9月7日(2) 「誤ってしまった日」
義手の女の子が語り出す。
脱がされていた肌着と上着が無造作に床にあるのを見つけ、すぐに羽織る。
改めて見ると以外に胸があるなぁと思う。
少女と言っても祈よりは年上だしね・・・。 何か目の前に居る祈から殺気に似た気配を感じるのは気のせいだと思う事にする。
「私達は・・・岩倉研究所。 岩倉プロフェッサーは私達のような優れた技術の粋を集めた結晶を造る事が出来る。 私はその一人」
岩倉研究所。
その名前は今、相談所に居候しているラビアンローズ達が追っているという組織だと記憶している。
確か、彼女達が言うにはその研究所の為に日本が危ないという事らしいが・・・。 どうも信憑性が無かったのだけど、こうやって当事者が現れた事で少し真実味が出て来てしまった。
機械技術にはあまり詳しくないが、彼女の義手は確かに普通の科学力とは次元が違うような感じだった。
昨日の彼女との戦闘中に、彼女は腕を飛ばしたが、通常それをしようとすると、飛ばす前の腕の根元が融解、もしくは炭になってしまうのだろうが、腕を見てもそんな所は見当たらないぐらいに綺麗だった。
一晩で修復したのか、それともそれだけの耐久性があるのか・・・。
どちらにしてもオーバーテクノロジーだ。
地味だけどね。
「・・・・・・私達は私達の活動の邪魔になると判断された異分子の排除を命じられている。 それがそこのブラッディ・イーター」
「えーと・・・ちょっと!? その判断基準って何処から来るわけ!?」
僕は堪らず叫んでしまった。
身の覚えの無い謂れ様だったからだ。
僕はその岩倉研究所なんて知らないし、狙われるような事をした事なんて無いつもりだ。
「ブラッディ・イーターは・・・敵対組織のリーダーであると情報がある。 知らない振りをしても無駄」
しっかり僕を指差して言う。
勘弁して欲しいよ・・・。
「敵対組織? 僕は基本的にソロだよ?」
「違う。 貴方は組織のリーダー。 そう言われた」
頑なに主張してこられてしまう。
彼女は何か誤解しているだけかもしれない。
僕はこれまでずっと一人でやってきたのだ。 組織と言えば数年前に欧米で暗殺者の組織に居たが、うまく仕事をした験しは無い。
もちろんその組織のリーダーだったわけでは決して無いし・・・。
「ふうん? 貴女は言われたからやるのね?」
黙って聞いていた祈がそこで口を挟んだ。 心無しか表情が硬い。
「・・・・・・私達は試作オートマーター。 御主人様の命令は絶対」
「ふぅん? 人形にもなり切れない出来損ないの「でく人形」が語るじゃないの? あんた達の研究所は神にでもなったつもりなのかしら?」
腕を組みながら自分より少し背の高い義手の女の子―マロンちゃん―を見下すように見つめる祈。
マロンちゃんは、祈の言葉に少し怯えているようだが、主従の関係にあるという所には語尾を強めていた。
それほどその「ご主人様」を信頼しているのか、それとも信頼させられているのかは分からなかったが、その言葉には嘘は無いように思えた。
一時も祈から視線を外さなかったからだ。
「・・・・・・私達を・・・貴女は何故知っている?」
祈の研究所という台詞にマロンちゃんは反応した。
僕にしても、それは疑問だったので静観するのに努めた。
「まぁ、貴方達は秘密裏に動いているつもりでしょうけど? 私の情報網を舐めないでね? 今の貴方達の組織は大きくなりすぎて秘密結社って言っても秘密になり得てないって自覚は無いのかしら?」
「・・・・・・プロフェッサーは偉大。 世に知れ渡って当然」
自信満々に言うマロンちゃんに、祈は激しく反応した。
「偉大? 人の運命を弄ぶ輩が偉大って言ったの? 貴方達のお陰で少なくとも3人の人間を不幸にしてるのよっ!」
「・・・・・・3人?」
マロンちゃんが訝る。 僕も同時に首を傾げそうになったけど、話の腰を折らないように出来るだけ静かにしておく。
「そうよ。 愛していた私の両親と妹・・・その3人を不幸にしたのは貴方達の研究があったからよ! 貴女は知らないかもしれないけれど、異国の地で朽ち果てるしかなかった私達の苦しみを知りなさい!」
祈の両親は研究所に勤めていたと前に聞いた事があった気がした。 それが、その研究所が岩倉研究所の事だったらしい。
そこに勤めていて転勤になり・・・悲しい運命を辿った祈の家族・・・。
言わば仇と言える相手が目の前に居るという事か・・・。 祈じゃなくても冷静には居られなかっただろう。
だが、そんな祈の反応に、マロンちゃんは・・・
「・・・・・・ごめんなさい。 私は知らないけど苦しめたなら謝りたい・・・」
申し訳無さそうに素直に頭を下げてきた。
それに呆気に取られて一瞬動きが止まった祈だが、頭を下げてきた少女が伊達や酔狂で頭を下げているわけじゃない雰囲気にすぐに落ち着きを取り戻した。
僕だったらそんなに切り替えが上手くいかないかもしれないが、そこは流石としか言えない。
「自制」に関しては年期が違うのだろう。 年下だけど・・・。
「!? あ・・・貴女に当たっても仕方無いわね。 でもね? 私の両親は貴女の研究所の研究員だった。 その研究過程で異国に飛んでその後の保証が殆ど無かったというのは頂けないわ。 それで飢えてしまったのは生活力が無い私達が悪いかもしれないけれど、元々は研究所の偉功の為に尽くした両親に何の支援も無かったというのは問題だと思うのよ」
「・・・・・・プロフェッサーがそんな事をしたと思えない。 私はプロフェッサーを信じたい・・・」
「貴女の信仰なんてどうでもいいわ。 でも実際に最悪の事態となった事には変わりは無いのよ。 貴女が悪いとは言わないわ。 だけどね、その研究所の行いを認めないという人間がこの相談所だけでも5人も居るって事よ」
何だか良く分からなくなってきたけど、つまりは祈も岩倉研究所に恨みがあるという事か・・・。
それにしても、5人? 小木曽さんと、娘のナノカちゃんと、レンちゃんと、祈と・・・。
・・・・・・あー・・・僕も勘定されてるんだね間違い無く。
まぁその研究所が無ければ、僕は祈の妹のミノリを撃つ事も無かっただろうから当たらずも遠からず・・・かな?
「でも、こんな事言うのもおかしな話だけど、別に私自身は両親とかはどうでもいいのよ。 それより許せないのはね・・・」
「・・・・・・」
「ミチオの心と体を貴女は傷付けた・・・・・・。 ミチオの腕を傷付けて、そしてその尊厳と自信、そして過去の自分に対しての罪悪感を産ませた・・・。 本当なら・・・今すぐ絞め殺してやりたいわよ? マ・ロ・ン?」
「ちょ・・・! 祈!」
祈の殺気が一気に溢れ出した気がして、僕は祈を後ろから押さえる様に抱き締めた。
だが、祈の抵抗は無く、視線だけをマロンに向けるだけだった。
「迂闊よミチオ? 「本当なら」って聞こえなかった? アンタを代わりに絞め殺すわよ?」
「それだけ殺気立っててよく言うよ!? ってその台詞怖っ!?」
止めに入って殺されたらたまったもんじゃない。
マロンちゃんを見ると、膝を地面について祈るように手を合わせて目を閉じていた。
「・・・・・・それで許されるなら・・・どうぞ」
このマロンという娘は・・・。 純粋過ぎる・・・。
聖人のような事を言われて流石の祈も手出しは出来ないだろう。
「分かった」
祈はいわれた通りにマロンちゃんの首に手をかけようとする。
「分かるなぁ~~!?」
「何よ。冗談でしょう?」
「ごめん。 冗談に見えないから!? 全力で完全にこれっぽっちも!」
さっきまでシリアスだったのに自然にボケられても突っ込み難いんだけど!?
「うるさいわねぇ~。 本気だったらこの娘最初っから2秒と生きてないでしょ? 頭動いてるのアンタ?」
流石に2秒は無いとは思うが、その「本気」がどれだけの物なのか推し量るのに充分な事が、今までの経験が物語っていた。
そう言われても危ないので離さないようにしておく。 本気なら振り切られるだろうけど止められているという行為自体に抑止力があると信じたい。
「さて・・・それじゃ思った通りだったって事で、貴女は2つの選択肢があるわ」
生か死? と一瞬思ったが、先程殺す気は無さそうな事を言っていたので考えが読めない。
「一つはこのまま帰って二度と目の前に現れない事」
「へぇ・・・優しい選択肢だね」
さっきから怖い事ばかり言っていたので物凄くまともな台詞に聞こえた。
「もう一つは組織を抜けてウチで働く事よ」
「なにゆえ!?」
「アンタうるさいわねえ。 黙ってなさい」
「いや、黙ってられないでしょ!? 雇うのは僕だよね!?」
また勝手に決めようとしている祈に流石に抱き締める力を強くしてしまう。
そうされて嫌な顔をされると思ったが、祈はそこまで気にしていないようで体の力を抜いていた。
・・・いや、とゆーかもたれ掛られている様に感じるのは気のせいだろうか?
「大丈夫よ」
「何を根拠に!?」
「あの顔を見れば分かるでしょ?」
祈はマロンちゃんを指差して見せた。
そこにあった顔はずっと同じ表情だった。
「変わらない表情」で僕達を見ている彼女の答えは決まっているようだ。
「・・・・・・後者はあり得無い。 プロフェッサーを裏切る事は私には無理」
「分かった。 次に会う事が会ったらムリヤリ壊してあげるから覚悟しておきなさいね? 人形さん」
マロンちゃんの答えは帰る事。 当たり前の返答にも思えるが、帰るという事は、また敵対する可能性があるという事。 それを分かった上で祈は帰そうと言うのだ。
それは一種の宣戦布告であり、マロンが研究所に帰る事で、僕達の存在を改めて相手に認識させる意味がある。
そんな危険があるのにアッサリ帰すのは、何をされても「打ち勝つ」自信があるという事も同時に言っているようなものだ。
何も考えも無く「面倒だから帰って」という意味では絶対に無い。
それは祈だから言える。
彼女が無駄な動きをしているのは見た事が無いから・・・。
「貴女みたいな子は嫌いじゃないわ。 お互い何もわだかまり無く会えていたら面白かったかもしれないわね。 変な事言うかもしれないけど頑張りなさい。 その分全力で相手してあげるわよ」
そう笑ってマロンちゃんの肩をポンと叩いて視線で出口に促す祈。
「・・・ありがとう」
お礼の言葉を口にするマロンちゃん。
直接手を出しては居ないが、お礼を言われるような事はしてないと僕は思ったので目が丸くなってしまった。
何に対してのありがとう?
逃がしてくれてありがとう?
祈を止めてくれてありがとう?
それとも脊椎反射?
その答えを確認する暇も無く、マロンちゃんは部屋から、相談所から出て行った。
僕は祈の体を放した。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
部屋の中には僕と祈の二人だけ残っていた。
足元に「人だった物が落ちている」が、人権が無くなった者は勘定に加えない。
「それにしても・・・何か大体分かってきた気がするよ」
「うん? 何よ急に?」
先程の二人の会話を聞いて、謎だった話が繋がった気がした。
それが嬉しくなって推理小説の探偵のように指を立てて僕は語った。
「うん。 祈がどうして此処に来たのかって事だよ。 最初は僕がミノリを手に掛けた事でその償いをさせられているのかと思っていたけど、そうじゃなかったみたいだね」
「はぁ? 私は一度もミチオが悪いなんて言ってないでしょ?」
そう言われるのは分かっていたので僕は頷いた。
「うん。 言って無いね。 だから違うとは思っていたんだけど、ならどうして祈が居るのかってのが分かったよ」
「へ、へえ・・・」
祈が珍しく動揺していた。 その反応に気分を良くした僕は一気にまくし立てた。
「祈は研究所に仇を討ちに来たわけだね? それで利害が一致しているラビアンローズの人達を迎え入れた。 だけど、活動する場所が無い。 それで僕に接触してきた。 違う?」
「ふぅ~ん・・・。頭使うようになったじゃないの」
それに感心するように祈は目を細くした。
「あ、じゃあ正解なんだね?」
「正解・・・・・・なわけないでしょ? ラビアンローズが接触してきたのは偶然だし、岩倉研究所の事も偶然よ。 必然は一つしか無いわ」
溜めて言われてベタにコケそうになってしまった。
必然は一つ?
「中々面白い見解だけどね。 もしミチオの言った通りなら私はラビアンローズに予め接触して無いといけないわね? それで演技だとしてもミチオを騙す為に敵対しているように思わせて仲間に引き入れたりした。 そうする事で 「成り行き」を演出したわけね? でも、それなら夜の仕事の時にあの子達が暴れたりしたのも同じ様に演技だとも取れるわね」
「あ、ほら。 そうだろう? それにイキナリ仕事が来てその場にマロンちゃんが現れた事も説明が付くじゃないか。 予めあの場所に来るって分かっていたからついでに仕事をしようって事で」
言われて祈は少し悲しそうな顔をして聞いてきた。
「なら、私は最初に出会った時に小木曽達の仲間を倒したのはどう説明するの?」
「それは口裏を合わせていれば簡単じゃない? 僕はあの時ちゃんと見てなかったんだ。 その一瞬の内に倒したなんておかしいだろう?」
「ふぅん。 じゃあ私はミチオを利用しに来た。 そう言いたいのね?」
静かに目を閉じて言う祈。
それが観念したようにも見えたが、実際はどうだか分からない。
「そういう事。 一週間も経ってやっと分かったよ」
これまでの事をずっと考えていた。
祈のおかしな行動を纏めると、元々計画的に動いていたとしか思えない。
そうなると、ラビアンローズ達がこの相談所に居るという理由も頷けるし、追い出そうとしない祈にも納得できる。
そう思っていると、祈は大袈裟に溜息を付いて僕の目を見ながら口を開いた。
その目は好意的な目では無かった。
「そこまで疑われたら仕方無いわね。 最初から話してあげましょうか。 だけど、今ミチオが言った事は面白いけど違うわよ。 作り話としては良いかもしれないわね」
「え・・・違うの? それも嘘じゃ・・・」
「まず、私がそんな面倒な事をすると思う? それは人の性格だと言えばそれまでだけど、さっきも言った通り偶然よ。 もし本当に私の目的が研究所の撲滅だとしたら、さっきの子は帰すわけが無い。 小木曽に引き渡すか殺していたでしょうね。 それに小木曽達と面識があるなら彼女達が探していた久美子って子も知っていたハズよね? あんな迷惑娘を知っていたなら今頃床に転がしてないでしょうに」
「そうかな? それも演技だったんじゃ・・・」
「それにミチオは怪我をしたわね。 それまで計画してたっていうなら私は血も涙も無い冷血な女って事になるでしょうね。 後、両親の仇だった相手が来ると分かっていたなら直接私が戦えば良かったんじゃないの?」
僕の呟きを無視して祈は続けた。
「あ・・・えと・・・」
「それも嘘だとしたら、私の妹や両親が死んだ事も嘘って事になる? 研究所を知っている理由は言ったわよね? だったら考えてね? 私はそんな目的でミチオに接触しに来たならどうしょうも無く愚か者よ?」
「どういう事?」
「わざわざミチオを騙してまで此処で暮らさないで、何処か隠れやすいアパートでも借りれば済む話じゃないそれって? 研究所と面識の無いミチオを巻き込んでまでする事じゃないわよ。 私はミチオに感謝はすれど、恨みなんて無いわよ?」
「恨み・・・ならあるんじゃないの?」
僕は祈の妹を撃ったのだ。 恨まれていても仕方無いと思った。
だが、それが最大の失言だったらしい。
祈から完全に失意の色が窺えた。
「・・・逆恨みはしないわよ。 何を言っているのかは分かるわ。 貴方が撃ったのは私だって言いたいんでしょ?」
祈が言ったのは今朝考えていた事だった。
そこまで読まれていたらしい。
「・・・・・・」
「そうよ。 撃たれたのは私。 ミノリはもうその時は死んでいたわ。 思い出したのねミチオ・・・」
「・・・やっぱり・・・。 あの時撃ったのは一発だった。 祈が最初に話した時には二人とも撃ったような事を言っていたからね」
「なら、どうして私は助かったのかしらね? 頭を撃ったハズでしょう?」
「こっちが聞きたいよそれは」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
数秒の沈黙。
それから黙っていても仕方無いという様に、祈は髪を留めているゴムバンドを指差した。
「コレのおかげよ」
そのゴムバンドに付いている飾りが、祈の指で弾かれて揺れる。
「え? まさかそんなもので・・・」
「これね。 ミチオがくれたのよ? それは覚えて無いでしょうけどね」
「・・・・・そうだったの?」
「クローバーを貰ったミノリが羨ましくて強請ったら、こんな物を寄越すんだから貴方は・・・。 こんな安物で・・・」
髪を束ねているのは二つの意味があったという事らしい。 一つは怪我を隠す為、一つは僕から貰ったという思い出の品だという意味で・・・。
「それでツインテールだったわけなんだね・・・」
「割れちゃったから玉は代えてるわよ? でも、この髪飾りと、クローバーがあったから私は助かったと思う。 それも奇跡的にね。 ミチオがなんて言おうと、これは貴方のおかげなのよミチオ」
「ぐ・・・偶然だよ」
「あら? そんな偶然は認めるの? さっきと言ってる事が違うように思えるわよ?」
「そ・・・それとこれとは話が違うんじゃないの!?」
「一緒よ。 どれも同じ神による偶然なんだもの。 私はね、貴方に会いに来た。 ただそれだけなのよミチオ」
「・・・・・・神のきまぐれって言ったら怒る?」
「天罰物よ。 理屈じゃ分からないでしょうけど・・・私はミチオを愛しているわ。 これで満足?」
「な・・・!?」
突然の祈の告白。
驚きを隠せずに居ると、祈は淡々と続けた。
それは告白したというには何の熱意も情熱も無く冷めたような口調だった。
「だから裏切らないし、騙さない。 私はミチオの為に此処に居る。 そしてミチオが好きだから此処に居る。 それに打算があるって言うなら滑稽すぎる愚か者よ」
「・・・・・・・・ご、ごめん。 なんて言ったらいいか・・・」
自分自身何を謝っていいのか分からなかった。 だけど、謝らないといけない気持ちは強くて弱々しく謝罪する。
その謝罪は、祈の乾いた笑いを引き出すだけだったが・・・。
「・・・ううん。 謝るのは私の方よ。 イキナリこんな事言うつもりは無かったけど、貴方が私を疑うからいけないのよ? もう、私は隠す気は無いわ。 ミチオが好き。 だけど、今はこんな姿になっているから釣り合わないわ。 ・・・・・・だから言わなかったのよ」
「・・・そ、そんな事・・・」
「無いって言えるの? もしミチオが答えてくれたとしても、結婚も出来ない、エッチな事も出来ない、世間に認められない。 そんなのは私の方が嫌よ」
「え・・・っちって祈。 で、でも!」
とんでも無い事を言われたが、それをツッコむような空気じゃないので口篭ってしまう。
「・・・もういいわよ。 これで分かってくれたでしょう。 私はそれで構わないわ。 でも、言っちゃったからには私は此処に居られないわね・・・」
寂しそうに言う祈。
「え・・・」
「このまま一緒に居たら答えを出さないといけなくなってしまうでしょ。 ミノリが出て来て勝てなかったらどっちにしろ不幸じゃないの。 だから・・・此処に戻って来れないようにするわ」
「い・・・祈! ちょっと待って! それってつまり・・・」
「研究所の事は気にしないで、その事だけは後始末つけていくから・・・」
「待ってって! そんな事より祈はその後・・・自分で自分を殺めるって事じゃないの!?」
「・・・・・・さようならミチオ。 本当に・・・愛していたわ」
祈は最後にそう言って、僕の前から居なくなった。
その時の彼女の瞳には・・・涙が浮かんでいた。
僕はその場で動けないでいた。
消えそうな声で呟く。
「なんだよ・・・祈って・・・いつも勝手過ぎるよ。わけわかんない・・・」
9月の7日。
祈はその日出て行ってしまった。
【聖夜に銃声を 9月7日(2) 「誤ってしまった日」終わり】