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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
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9月21日「忘れていた来訪者⑤」

 あどけない子供特有の瞳で見上げてくる祈。


 10歳の子供が拳銃を使いこなしたり、ヤクザを打ち倒したりする方が本来は間違っているのだけど・・・。


 目の前の女の子を見て、僕は違和感をずっと拭えないでいた。




 冷静になって見ると、小学校の惨状は酷い物で、校舎は倒壊し、その付近にちらほらと「人が死んでいた」。


 無事だった者で冷静に周りを見ているのは僕ぐらいで、大抵は友人等が可哀相な事になったりのショックで泣いたり喚いたりしている。


 教師という大人だって泣いている者も居た。


 こんな異常事態が起きた事で、この後この国はどう変わっていくのか見物だけど、今は家に帰ってゆっくりしたい。



 僕はこんな騒動を起こした機械人形の倒れている方へとゆっくり歩いていった。




 



 

  -----



 

 

 「アイツ」を見つけたのは偶然だった。


 だけど、「アイツ」の素性は調べ上げたので此処に来る事は分かっていたのかもしれない。


 誘い込み、命乞いする姿を見ながら「アイツ」を・・・。


 そんな猟奇的な思考を持って無差別に攻撃を繰り返す私の機体。


 ―TAM・タム・カルマ


 実験機らしいけど、初代のTAM・タム・アトダンダムとは比べ物にならない性能らしい。


 機械の人形で兵器。


 殺戮の兵器。


 私の手で殴るわけじゃないけど、その一発一発は確実に人を・・・。


 私は復讐をしたかった。


 私の両親を殺した「アイツ」に・・・。


 とある研究所に話を持ちかけたのは私からだ。


 その研究所はTAMという兵器を作る機関で、私の両親とも親睦が深かったのだけど、私が孤児となったその日、私財を持って研究所の手助けをした。


 実際にはほぼ出来上がっていたらしいけど、運営資金という事だったらしい。



 これで、私の両親を殺した「ブラッディ・イーター」に復讐できると思った。


 素性を調べていると、そのブラッディ・イーターの「アイツ」には相棒が居るというのが分かった。


 しかも小学生だ。


 その情報を見た時には目を疑ったが、写真等や「アイツ」の住処に出入りしているのを見て間違い無いらしい。


 だったら、汲み易そうなその子供から・・・。


 そして実行した。


 学校で安心していると所を襲ってやった。


 他の子供も何人もまき沿いを受けていたけど知ったことじゃない。


 私は仇を打ちたいのだから。


 私の両親、天宮院家の当主とその妻を・・・、私のパパとママを殺したアイツラを絶対に許さない・・・。


 私「天宮院 香具羅」は絶対に・・・負けない。



 15歳の誕生日を迎えたばかりの小娘でも、現天宮院の当主は私。


 この馬鹿げた殺戮兵器で私財はほぼ尽きるけど、それでも・・・。


 





 長考が過ぎたけれど、「アイツ」は私の機体の攻撃で這いずり回っている。


 いい気味だ。


 何処に行くのか必死に逃げようとしているのかもしれないけど、逃がすわけがない。



 親の仇。大好きだったパパとママの仇!



「それなのになんでコイツは死なない!? 当たっている。何度も何度も当たっているのに・・・」


 「アイツ」は這いずり回りながら、誰かと合流したようだ。 それは小学生の相棒。 たしか名前は「汐留祈」と言ったか・・・。


 丁度良いから二人まとめて・・・。


 そうしようと思ったら「アイツラ」銃を構えて応戦しようとしてきている。


 機動隊の攻撃も効かなかったこの機体にあんな小さな拳銃が効くと思っているんだろうか?


 馬鹿馬鹿しい。


 

 「アイツラ」は同時にこちらに向かって一発打った。


 それだけだった。

 

「きゃ!? 何!?」


 それだけで私の機体が動かなくなってしまったのは・・・。



 多分メイン動力部か何かに偶然当たったのかもしれない。 だけど、この状況は・・・。


 TAMの中に私が乗っている事が分かると・・・。


 間違いなく「アイツラ」に殺される!


 イヤダ! 私は死にたくない!


 仇を討ちに来たのに反対に私が殺されるなんて間違っている!


 動力を打たれたという事は「アイツラ」はTAMの事を知っている・・・。だったらハッチを開けられる事も考えられる・・・! 


 やだ・・・いやだいやだいやだ!


 死ぬのはいやだ!


 いや・・・殺さないで・・・・


 殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで!


 誰か助けて・・・パパ、ママ・・・。



『都合がいい・・・』


「え・・・?」


『何人もアナタも殺している・・・。それで何もされないなんて都合がいい・・・』


 何かと思った。


 急に声が聞こえてきたから「アイツラ」が入ってきたのかと思ったけど、違った。


 その声の主はこの機体のオペレーションシステム「マロン」の声だった。


 このオペレーションシステムのテストが終わったらしいので実践投入したという事らしいけど・・・。


 イチイチ口出しする子!?


「何よアンタ! ただの機械の癖に口出しするの!?」


『・・・・・・私は機械じゃない』


「はぁ!? 生身の人間が入ってるとでも言いたいわけ!? そんなスペース無いのは知ってるんだからね!?」


 このオペレーションシステムはサンプルとなった者の思考を使っているので「自我」があるらしい。


 機械にそんな物を与えるなんて狂った研究所だったみたい・・・・。兵器を作ろうって人間は元々狂っているかもしれないけど・・・。


『アナタは知らない・・・、私はマロンじゃない』


「はぁ? 機械文明の氾濫とでも言いたいわけ!? アンタの計画と設計図は全部見たんだからねっ! アナタにはマロンって子の感情思考が―」


『・・・違う』


 最後まで言う前にオペレーションシステムに遮られた。


 一体なんだというんだ!


「――! じゃあ何だって言うのよ!?」

 

 聞いた事や知ったことがある名前だったら驚いたり出来たかもしれないけれど、その後にオペレーションシステムが言った名前は全く聞いた事がない名前だった。


『私は・・・メイ』


「・・・・・・」


 後で分かった事だけど、その名前は研究所の最高監督者で研究の第一人者の孫娘の名前だったらしい。




 後で分かったというのは、私はその後コックピットのハッチを開けられる事無く機体の自動帰還装置が働いて逃げる事が出来た。



 仇を討ち損ねたけれど、あんな傷では助かるとは思えないので、私は達成したと思う事にした。


 ブラッディ・イーター


 柊 壬千夫をこの手で・・・・・・。










  ―――――



「ミチオ! ミチオ! ミチオ!」


 誰かが呼んでいた。


 その声に目を覚ますと、僕は病院のベットの上だった。


 声の主は小さな体で大きな瞳に涙を浮かべながら心配そうにこちらを覗き込んでいた。


「ん・・・」


 その顔と病院という事が分かる清潔なベットと、消毒液の匂いに安らぐような気持ちでもう一度目を閉じる。


 それと同時に何故こんな所で寝ているのかという事を僕は考えた。


 そして直ぐに思い出す。


 僕はTAMという人型兵器に撃たれ続けて満身創痍になってしまったのだった。


 生きているのが不思議なぐらいだけど、気分は悪くない。


 何故か痛んでいたハズの体が軽かった。


「ミチオ!? ミチオ!!」


 目を閉じた僕が意識を失ったのかと思ったのか小さな子は耳元で騒いでいるようだった。


「そのぐらいにしておきなさい。 祈さん」


 そこにまた別の声が響いた。 祈と呼ばれた子供・・・いや祈の他に誰か居る?


 僕は目を閉じていたので分からなかった。 何故か祈以外に誰か居ると思うと目を開けていいのかと考えてしまった。


「でもミチオが!」


「・・・まったく今回は誰です? 優秀な貴女がまるでただの子供のように・・・。 まぁ此処の事を覚えているというのは記憶は共有しているという事でしょうね」


 男の声だった。 落ち着いているのか呆れているのか声のトーンは一定だった。


 それより・・・「今回は誰」? 記憶を共有している?


 

 そのキーワードで思いつくのは・・・・。



 僕はそこである仮説を思いついた。


 いや、仮説というのももどかしい。


 これが答えなのだろう・・・。


 祈は・・・


 まさか・・・。


「多重人格者というので貴女自身が本当は此処に入っていないといけないのですよ?」


「私は・・・汐留祈よっ!」


 男の声に懐かしいと思えてしまう強気な声が響く。


「分かっていますよ。 私達の施設に協力していただければ彼を助けましょう。 今は麻酔も効いているでしょうから暫く動きませんし丁度良いでしょう?」


「・・・・・・貸しを作るのはイヤ」


「子供の真似はおやめなさい」


「私は子供よ!」


「バカの真似もやめなさい。 わかっている相手にしても無駄ですよ」


「・・・」


「何、祈さん。 私達は貴女の体を調べたいだけです。 「成長が止まってしまった体」という特異なケースですからね。 巷で噂のTAMなんかよりよっぽど興味深い」


「下衆・・・」


「なんとでも言ってください」


「・・・・・・分かった。 あなた達の言う通りにする」


「ありがとうございます祈さん。 いえ・・・千代さん」


 僕はそこまで聞いて撃たれていた「麻酔」が効いてきて本当に意識がなくなってしまった・・・。


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