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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
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9月1日(3)「事件展開」

 僕は久しぶりの来客に少し心を躍らせながら、来賓用のソファーにお客を促した。


 お客さんは女性だった。


 名前は小木曽 紗菜―オギソ サナ―というらしい若い女性だ。


 言ってもいないのに「生徒証」を見せてきた時には声を上げそうになったが。



 何を勘違いしているのか分からなかったが、自分は怪しいものじゃないと言いたいのだろうか?


 まだ「女子高生」なのにスーツ姿で来るようなコスプレ趣味な女子高生なんて怪しすぎる。


 落ち着いた雰囲気があるのでもっと年上だと思っていたが・・・。17歳らしいので2個年下らしい。


 依頼主の事はこれぐらいにして、そろそろ仕事の話をしようかと思う。


「では小木曽さん。 お話を聞かせてもらいますか?」


「はい。 実は―」


 小木曽さんが話し出す。 そんな中、突然の来客に祈は台所まで行って何かをしていた。


 きっと客にお茶でも出す為にお湯を沸かしているのだろう。


 中々気が利くじゃないか。


「先程お渡しした写真に写っているのは私の親友でした。 名取 久美子。 とても明るくて可愛らしい子で、クラスでも人気者でした」


「へぇ、確かに可愛いですね。 ええと名取さんね・・・」


 名前などのメモを取りながら小木曽さんの話に聞き耳を立てる。 姿だけでなく声も落ち着いている。

 舞台女優さながらに演技しているのかもしれないが、きっとアルファ波が出ているのかもしれない。


「はい。 その久美子―名取さんが先日の日曜から失踪してしまったのです。 それを探して頂きたいのです」


「日曜? まだ6日しか経ってないけど・・・」


 今日の日付は9月1日。


 平凡なsaturdayだった。 つまり土曜日。


 という事は失踪したのは8月26日の日曜日という事になる。


 まだ一週間ぐらいだという事は、警察に捜査を頼んだ方が早いんじゃないだろうかという疑問が生まれる。


 それは小木曽さんも分かっていたのだろう、すぐに言い直してきた。


「いえ、問題は日数ではなくて、少し複雑な問題があって警察には言えないのです」


「というと?」


「それが・・・久美子はあまり良くない人達と付き合ってたみたいで・・・その・・・事件に巻き込まれた可能性があるのです」


「ふむ・・・」


 僕はそこまで聞いてやっと事情を理解した。 どういう物かまだ分からないが、あまり世間に知れ渡って欲しくない程度の連中と付き合いがあったという事か。


「そうなると・・・その久美子って子はそのあまりよろしくない連中に捕まっている可能性があると?」


「その可能性が捨て切れません。 だけど、そうとは言い切れずに・・・私・・・どうしたらいいかわからなくて・・・ここに・・・」


 小木曽さんはせきを払ったように泣き崩れてしまった。 僕はその背中を擦ってあげようと席を立つ。


 しかし、それを湯飲みを持った祈に止められた。


「待って」


「何? どうしたの?」


 僕を手で制してそのまま肩を押して、もう一度座らせると、祈は子供とは思えない厳しい目付きを小木曽さんに送った。


「いの・・・り?」


 僕は呼びかけるが、祈はそれを無視して小木曽さんを睨み続ける。


 そうされて小木曽さんはゆっくりと顔を上げた。 その目が泣いていた事で赤くなっていた。


 あぁ・・・可哀相に。 慰めてあげるぐらいいいじゃないか? なんで止めたんだ?


 僕のそんな意味を持った視線にも全く気付かず―というか無視して―祈は小木曽さんの前に持っていた湯飲みをコンと置いた。

 中には薄い緑色の液体が入っていた。 緑茶か。


「それを飲んだら帰ってね。 貴女は何か思い違いをしている。 此処にいるのは単なる町の便利屋さん。 そういう話は要らない」


「な・・・」


 それを言われた小木曽さんでは無く、僕が絶句した。 形式上僕はこの相談所の所長・・・いや、店長だ。 その僕の判断無しに勝手にお客を帰そうというのはどういう了見なんだ!?


「あら? なぁに? この子此処の子ですか? 可愛いですね〜。 お兄さんと話してたから嫉妬しちゃったのかなぁ? 子供には関係無い話だから向こう行っていてくれる?」


 そんな無粋な祈を若干苦笑しながらあしらおうとする小木曽さん。 うん。 見た目通り対応が大人だ。 まだ女子高生には見えない。


「私は実際のところ子供だけどね。 でも、貴女より子供じゃないわ。 私はそこの男のパートナーです」


 ちびっこい体で座っている人と同じ目線の癖に祈はそんな事を言っている。


 いくら凄腕でも失礼じゃないかな?


 僕に。


「あら〜お手伝いしてるなんて偉いのね? お嬢ちゃん何年生?」


 若干威圧的な事を言われたのに小木曽さんは笑っていた。 うんうん。それぐらいで怒るような大人気ない感じじゃないなこの人。


「人の年を聞くなら先に自分の年を言ったらどう? 礼儀がなってないわね」


「あら? 聞いてなかったのね。 私は1―」


「本当の事を聞いているのよ? どう見たら貴女が10代に見えるって言うの?」


「な・・・・・・」


 うわ・・・そういうのって言っちゃ駄目だろ祈・・・。 いくら老けて見えるからって・・・。


 あぁ・・・小木曽さん顔が真っ赤になってきちゃったよ。 流石に怒ってるかな。


「何ですかこの子は! 失礼にも程があります!」


 小木曽さんは立ち上がり祈を指差して、僕の方を向いて怒鳴るが、それを祈は更に冷たく言い放った。


「貴女の匂いも失礼よ? 安物の香水付けてるみたいね」


「!!!」


 小木曽さんはその台詞で相当頭に来たのだろう。 顔を真っ赤にしながら僕に渡してきた写真を引ったくり、怒って相談所の入り口のドアまで歩いていく。


「そうそう。 お帰りはそちらよ」


「!!」


  バン!


 木製のドアが勢い良く閉められる。


「うわ・・・久しぶりの仕事だったのに何してくれるんだよ祈ちゃん」


 それに結構美人だったのに・・・。


 名残惜しそうにドアを見つめていると、祈は事務所の机から紙と鉛筆をとってきていた。


 その紙を僕の前に広げておもむろにそこに何か描き出した。


「?? 何してるの?」


 僕がその紙を覗き込むと、その紙には女性の顔が書かれていた。 何処かで見たことあるような顔だった。


 そう。 さっき見たような・・・。


「あぁ! それさっきの写真の子!」


「写真持っていかれたから簡易モンタージュよ。 まぁこんなもんでしょ」


 祈が言うように、その顔は先程の写真に写っていた女の子だった。


 それにしても・・・上手いなぁ。 天は二物を与えずって言うけどこれは与えちゃってるよ。うん。


「で? これがどうしたの?」


「・・・・・・貴方今までどういう仕事してたの? ほっっっっっんとに分からない?」


 祈は呆れた様に息を吐き出しながら、今度はさっき小木曽さんに出した湯飲みを指差した。


「ん? 何? もったいないから飲めって??」


 ボクは湯飲みを取って、間近で見てみたがとても美味しそうな良い香りがした。


 そういえば新茶買ってたんだっけ・・・。


「今日という日を終わらせたいならどうぞ? それ毒入り」


「ぶっ!?」


 僕は口をつけようとした湯飲みを一気に遠ざけるように放り投げてしまった。


 そうして湯飲みが放物線を描きながら床に落ちて、床に敷いてあった絨毯を濡らす。


「毒入りって! なんて事するんだよ!?  ・・・・・あれ? ただ濡れてるだけ? 毒物って冗談だった??」


 僕は濡れた絨毯から煙が出たりするんじゃないかと凝視していたが、そこからは熱いお茶の湯気ぐらいで、絨毯自体に異常は見られなかった。


「あぁ、単に眠り薬よ。 多分匂いで気付いたんでしょうね。 一口も飲まなかったわあの女」


「睡眠薬!? 何処にそんな物を・・・。 って祈・・・もしかして・・・」


 そこまで祈に言われてやっと僕も気付き始めた。 祈があんな事をしたのはあの人が・・・。


「匂いついでに言えば、香水に混じって火薬の匂いがしたわ。 匂いの事言ったら一瞬ピクッって動いてたのは笑いそうになったけど♪ どう考えても同業者か関係者。 もう一つついでに年だって女子高生じゃないわね。 絶対に30前よアレ」


 30ぐらいだとしたらその三分の一ぐらいしか生きていない娘が息巻きながらチッとか舌打ちしていた。


 というか祈はそんな所まで見てたのか・・・。


「でも・・・どういう事だ? 何が目的だったんだろあの人?」


「あぁんもう! それを調べるんでしょうが! アンタ本当にトロイわね!」


 イライラと足踏みしながら祈は、今度は入り口のドアへ歩いていき、そこに白い粉を振りかけていた。  それはどう見ても指紋を取っている行為だった。


「あの女の素性も調べるわよ。 ただの同業者の視察っていうならいいんだけど・・・憂いは立っておかないとこの世界生きていけないわよ?」


「・・・はい。 祈様・・・」


 僕はテキパキと動く彼女を見ながら、不甲斐無いが本当の此処の主は祈だと思ってしまった。


 

 こうして僕等の初の仕事は始まった。



【聖夜に銃声を 9月1日(3)「事件展開」終わり (4)に続く】

http://9922.at.webry.info/ 作者のブログ

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