題したページが写っていた。


 それは学園側が作ったような者ではなく、「個人」が作った紹介ページだった。


 生徒一人一人の詳細なプロフィールと管理人のコメントが添えられていた。


 名前は勿論、年齢、住所、家族構成、所属クラブ、身長、体重、まさかと思ったが顔写真、スリーサイズやメールアドレスや電話番号まで載っていた。


 どう考えてもこのサイトは・・・。


「思いっきり犯罪者じゃないかこの管理者・・・」


「そうね。 でもこちらとしてはこういう変態が居るおかげで仕事がやりやすいわ。 日本はいい国ね」


 そう言いながらも流石に祈も、眉根を潜めながらそのサイトを閲覧していた。


 そこで一覧の様なページで「このページ内で検索」で数字を打ち込んでいた。


 09×ー4×5×ー×2×4・・・。


 何処かで見た事がある番号だった。


 というかさっき・・・。


 と、思い出そうとした時、祈はエンターキーを勢いよく押した。


 そういう最後のエンターを強く押したりする人居るよなぁ・・・。 何処かの決戦用人造人間ロボットアニメでも見過ぎなんだろうか・・・。


「だいれくとHIT! この子ね?」


 検索から現れたデーターには「朝美 麻兎」という女生徒が映し出されていた。


「アッーーーーーーーーーーーーーーー!!」


「きゃう!? な、何よ掘られた男みたいな声出して! 耳元で叫ぶなんて最低よ!?」


 祈が非難の声を上げるが、そこに映っていたのは僕が先程メールした相手だった。


 要するに告白してきた娘だ。


「あぁ、ごめん。 あれ? って事はさっき打ち出してた電話番号ってやっぱりこの娘の? 祈に教えたっけ?」


 僕の携帯にアドレス等の情報は入っているが、確か祈にはまだ見せてないハズだ。


 どうやって番号を知った?


「さっき盗み見たに決まってるでしょ? 本当に・・・本当に貴方は桐梨相談所のミチオなの?」


 疑いの目を向けられて顔を背ける事もせず、僕はそんな事より真意が知りたかった。


「そんな事どうだっていいよ」


「貴方自分の存在否定していいの?」


 半眼になって呆れていたが、勿論僕が僕である為にミチオ自体を放棄したつもりは無い。


「そんなのどう足掻いても僕は僕だよ。 桐梨相談所は僕の事務所だし、僕はミチオだよ。 産まれたときから」


 そこまで言ってキョトンと見上げて来る祈に気付いた。

 先程から対等に話して居たが、経験論のような台詞は理解出来ないのだろう。

 まだ10歳の子供にムキになるなんて…


「ごめん。 良く分からなかったよね」


「えぇ、そうね訳が分からないわ。 ミチオが昔からミチオだなんて」


「うん。混乱させたよね。 僕がずっと変わらずに僕だなんて比喩分かり辛いよね」


「?? 当たり前でしょ? 何を言ってるの?」


「うん。その通り。当たり前なんだ」


「ミチオ…自分の台詞に酔い痴れるのはいいけど、そんなの夜のテラスで言ってくれる? だから、産まれたときからってまさか仕事に本名名乗ってるなんて事――」


『メールが届いているなの。 メールが届いているなの』


「あ、返信みたい」


 部屋の中に祈とは違う若い女の子の声が響いたと思ったら、僕の携帯電話が鳴っていたようだった。 ちなみに、僕はそんな設定をした記憶は無い。


 きっと麻兎ちゃんが個別着信音を勝手に登録していたのだろう。


 その着信音が麻兎ちゃんの声じゃないだけマシか・・・。


 ただ、そんな事は祈には分からないので、何やら引いていいのか怒っていいのか複雑な顔をしていた。


 そんな祈に掛ける言葉が見つからなかったので僕は携帯を開いてメールを読んだ。


《やほぅ〜ぃ! ついに今までの努力が実を結ぶときが来たのね(^-^) 今すぐ会いたいだなんて・・・待っててね〜♪ すぐ着替えて行くから〜》


 半ば予想出来たメール内容だった。 僕はそれにすぐに返信する。


《Re:すぐに着替えて行くから〜>ううん。 着替えなくていいから出来ればすぐに事務所に来てもらえると嬉しいんだけど。 勝手な事言ってごめんね?》


 ピッと送信。 すると1分も経つか経たないかで『メールが届いて―』と鳴るのでボタンを押して音を掻き消す。


 僕への返信のようだ。


《Re:わわわわ! なんかミッチーが積極的だよぉ!? もしかして制服フェチだったっけ? 大丈夫! どんな趣味があっても嫌ったりしないから安心して待っててね!》


 安直だがメールには愛称で呼ばれていた。 勿論僕は拒否したが、大した問題じゃないので今はあまり気にしてない。


「うん。 すぐに来てくれるみたいだよ祈。 ・・・・いのり?」


 メールを終えて祈を見ると、彼女は事務所の椅子に座ってグルグル回っていた。


 僕に声を掛けられて、回るのを止め、椅子のスプリングがキッと鳴る音と共に睨んで来る。


「何よ? ミッチー」


 祈に教えた事の無い愛称で呼ばれてしまう。 きっとまたどうにかして僕のメールを覗いていたのだろうが・・・。 その目が笑っていない。


 また僕は何かしたのか?


「祈? どうかしたの?」


 分からない事は素直に聞くのが一番だ。 だが、そうで無い事もあるようだった。


「・・・後で泣くまで殴り続ける」


「えぇ!?」


 何故か半殺し決定らしい。


 汐留 祈。 


 やっぱり良く分からない子だった。


「だって告白断ったにしては妙に仲良いみたいじゃないの? 本当に断ったの?」


「も・・・もちろんだよ! 断ったのは確かだし、それに、気のあるような素振りなんてした事無いよ?」


「・・・・・・信用ならないわねぇ。 アンタの事だから「ごめん。 でも、気持ちは嬉しいよ。 ありがとう」とかなんとか言ったんじゃないでしょうね?」


「ええぇ!? 祈知ってたの!?」


 なんという事だ。 彼女はそんな事まで知っていたというのか? なら、どうして今それを聞いてくるのか・・・。


「!! 知らなかったわよ! アンタそれ「ハッキリ断った」って言わないから! あぁ〜どうしてこんなに女々しいのよこの男は! 女装も似合うしアンタ本当は女なんじゃないの!?」


 しまった。 誘導尋問に引っ掛かったようだ。


 それにしても、僕は列記とした男なのに酷い事を言うなぁ祈は。


「ハッキリ言ったよ! でも、突き放すのは可哀相じゃないか」


「殺し屋やってるやつの台詞かぁぁぁ!! 前言撤回! 泣いても殴るのを止めない!」


 流石に同じ業種の祈。 本職通りに抹殺確定を言い渡されてしまった。


 




「ぴんぽ〜ん♪」


「ん? は〜い」


 ウチの事務所に誰か来た様だ。 ちなみにウチの呼び鈴は鈴だ。 


 なので、今のは声に出して言っている。 なんというエコロジーな事をするんだろうと感心してしまう。


「アンタやっぱりちょっとズレてるわ・・・」


 後ろで何か呆れるように祈が言っていた。


 彼女はどうして僕の思っている事が分かるんだろう。 そんなに顔に出ているのかな?


 とりあえず待たすわけにもいかないので、僕は事務所のドアを開けると、そこにはブレザー姿の女子高生が構えるように立っていた。


 ドアが開かれた瞬間、その女子高生は―


「突貫〜〜♪」


「おうわっ!?」


 僕にタックルを仕掛け、それを受けて僕はそのまま押し倒されてしまう。


「ミチオ!」


 それを見て僕が襲われていると勘違いしたのか、祈が愛銃を取り出して突きつけていた。


「ま、待って祈! この子だよ! この子がまうちゃん!」


「え? きゃああああ!? はひはひ・・・ご、強盗!?」


 朝美アサミ 麻兎マウ。 近所の女子高に通う17歳の女の子だった。



 僕の制止の声に銃を持った女の子を見つけて怯えるように悲鳴を上げてしまった。


 僕の上で。


 完全にマウントポジションを取られているので僕は動くことも出来ず、下から慌てる麻兎ちゃんと祈を同時に宥めた。


 そうされて、祈は溜息と共に銃を収め、麻兎ちゃんも銃がおもちゃと思ったのか、安心したよ

うに倒れて来た。

 くどいようだが僕の上に。

 

 未成熟ながらも確かな膨らみが僕の胸の上で潰れた。 


「はぅはぅ〜怖かったよぉみっち〜」


「ちょ・・・まうちゃんっ!?」


「はにゅぅ〜・・・みっち〜あったかい・・・」


 すりすりと僕の頬に頬擦りしてくる麻兎ちゃん。 そうされると凄く恥ずかしいし、彼女の髪がこしょこしょと触れてこそばゆかった。


「淫魔達がぁ!!」


「ひきゅ!?」

「ぐげっ!」


 そこに祈が「撃った」ゴムボールが麻兎ちゃんの後頭部に当たって跳ね返った弾が僕の顔面に直撃する。


「はうぅぅぅぅ・・・」


 流石に威力は抑えてあるのか、頭を抑えてそのまま気を失った程度で済んでいるようだが・・・。


 やりすぎだ。


 僕は痛む顔を抑えながら立ち上がり、しかめ面をしながら僕等を睨んでいた祈の前まで進んだ。


「祈」


「な、何よ?」


 僕の真剣な様子に気を飲まれたのか、珍しく戸惑った声を上げる祈。 僕はそんな彼女を見て短く息を吐いてから、彼女を頬を引っ叩いた。


「いたっ。 ――何するのよ!」


 すぐに非難の声を上げる祈。 やっぱり分かっていない。


 仕方ないので大袈裟に溜息をついて、僕は祈を諭す。


「いいかい? どんな事情があったとしても、一般人に銃を向けて、しかも躊躇無く撃つなんていけない事なんだ」


「あ・・・でも―」


「でも、じゃない。 祈。 君はとても素晴らしい能力を持っているんだから、その力を制御するというのも必要だよ。 分かってくれる?」


「う・・・。 うん」


 とても素直に頷く祈。 うん。 この子も本当はいい子なんだ。 言えば分かるんだよ。


「でも・・・ミチオも悪いのよ? 仕事だっていうのにいちゃいちゃするから」


「どう見たらそう見えたのか分からないけど、僕はそういうつもりは無かったよ」


 確かにちょっと気持ち良かったけど、別に麻兎に恋愛感情があるわけじゃない。 一線は引いているつもりだった。


「はぅぅぅぅ頭がまわるるるる・・・」


 どうやら麻兎ちゃんも気が付いたようだ。


「あ、気が付いた? ごめんねまうちゃん。 今日は君に話を聞きたくて呼んだんだけど、とんだ災難だったね」


 僕は麻兎ちゃんに駆け寄って、撃たれた頭を癒すように撫でてあげる。


 そうされて、痛むのかこそばゆいのか気恥ずかしいのか麻兎ちゃんはちょっと頬を染めて身をよじった。


「はひ・・。 ううん。 大丈夫。 私丈夫だから♪  えと、話って?」


 あんな事をされたのに麻兎ちゃんは笑顔で応えてくれた。 


「うん。 実は―」


 僕はあの謎の女子高生(?)の事は伏せて、行方不明になっているという「名取 久美子」について聞いた。


 麻兎が言うにはその「名取ちゃん」は学園では有名らしく、彼女が居なくなって皆心配しているという事らしい。


「先週ぐらいからだったかなぁ? 名取ちゃんが学校に来ないから皆で先生に問い詰めたら、無断欠席で連絡が取れないって言ってて・・・。 それで私達家まで行ったんだよ」


 麻兎ちゃんとその友達は名取という子と仲が良かったグループらしく、彼女の家も知っていたので数人で家まで行ったらしい。 すると、彼女の家からは誰も出て来ず、静まり返っていたというのだ。


「それで、麻兎達不安になって、勝手に家の中に入ってみようって事になったの・・・そしたら―」


「そしたら?」


「やっぱり家の中に誰も居なくて、居間を覗いたんだけど、そこに書置きがあったの」


「書置き!?」


 僕はつい身を乗り出してしまった。 誰も居ない居間に書置き。


 それは誘拐にあって、犯人からの犯行声明か何かが・・・


「うん。 筆ペンか何かで「強いやつに会いに行く」って・・・」


「ネタが古いよっ!?」


 僕は身を乗り出した姿勢のまま倒れてしまった。


 今時どこの放浪格闘家だよ・・・。


「ううん。 それで麻兎達それが名取ちゃんが書いた物だった分かったんだよ。 だって、あの子そういう子だから」


「そ・・・そうなの? じゃあ、その文章に何か特別な意味があるとか・・・」


「? ううん無いと思う〜。 だから本当に旅に出たんじゃないかなぁ? 少ししたら目を猟銃で傷付けた熊でも担いで帰ってくると思うよ。 だから心配しないようにしてるの」


「・・・どんな子だよそれ・・・」


 話を聞いていると段々と頭が痛くなってきた。


 別に感冒にかかったわけじゃないけど確実に体を蝕む毒を受けたような感覚と、それと共に脱力感。


 僕がそうやってうなだれていると、話を黙って聞いていた祈が口を挟んできた。


「なるほどね。 じゃあ、単なる失踪なだけで、特に問題無さそうね。 そっちはもういいでしょ」


 祈が言う「そっち」とは名取ちゃんの事だ。 それよりその名取ちゃんを探そうとしていた女の事を調べようというのだ。


「ねえ、貴方、朝美さんだったかしら? その名取さんが失踪する前に彼女の周りで不振な人を見かけたりしなかった?」


 腕を組みながら聞いてくる祈を、麻兎ちゃんは半眼で見て、僕に耳打ちするように聞いてきた。


「ねえみっち〜。 あのガキンチョ何?」


「私は神よ」


 僕が答える前に祈は胸を張ってハッキリと言った。


 それを聞いて麻兎ちゃんは余計に目を細めて囁いてきた。


「あぁ・・・可哀相な子なんだね・・・。 強く生きて欲しいと麻兎は思うよ・・・」


 麻兎ちゃんの反応はもっともだろう。 どう見てもただの小学生の女の子にしか見えないのだから。 そんな女の子が事務所の主たる僕より偉そうにしていて、何よりそれを諫めない僕に不信感を募らせているようだった。


「同情したような顔をしてないでよ! いいから質問に答えなさい!」


「うぇぇぇ!? え、ええとええとぉ〜・・・あっ! そういえば最近学校付近であからさまにコスプレチックな女の人がウロウロしてるって聞いた事あるよ!」


 コスプレチックな女の人って・・・。 それってまさか・・・。


「なんか感じは落ち着いた感じなのに、ウチの制服着てキョロキョロしてたよ〜。 罰ゲームか何かなのかな〜って思ってたけどこのところ毎日来てるの」


 間違いない。 多分小木曽さんだ。


 一般人にも変装ってバレてるよあの人・・・。


「その年増コスプレ女と話はしたの?」


 年増コスプレって・・・祈、歯に衣を着せようよ・・・。


「あ、そんなイメージだね♪ ううん。 何かキモくって皆避けてたから誰も話してないんじゃないかなぁ?」


「そう。 その女は学園内に入ってきたりしてるの?」


「うん。 誰も居た堪れなくて声掛けれないみたいだけど入ってきてるよ」


「・・・・・・そう」


 祈はそれだけ聞くと、僕を見てニヤリと笑った。


 なんだろう。 その笑顔から目を逸らさないといけないと本能で分かっているハズなのに目を逸らすことが出来ない。


 蛇に睨まれた蛙というか・・・身動きが取れない視線だった。


「ミチオ。 どうやらやっぱり潜入しなくちゃいけないみたいよ?」


「ど、どういう事だよ」


 低い声で言ってくる祈に僕の声は震えていたのかもしれない。


 その声に余計に祈は嬉しそうに笑っている。


 この娘絶対サドだ。


「さあ、着替えましょうか・・・ふふふ」


「ちょ・・・ちょっとぉぉぉぉぉぉ!?」


 僕のサイズに合わせた制服を持って嬉しそうに寄って来る祈。 それを何故か楽しそうに見ていた麻兎ちゃんは事情を察したのか僕を後ろから羽交い絞めにしてきた。


「ええと祈ちゃん・・・いや、いのりん! 今だよ!」

「ナイス! 麻兎! そのまま捕まえててよね♪」


「なんで急に息が合ってるんだよぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 僕は二人の女の子に体の自由を奪われながら蹂躙されるのだった。


 僕・・・もうお婿にいけない・・・。




 なんにせよ・・・


 そして僕等は藤野宮女学院へ小木曽さんに会うって事情を聞く為に赴くのだった。



【聖夜に銃声を 9月1日(5)「女子接触」終わり (6)に続く】

http://9922.at.webry.info/(作者のブログ)


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