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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
44/49

9月21日「忘れていた来訪者④」

鉄の臭い。


 硝煙の臭い。


 血の臭い。


 悲鳴。


 爆発音。


 罵倒。


 泣き声。


 機械音。



 それは、全て現実味が無かった。


 隣で頭から血を流している友人や、そのまた隣で泣きじゃくる友人。 それを見て何も出来ないまま、ただ驚いている大人。


 とても一瞬で「日常」が崩れ去った。


 私が今まで大切にしていた日常を壊した「あの機械」は、笑うでも無く、叫ぶでもなく、ただ無言で殺戮と破壊を繰り返していた。


 そこは先程まで「平和な国」だったその場所が、地獄と化していた。


 誰もが信じられなかっただろう。


 まさかこの国が突然「戦場」になってしまうとは。


 それが、全ての終末への始まりになってしまうとは。



 私、「汐留祈」は神にならないといけない時が来たらしい・・・。



 ・・・・・・それなのに・・・。



 どうして何も出来ないの?















「玄! 急に呼び出してすまなかった!」


「てやんでえ! 姐さんの一大事に家の事なんてどうでもいいぜ! 乗れ! 飛ばすぜミチ!」


「あぁっ!」


 僕は事務所でニュースを見た後すぐに玄さんに連絡した。


 祈の通っている小学校が襲撃を受けたからだが、そこまでの距離が少し遠かったし、一刻も早く掛け付けたかったので玄さんの車を出してもらった。


 玄さんは「組」の事で色々と忙しい身だったが、事情を聞くと二つ返事で応えてくれた。



 小木曽さん、ナノカちゃん、レンちゃんの三人はこの襲撃の事で何か収集があったらしく、クライアント(依頼主)に呼び出されて居ない。


 その呼び出しで彼女達が本当にエージェントなのだと思ってしまったが・・・。


 今はそんな事はどうでもいい。


 祈が無事かなのか、それだけを知りたくて、昼下がりの市道を走っていくのだった。





 

 数分後に小学校に到着した僕等はその目を疑った。


 小学校の周りには機動隊が出動していて僕等のような一般人には近付くことさえできそうになかった。


「ちっ! どうするよミチ!?」


「・・・・・あっちだ玄」


 物々しい部隊を横目に小学校を囲む包囲網をざっと見渡すと、一点だけそれが薄い所を見つけた。


 それは今回の騒動を起こした「機械」のすぐ近くだった。


 その「機械」は周りを威嚇射撃しながら意味も無く小学校の校舎等の建造物を破壊しているようで、近付くに近づけないという所だろう。


 想像してみればいい。


 凶悪犯がロケットランチャーを持って暴れまわっているような物だ。


 それが何処のアニメかと思う「人型のロボット」で、機動隊の攻撃等にもビクともしない強靭な装甲を誇っているとすると・・・。


 まぁ普通は想像出来ないかな。


 だって「非常識」なんだから。



 遠目では分からないが、校舎の付近のグラウンドには「焼け焦げたような塊」がちらほらと落ちていた。


 それが「人だった物」だと理解するには現代人には許容範囲を超えてしまう。


 だから有効な手も思いつかずにただ囲んでいるだけなのだろう。



 そう短く状況を判断した僕は、それならば混乱に生じて近付く事が出来そうだと一番危ないポイントへと向かった。



 学校の中に入るのには「機械人形」の足元を通っていかないといけないだろう。


 そうして祈を見つけてさようならだ。


 

 僕は正義とかそういうものは知った事は無い。


 ただ、祈が無事ならばそれでいい・・・。




 近くまで来て、その機械人形が意外に大きいのが分かった。


 3,4階建ての建物ぐらいだろうか?


 無節操に繰り返すソイツの射撃で鼓膜が破けそうな騒音だった。


「あっ!? 君達止まりなさい!」


 校舎までもう少しという所で機動隊の一人に見付かってしまう。


 だけど声を掛けられたときには僕等は駆け出していた。


「止まりなさい! 止まらないと撃つぞ!」


 機動隊員の言葉に何の冗談かと思ったが、顔だけそちらを向いてみると、本当に銃を構えて居た。


 銃の中身は麻酔弾か、はたまたゴムボールか。


 どのみちその隊員は覚悟も無いようで、銃を持つ手が震えていた。


 たぶん彼は「人を殺した事」は無いのだろう。



 こんな平和な国に産まれていれば当たり前かもしれないけど・・・。



 だが、それでもその隊員は職務に忠実だったらしい。



「あぶねぇミチっ! ・・・ぐぁっ!?」


 短い破裂音と玄さんの悲鳴。


 隊員は発砲したようで、それを玄さんは身を挺して僕を守ってくれたようだった。


「げ、玄!」


 すぐに駆け寄って抱き起こそうとするが、玄さんはそれを気丈にも断るように手を上げてきた。


「オレの事はいい! てめえは姐さんの所に行けってえんだっ!」


「な・・・」


 撃ってしまった事で、あからさまに隊員は狼狽していた。 今の内に行ってしまった方がいいのかもしれない。


 撃たれた玄さんの状態を見るてからだけど・・・。


「ミチよ・・・・・・借りは返したぜ」


 熱い男がそこにいた。


 多分麻酔弾だったようで、大きな怪我をしているようには見えなかった。


 だが撃たれたという事実は本当だったし、麻酔の効果で昏倒しそうになっているのは分かった。


 彼の犠牲は無駄にしてはいけない。


 残った力でサムズアップしてくる玄さんに、僕は一度大きく頷いて校舎に再び走り出した。


 

 機械人形の足元を横切り、校庭の駆け抜けていく。


 周りに隠れる場所も無く、見付かりやすいが、今機械人形に気付かれたら最後だ。


 何かの間違いで気付いてくれるなと思いながら僕は駆けるが・・・。



【ブラッディ・イーター・・・・ミツケタゾ!】


「!?」


 先程までただの破壊を繰り返していた機械人形―確か小木曽さんがTAMと言っていたか?―は僕の二つ名を名指しで呼びながら捕捉してきた。


 その瞬間何の考えも無くこの場所に来てしまった自分を呪ってしまった。


 「非常識」な生活をしている自分にこの「非常識」が関係して無いとは思わなかったのかと。



 バラバラバラ!と対人用機銃を撃ってくる機械人形。 遠くからならいいが、僕は真下に居て狙いたい放題だった。


「あぁぁぁぁぁああぁぁぁ! あぐっ・・・!」


 避ける事が出来なかった。


 僕は銃弾を頭や胸や手足、つまり全身に命中させられてしまった。


 瞬間、激しい痛みにショック死しそうになる。


 


 正直、死ぬかと思った。


 だけど、痛みを堪えながら、僕は這うように既に半壊した校舎へと向かおうとする。


 しかし、良く見ると校舎の影に生徒と教師と思われる一団が隠れているのが分かった。


 

 そこまでで機械人形の攻撃は止んでいたわけじゃない。


 何発も致命傷になりそうな銃弾を受けながら、僕はその一団の中に汐留祈を探した。


 

 結論から言えばそこには祈は居なかった。


 代わりに・・・



「シズ! 目を開けてよ!! イヤ・・・いやぁぁぁーーーーーー!!」


 「知らない子供」が泣き叫んでいるのが見えた。


 あれは・・・誰だろう?


「誰か・・・誰か助けてっ! 誰でもいいからシズを生き返らせてぇ!!」


 多分友人か何かが可哀相な事になったのだろう。

 

 でも、僕が知ってる祈はあんなにも弱くない。


 じゃあ本当の祈は何処に行ったんだろう?


 

 あんなに騒いだらすぐに標的にされるだけなのに。


 ここは「戦場」なんだから・・・。



【ウルサイヤツラダ・・・!】


 ほら、案の定機械人形が狙いを定めた。


 対人用機銃が付いている腕を生徒達の方へ向けて撃とうとしている。


 

 僕は痛みで朦朧としている意識のなかで、それをただ見つめていた。



 そして・・・祈の姿をした見た事の無い人が居る場所へ機械人形は発砲する。


 

 そう。


 その瞬間だった。



 「僕等」が出会ってしまったのは・・・。




「チッ! ウジウジと弱音しか吐かない弱いアンタは消えとけ!」

「マッタク! ガキが一人二人死んだぐらいで弱いアンタは要らないわっ!」



 ブラッディ・イーターの僕と、祈の中の「ミノリ」が同時に現れてしまった。


 ミノリは撃たれる寸前に素早く友人の遺体を投げ捨て、横に飛んでそれを避け、僕はコルト・キングコブラを片手に機械人形に2発打ち込んだ。


 不思議と痛みは無く難なく動けた。


 先程まで体が重くて前に進むことも億劫だったのに、まるで無傷だった様に体が軽かった。



【ガ・・・! キサマ!テイコウスルカ!】


 7.8m程あるような化け物人形にリボルバーの銃弾は殆ど効いていなかったけど牽制にはなっただろう。


 それで一瞬機械人形は戸惑ったようで銃撃をやめてしまった。



 すぐに再度動く前に、僕は祈の元へ向かう。


「おい! あんなデカブツ暴れてもどうでもいいが手を貸せ!」


「イヤよ! ・・・って言ってられないわね。休戦よ!」


 祈はどうやら一見して僕がブラッディ・イーターになっている事に気付いたらしい。僕も同じ様に祈の中に居るミノリとなっている事には気が付いた。



 ただ、姿はそのままで、別に大きくはなってなかったが。


 とりあえず、今僕は「見る」ことは出来ても体の自由は奪われているので何も出来ない。


 そしてこの「僕の中のブラッディ・イーター」が何を言うか、何を考えているか分かっていなかった。


 だから、こんな事を言うのは理解出来なかった。


「いいか! アイツの動力部は腰だ。 そこを狙っちまえば動かなくなる!」


 そう言って祈の愛銃を懐から取り出して渡してやる。流石に学校には持って無いのでそれを届けに来たのもあった。


「腰って広いけど何処よ?」


「股間だ!」


 酷い答えだった。 でも、ブラッディ・イーターが見ている場所はまさしく腰の下。股間だった。


「分かったわ! 後でアンタのも打ち抜いてあげる!」


 それに下品な返し方をする見た目は子供なミノリ。


「10年後なら歓迎だ!」


 いくら戦闘時だとは言え、ギャラリーが居ないわけじゃないのにこんな事を言い合う二人というのも困ったものだ。


「まぁ、私に任せなさいっ! この私の銃には専用の銃弾が入ってる。 アンタのじゃ無駄だから黙ってみてなさい!」


「おっと。 じゃあ後押しだけするぜ」


「勝手にしなさい」


 そう短く言い合うと、二人は銃を機械人形の急所を狙って撃った。


 祈が放った銃弾の後ろから僕のリボルバーが追いかけて文字通り「後押し」する。


 祈の弾道を完璧に把握していないとムリで奇跡のような芸当だった。


  

 その一発の銃弾は幸い機械人形のメインの動力を止める事が出来、カクンと膝を折って倒れる機械人形。

 


 ひとまず脅威は無くなった。


「へぇ、TAMにこんな弱点があるなんて中々やるわね貴方。 じゃあ・・・」


 その結果を見て感心するように呟くミノリ。


「まあな。 さて・・・」


 そんな事より、どうもこの二人はこの「機械人形」について少し知っているようだ。


 僕の姿のブラッディ・イーターも言われた通り一発で終わらせた事に感心しているようだった。


 もしかしたら、二人は意外に気が合うのかもしれないね。


 

 凶暴者同士で・・・。



『ヤる(わ)か』


 待ってよっ!?


 二人はそう言って今度はお互いの獲物をお互いの急所を狙って構えて対峙した。



 一時休戦したのはいいけど、基本的に敵だったわけね・・・。


 だけど、折角助かったのに殺し合うなんて馬鹿過ぎない!?


「・・・と、言いたいところだが、アイツはアンタを殺したくねえってさ。 まぁ折角駆けつけて助けたのにヤるのも勿体無いしやめようぜ?」


「はぁ? 馬鹿じゃないの? 弱ってるのに今がチャンスじゃない。 あの子は弱ってて邪魔しないし私にとっては今しか無いのよ?」


 祈がミノリの人格を押さえ込んでいるというのは本当だったようで、抑える主が弱っていると出てしまうらしい。


 僕の場合は意識が無くなると変わってしまうけど・・・。 


 アレ??  イノリとミノリと、僕とブラッディ・イーターの彼は同じ事??


「アイツの意思で闘う気なら止めないさ。 まぁ打開策はこちらにはあるんだ大人しく帰っちまえよ」


「打開策? 何、アンタ程度が私に勝つつもり?」


「勝つ気は・・・・無いさっ!」


「!!? うぐぅっ!?」


 僕は言うが早いか一瞬でミノリとの間合いを詰めた。


 そこから攻撃するのをミノリは簡単に食らってしまった。

 

 ただの攻撃じゃない。 「彼女の唇を奪う」という攻撃だったから・・・。

 

 殴られるか掴まれると予想したのだろう彼女はその奇行に何も出来ずに居た。



 少しして、ペチャペチャと水音が二人の繋がった唇から聞こえてくる。


 子供相手になんてことしてるんだコイツは!?


「はふぅ・・・・ミチオぉ~・・・」


 すると甘えた声で祈が僕の名を呼んできた。


 どうやら正気に戻ったようだ・・・。


 ペチャペチャ・・・。


 戻ったなら・・・。


 ジュルジュル・・・。


 そろそろヤメろよっ!?



 放っておくと絶え間なくやってそうな「僕」を残っている意識で全力で止めに掛かる。


 フッと体に重さが戻る。


 元々僕の体を奪われただけで、その気になれば戻れるのか、あっさり僕は自由を取り戻した。


 

 唇を絡めていた僕はそれをそっと離した。


 祈は僕を見上げてキョトンとしていた。 そしてすぐに顔を笑顔にすると両手を広げて言ってきた。


「だっこぉ~♪」


 ・・・僕はその姿にやはり違和感を感じた。


 だって、この姿は祈でも、ミノリでも無い始めてみる彼女だったから・・・。


 友人の死がそうさせたのだろうか?


「・・・よしよし」


「♪」


 要求に応えて抱き締めて頭を撫でてやると気持ちよさそうに上機嫌になる祈。


 それは「普通の女の子」だった。


 そんな彼女に不信感があったのか初めの頃にいつもしていた質問を再びしようと思った。


 彼女が「いつもの彼女」なら答えは同じはずだから。


 僕はその質問を口にした。


「君は・・・誰?」


 この質問をすると決まって同じ台詞だった。


 祈は自信満々にいつも言っていた事だ。


「? 私は汐留祈だよ?」


「・・・・・・・そっか」


「うん♪」


 その日、「祈」を探しに来た僕は「汐留祈」に出会った。



 いつもの「祈」とは・・・



 もう二度と出会う事は無かった。

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