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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
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9月1日(4)「捜査操作」

 カタカタカタカタとキーボードを叩く音が事務所に響き渡る。そうして暫くするとカチカチカチカチとマウスをクリックする音が鳴り、カタカタとカチカチが何度も繰り返すように続いていた。


 まだ昼過ぎで食事も摂って無いのだが祈はさっきからパソコンの前で調べ物をしていた。


 僕はというと…


「御飯…」


 お腹をすかせていた。


 一応僕の事務所なので彼女が勝手な事をしないか見ていないといけない。

 仕事が無いと言っても殺し屋というかエージェント的な仕事もやっているのでいつ裏切りがあるか分からないしね。


「なんでそんな所だけキチンとしてるのよっ!」


 不機嫌そうにキーボードのエンターキーを叩きながら僕を横目で睨んだ。


 考えてる事がバレたかな?と思ったがそうでは無いらしい。 何故か顔を赤くしながら分からない事を叫んで来た。


「気を使わなくていいのよ! 好きにするといいの!」


「??」


 何を?と聞き返して見ると、彼女は台所を指差していた。


 そこに何が?


「…コーヒーでも入れようか?」


 僕はそう言ってから彼女が子供だと言う事を思い出した。

 子供がコーヒーなんて飲むわけ無いか。


「ミチオ!」


 パソコンの乗った机を3度ポンポンと叩く祈。


「何? やっぱりミルクの方が良かった?」


「んなっ!? 馬鹿な事言ってないでコレを見なさいよ! やっぱりあの女の名前は偽名! 何処の都内の高校探したって小木曽なんて名前無いわよ! ついでに写真の子は女子高に通ってたけど最近不登校らしいわ!」


 祈はどうやらパソコンで依頼主(?)を調べ上げたらしい。 そんな情報何処に落ちてるんだよ・・・。


「へぇ、じゃあ写真の子の名前は嘘じゃなかったわけだね」


「そうね。 とにかくこれからこの女子高へ行くわよ。 現地の人に聞き込みしないと状況が不鮮明だから」


「女子高って・・・僕入れないよ? 君も・・・無理でしょ?」


「・・・・・・そういえばミチオって・・・。 あぁ大丈夫。 任せて」


「?」


 僕はその時祈の目が輝くのを見逃してしまっていた。 わかっていたら・・・。


 神は試練を与えたまわれた。  実際その「神」が隣に居るんだけど・・・。



 数十分後…


「これ……何?」


「リボンでしょ?」


 祈は服の胸元にあるリボンを掴んで聞く僕に、目も合わさずに答えて僕と「同じ服」に着替えている。


 同じ制服に…。


「そういう事じゃなくて! 確かに女子高に入るって言ったけどこれは無いよ祈…」


 女子高生の格好をしながら涙ぐむ僕に、祈は酷く冷たく言った。


「……私より似合ってるってどういう了見よ」


 いや、似合ってないと思うけど・・・。 一応僕男だし・・・。


 さっきキラキラした視線で僕に制服を渡してきたと思ったらすぐ表情が変わる。


 阿修羅?


 それより、祈の格好を改めてみて僕は答えた。


「? だって祈は背も胸も無――」


「アンタだって無いでしょうがぁぁぁぁぁ!」


 それはあっても困るし・・・。


 何か祈の背中にゴゴゴ…と文字が見える気がするけど気のせいかな? 


 ちなみに背は僕の方が勿論高い。


「そ…それにしても、良くこんな服見つかったね?」


「そんなのエージェントの常識でしょ? 何年この仕事やってるのよ」


 答えになってない事を言われて少しムッとしたが、そういう伝てがあるのだろう。 彼女の素性は分からないが、顔が広いのかも知れない。


 僕だったら、こんな服を用意するには離れ業を使うしかない。 いや、正攻法だが知り合いに借りるとか…。 ただ、その場合は祈が着れる服も僕が着れる服も見つかるとは言いがたいが…。


 ちなみに僕の職歴は5年だ。まだまだ新人と言ってもいい。


「これ宮女の制服だね。知り合いが通ってるよ」


 宮女というのは都内にある藤野宮女学院の事で、地元では「宮女」と略して呼ぶ。


 チェックのスカートが可愛い制服と共に、人気と偏差値の高い学園だ。


「!?」


 僕が呟くと祈は弾かれた様に僕を睨み、極太の銃身からグレネード弾を発射して来た。

「ふわっ!?」


 それを殆ど脊椎反射で避ける事が出来た。


 実際に発射されたのはゴム弾のようだが…。

 

 こんな至近距離で直撃したら下手すると死ぬ。 それで無くても重傷を免れないだろう。


「知り合いが居るなら先に言いなさいよ! それならこんな格好する必要無かったじゃない!」


「え? いや、祈がノリノリだったからコスプレしたいのかなぁって…」


「なんでわざわざどっかの漫画みたいな事しなくちゃいけないのよ! 何? なんだったらミス宮女の持ち物でも取って来る!?」


「ごめん…」


 祈の言っている漫画の事は分からなかったが、無駄な事をしたと御立腹らしい。


 まぁ知り合いに聞けば良いって事をこの制服を見てから気付いたんだから仕方無いと思うんだけど…。


「じゃあ授業が終わる頃に電話するよ。 そういえば祈」


「何よ!」


 僕が喋るのも気に入らないのか普通に話しかけているだけなのに厳しい視線を差し込まれる。 鋭利なナイフでえぐる様な残忍さとかを内包した視線に言葉を詰まらせながら、僕はお腹を押さえながら言ってみた。


「お腹すいちゃったね」


 何か食べないと頭が回らない。血糖値は大事だと思うしね。

 だけど、祈はそれを先程からと違う意味で赤くしながら言って来た。


「だから待ってないでいいって言ったでしょ! 勝手に食べてれば良かったじゃない!」


 やはり怒っているのだが、少し様子が違うというか……照れてる?


「それがミチオなのかも知れないけどね。 優しいブラッディ・イーターよホント…」


「祈? なんか褒められてる気がしないんだけど…」


「しないんじゃなくて褒めてないから安心して」


「なんでっ!?」


 祈が僕が食事を先に食べてしまわなかったのを優しさだと勘違いしているようだ。


 実際に食べるなら一緒に食べようかと思っていたけど、食べなかったのは実はそういう事では無く、普通に「唸っただけ」だったのだが…。


 本当の事を言うとまた怒られそうだから黙っていよう。


 わざわざ逆鱗に触れる事も無い。


「と…とりあえずミルクでも飲む?」


 今から作るにしても時間が掛かるし待っている間のお腹の足しなると思ったからだったが・・・。


 キッと子供とは思えない形相で今日何度目かの視線の暴力を受ける。


 視線の意味はわからなかったが・・・。


 僕って嫌われてるのかな・・・。


 そう思っていると、祈は指を三本立てて見せ付けてくる。


 勝利のブイサインの2乗? それとも「w」で笑ってるという意思表現かな?


 そんな事を考えていると、祈は僕の顔色から何かを読み取ったのか、苛立って机を叩いて叫ぶ。 


「砂糖3つって事よ! ホットじゃなかったらゴムボール本気で叩き込むわよ!」


 そう僕に告げて、再びパソコンで何かを始めてしまった。


 僕はそんな祈を見て、なんだか笑いがこみ上げてきた。


 偉そうな事ばかり言っているが、今も耳は真っ赤で、自分が何を言ったか自覚しているようだが・・・。 


 ホットミルクに砂糖三杯。


 そこに何だか子供らしい所を見つけた気がして、僕は吹き出しそうになるのを必死に堪えて台所に向かった。




 そして、時刻は15時を回った。


 すぐに知り合いに電話してもまだ下校時間じゃないだろうから少しだけ間をおこうと思ったのだが、祈りは「それならメールすればいいでしょ」とやはり半眼になって言った。


 頭の回転が僕より速いのか、判断が早いのか。


 たまには僕が主導権を握ってみたいなとかは思わないが、少しだけ情けない気がしてしまった。


「でも・・・テル番もメルアドも知ってるなんて親しいのね。 その娘と」


「え? あ、うん。 その娘に告白されたからね」


「ふぇぇぇ!? う、え、・・・と。 にゃにゃにょ!?」


 僕はメールを打つためにパソコンの席を代わってもらいながらキーボードを叩いていると、その耳元で急に祈が変な声を上げた。 先程までハッキリした口調だったのに・・・。


「? どうしたの?」


「いや・・・どうしたの? とか聞くかこの朴念仁は・・・。 告白ってどういう事よ!」


「え?? あぁ、なんか僕が好きだって言われんだよ。 女の子特有の冗談だと思ってたんだけど、本気らしいね」


「そ、それで何て答えたの?」


 祈も女の子だからこの手の話は好きなんだろうか? 鼻息を少し荒くして詰め寄ってくる。


「? いや、僕その子の事知らなかったし、無理って答えたら携帯電話の赤外線通信でアドレス送ってきてね。 ちょっとメールのやり取りしてるぐらいの仲だよ?」


「あぁ、断ったのね? 意外に男らしいところあるじゃない」


「うん? まぁ、何故か彼女「まだ無理」って捉えたらしくって未だにアプローチされてるけどね」


「!? ハッキリ断ってないの!?」


「いや・・・好意を持たれる事自体はいい事だし、悪い子でも無いから話ぐらいは聞いてあげようって・・・」


「!! 前言撤回! アナタはちっとも男らしくない! それと女心も分かってない!」


「・・・そんな無い胸張られても」


「Let's stick to it together whatever may happen!」


 何か用法を間違った事を言われているが・・・。 それって「死ねばもろとも」じゃなかったっけ?


 そんな台詞と共に発砲してきたから堪ったものじゃない。


 今度はそれをこめかみに直撃してしまう。


「be dying...」


 僕は流石に声が出なくてつい同じノリで言ってしまった。


 訳は「死にかけています」




 それから暫く復活するまで僕は床に放置されながらメールの返事を待つのだった。



【聖夜に銃声を 9月1日(4)「捜査操作」終わり  (5)に続く】


http://9922.at.webry.info/ 作者のブログ

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