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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
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9月21日「忘れていた来訪者③」

 騒がしい親父の来訪から二日が経った。


 彼の書き残した「その子は汐留祈じゃない」という真意を知りたくて、僕は何度も親父の携帯電話をコールした。


 だが、いつ掛けても圏外か電源が入っていないらしく繋がらなかった。


 僕には言葉の意味は分からなかったが、あんな親でも付き合いは長いので彼の性格を知っているつもりだ。


 あの親父はウソだけは言わない。


 冗談を言う事はあるが、こんな種類のウソをわざわざアナログな置手紙なんてしてまで伝える程愚かでは無い。



 では、どういう意味なのか・・・。



 僕はずっとそれだけを考えていた。


 祈が「汐留祈」じゃ無いとすれば、全ては振り出しに戻る。


 何故なら全くの他人で僕との接点が無かったとすると、祈が言った「実による復讐」も、「再会を切望した事」もウソになってしまうからだ。


 それは同時に「祈が此処に居る目的」と、「僕が祈に施す罪」の意味さえ無くしてしまう。



 真実は何処にあるのか。


 僕は何も起こらない日常の中で、しかし変わっていく日常の中でずっとそれだけを考えているのだった。





 

 真実を知りたくて、何かを知ったハズの師匠・・・レイシャンに聞いてみるが、一向に口を割らない。


 何度聞いても「まだ早い」と答えるばかりで要領を得なかった。


 何が早いというのだろう・・・。


 祈が言った「タイムリミット」と関係があるのだろうか?



 まだ日数的には3ヶ月程あるが、僕には何故か何かが終わりに向かっているように思えた。


 それが何かは分からないけど・・・。


 少しの違和感があった。


 確実に歯車は回りだしている。



 ・・・そんな予感がした。



 


 




「この前の依頼は変な依頼でしたですね~」


「そうですね。 花粉が嫌で杉の木を全部焼き払って欲しいなんて依頼、時期的にも内容的にも可笑しいのに一番驚いたのが・・・」


 トポトポと自分達の飲む紅茶を注ぎながら、レンちゃんは小木曽さんと談笑していた。


 僕の前にも茶色い陶器のマグカップに茶色の芳しい液体が湯気を立てていた。


 桐梨相談所の事務所には僕と小木曽さんとレンちゃんが午後のティータイムだった。


 ナノカちゃんと祈は学校。久美子ちゃんも学校・・・と言いたい所だけど彼女は色々と規格外なので大人しく授業を受けているとは思えない。玄さんは笠原組が起こした謀反問題で駆り立てられて忙しいらしい。


 そんな光景も見慣れてきた秋の日の第3週最終日。


 今日は土曜日だ。


 3週間という時間は日々の生活には慣れるのに充分だったが、まだまだラビアンローズ達の知らない事もいくらでもある。


 例えば、レンちゃんの本名。


 ナノカちゃんの出生。


 小木曽さん達の上層組織など。


 祈の事だけでなく知らない事だらけだ。


 

 それでも毎日は過ぎていく。


 僕のような者の思慮なんか関係無く、時間は止まってくれるわけじゃない。



 近頃何か考え込む事が多くなって、眉間のシワが増えるかもしれない・・・。



 そんな調子だったから、学校から帰ってきたナノカちゃんが僕の顔を覗きこんで居たのに全く気付かなかった。


「ミチオ君変な顔してるなの」


「悪かったね。 僕は元々変な顔だよ」


 イキナリ失礼な事を言われたので、ついそんな返答をしてしまった。


「ふふっ。冗談なの♪ でもミチオ君。 何を考えてるか知らないけど、そんな顔してたら早く老けてしまうなの~。 まだ10代なのに」


 僕の拗ねたような答えも笑って流したナノカちゃんはそんな事を言った。


 そういえば僕ってまだ19だったっけ。


「そっか。 でもそれももうちょいで終わるけどね」


「? 何がなの?」


 ナノカちゃんに言われて思い出したけど、僕はもうすぐ10代を終わる。


「今年の12月25日で二十歳だからね」


 そう。今年のクリスマスに僕は成人するわけだ。


 何の感慨もないけどね。


 そして僕の誕生日を聞くと大抵―


「わぁ♪ 聖夜が誕生日なんてロマンティックなの♪」


 こういう反応をされる。


「実際そうでも無いけどね? だってさ―」


 下手に何かの記念日と同じ誕生日だったりするとロクな事が無い。


 大抵はその日のイベントと一緒にお祝いされたりするわけで・・・。


 だから誕生日だからと言ってプレゼントを貰っても「クリスマスプレゼント」と同じで、ナノカちゃんの言う「ロマン」なんて微塵も無い。


 実際に僕は「クリスマスプレゼント」を貰った事は一度も無い。


 いや、もしかしたら一つのプレゼントに別々の意味がこめられていたのかもしれないが、ケーキがホールで一つあって「バースディケーキ」と言われればバースディケーキ」だし、「クリスマスケーキ」と言われれば「クリスマスケーキ」になってしまう。


 皮肉な物で、クリスマスというのは誰もが知っているようにキリストの誕生日だ。


 今でさえ12月25日が生誕祭(聖誕祭)だけど、新約聖書なんかには正確な日が記されているわけでも無いから色んな説があるんだけどね。1月6日がそうだって言う説もある。


 だから12月25日から1月6日までの期間を祝ったりする国もある。


 さっき言った新約聖書の中には10月1日や10月2日が誕生の日だとかに見える感じがあったりするわけだけど、結局はそういうのを見ていくと、全く特定できなくなって来るっぽい。


 そんな暫定的に決めている誕生日を祝っておいて、僕の誕生日は適当に扱われてしまうのはそれこそ神を呪ってしまいそうになる。


「ふむぅ~可哀相なの~」


 僕の説明にナノカちゃんの顔はみるみる青くなり目に涙を浮かべながらウンウンと頷いた。


 そこまで反応されると恥ずかしくなって、僕は話の矛先を変えようとナノカちゃんに話題を返す事にした。


「ま、まあね。 そういえばナノカちゃんは誕生日いつ?」


 同時にウチの相談所の神様「祈」の誕生日も気になったが、まだ祈は学校から帰っていなかったので保留にする事にした。


「・・・・・・・・・」


「? ナノカちゃん?」


 すぐに帰ってくる種類の質問に帰ってきたのは沈黙と困った表情。 その間を感じた瞬間にその後に来る台詞は分かったが、つい聞き返してしまった。


 ナノカちゃんは答えたくても答えられないのだろう。


「アハハ。 そういえばミチオ君には私やレンちゃんの事を言った記憶が無かったの。 私とレンちゃんは組織に拾われた孤児なの」


「あ・・・。 ごめん。ちょっと考えれば分かった事だね失言だった・・・」


 ナノカちゃんの母代わりをしている小木曽さんとの関係を見ていれば「親が居ない」という事は容易に分かった事だし、小木曽さん本人がこの前「自分の子供では無い」と言っていたじゃないか・・・。


「ううん構わないなの。 だから正確な誕生日とか私は知らないの。 ごめ―」


「ナノカちゃんっ!」


「は、はひっ!?」


 僕は謝ろうとするナノカちゃんの言葉を遮った。 ナノカちゃんが悪いわけじゃないのに謝らせるような薄情者では無いつもりだ。


 さっきのキリストの話じゃないが、正確な誕生日が分からないからと言ってその者が存在していないわけじゃない。 目の前に大きな声を出されて目をパチパチさせている女の子が居る。それは紛れも無い事実であるのだ。


 だから、僕は―


「今日・・・はもう遅いから明日をナノカちゃんの誕生日にしたらどうだろう? だったらこれからは毎年祝っていけるよね?」


 そう言ってあげた。


 後で考えると相当恥ずかしい台詞だったと思うけど・・・。


「あら~それはいいですね。 ミチオさん名案です」


「私もいいと思いますです!」


 聞き耳でも立てていたのか僕がそう言った瞬間小木曽さんとレンちゃんは笑顔で僕等の傍に寄って来た。


「ミチオ君・・・」


 当のナノカちゃんは、なんと返していいか分からないのか、僕と小木曽さん達二人を交互に見ながらオロオロとしてしまったが、同じ孤児のレンちゃんと小木曽さんが無言で頷いているのを見て、僕に向けてその日最大の笑顔で大きく頷いた。


「うん! じゃあ私は明日誕生日にするなの♪」


 話題を変えた事がこんな事になるとは思わなかったが、結果オーライだ。


 ラビアンローズ達の素性はまだまだ分からないが、今は同じ相談所に住む仲間として仲良くやっていくのもいいかもしれないと思う。



 だが―

 

「ダメだな」


 和やかな空気だった事務所がそんな短い一言で凍りついた。


 声の主は・・・レイシャン。


「そんな事をやっている場合じゃない。 祈が居ても同じ事を言うだろう」


 厳しい目付きで僕やナノカちゃん達を睨むレイシャン。 そんな彼女に僕は興を削がれてはと食い下がる。


「なんでです? 師匠の言いたい事は分からなくも無いですが、同じ移住を共にする者と馴れ合う価値は無いって事ですか?」


 本当なら警戒しなくてはいけないエージェント達だが、この数日で小木曽さん達に悪意は無いと僕なりに感じて出した答えだったから言わずに居られなかった。


 だが、レイシャンの返答は「怠惰」だとか「不真面目」だとかそういう類の言葉では無く、言葉通り「そんな場合じゃない」事を告げてきた。



 レイシャンは「見ろ」と短く言い、事務所にあるテレビ画面を指した。



 そこに映し出されていたのは一つの学校。


 ナノカちゃんが通う学園では無い。


 ニュース番組のキャスターが小学校の映し出されている画像を見せながら慌てた様子で記事を読み上げていた。



『今日未明! 都内の小学校に正体不明の機械人形が襲撃した模様です! 現場は騒然とし負傷者、死者等は以前不明! 現場には機動隊が出動し事態の掌握と収集にあたっていますが、機械人形の激しい抵抗にあっている模様で半径50m四方は立ち入り禁止の―』



「なんだよ・・・これ・・・?」


 テレビ画面には冗談としか思えない映像が映し出されていた。


 平和な国に、兵器としか思えない7m程のロボットが小学校を襲っていた。


「TAM<タム>・・・・・・完成していたのですね・・・」


 小木曽さんが蒼白な表情で呟くのが聞こえた。


 小木曽さんの言っているのがこの機械人形の名称だとすると、小木曽さんは何か事情を知っているようだ。


 

 そんな事より、この襲われている小学校は・・・・・・



 祈が通っている小学校だった。


 最近の違和感は・・・悪い形で的中してしまうのだった

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